●請願法による減額更正の研究●

●平成1649日掲載

いきなりタイトルから分かりませんよね。

説明しますと、日本は法治国家です。つまり、我々国民の生活の権利と義務が法律によって統治されている国なのです。その、法治国家の根本の法律が憲法なんですね。これは、分かりますよね。この憲法には、我々国民の権利と義務が書いてあるんです。もちろん、戦争放棄などの、国外に対する対外的な日本の姿勢も書いてあるんです。

 この憲法に、我々国民は、国や地方公共団体などに、請願をすることができると書いてあるんですね。請願とは、旺文社の国語辞典によれば「@心から願い出ること A国民が、政府(国会・内閣)やそのほかの公共団体に、その権利の救済・公務員の罷免・法令・規制の制定や改廃などについて不満や希望をのべること。」と、あります。

 次に、憲法の条文を記載します。

(請願権)

 第16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止、又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

 この「請願」とは、あくまで「お願い」なんですね。つまり、「お願いできる権利」ということです。国民として、当然要求できる法律上の「権利」ではないんです。例えば、税金で言えば、申告をしたけれども税金を多く納めすぎていたことが分かった場合には、国税通則法という法律で、法で定められた申告期限(個人だったら3月15日・3月決算法人であれば5月末日)から1年以内に「更正の請求」という手続きを税務署に要求することができるんです。これは、法律で定められた「権利」なんですね。ですから、納税者から、「税金を多く納めていたから返してくれ」と「更正の請求」を法定申告期限から1年以内すれば、税務署は調査をして確認して間違いがなければ、納税者が多く払った税金を返さねばならないんですね。「更正の請求」を出された税務署は、調査して返還するという「義務」が国税通則法に規定してあるんです。

 では、税金を多く納めすぎていた場合、この「更正の請求」の期限である1年を過ぎてしまった場合には、我々納税者は、税務署に対し「税金を多く納めすぎてたから返してくれ」と、当然に要求できる法律上の権利はないことになります。つまり、法定申告期限から1年間しか法律上の権利である「更正の請求」はできないんです。

 では、「更正の請求」とは、我々納税者に認められた法律上の権利ですが、「更正の請求」の期限が過ぎてしまった場合には、多く納めすぎた税金は戻らないのか、と思われるかも知れませんが、そうではありません。税務署は、減額更正をすることができるんです。更正とは、「一度申告した税額を正しく直す」という意味で、増額の更正もあれば減額の更正もあるのです。そして、税務署は、申告された税額や欠損金が正しくない場合には、増額更正も減額更正もしなければならないんです。

通常、税額が過少の場合、我々納税者が自ら正しい税額を計算して増額の申告をすることを修正申告と言い、この修正申告は、税務署が更正するまで「することができる」ことになっており、税務署も納税者自ら行う修正申告を薦めるんですね。この修正申告をしたら、納税者は、後日、税務署に文句を言うことができないんです。修正してしまった内容が間違いで、修正申告の必要がないことが修正申告後に判明しても、後の祭です。修正申告した部分については、税務署に異議申立てすることも、国税不服審判所に審査請求することも、裁判所に訴訟を提起することもできないんです。だから、税務署員は、後腐れのない「修正申告」を薦める訳です。

 もし、納税者が修正申告を薦められてもそれに応じない場合には、税務署は更正処分をしてきます。つまり、増額更正の手続きをとることになるのです。この増額更正の場合、納税者がその増額更正の処分内容に不服がある場合には、税務署に異議の申し立てをすることができます。そしたら、税務署は当初の調査に従事した税務署員とは別の署員に再度調査をさせて、納税者の言い分も聞かなければならないんです。そして、異議申立てを却下された場合には、国税不服審判所に審査請求をして、納税者の主張を審判官に伝えて判断してもらうことができるんです。これらの不服申立ての手続きは、国税通則法という法律に規定してあるのです。このように、納税者にとっての権利と税務署にとっての義務が法律に規定してある訳です。

 さて、「請願」とは、以上のような納税者にとっての法律上の当然の権利ではありません。従って、お願いされる国側の方は、必ず「請願」を聞いて、何らかの行動を義務付けられている訳ではありません。「お願いをする権利」は、憲法16条に規定はされているのですが、法律上の権利と義務を規定していることではないんですね。

 では、税務署は、当初申告した税額が過大であった場合には、減額更正をしなければならないと、国税通則法に規定されているのですが、これが、積極的には対応していないのが現実なのです。税務調査で過大申告を発見したら、彼ら税務署員は減額更正しなければならないと法律には規定されていますが、減額更正などしても、彼らにとってなん成績にもならないので、知らん顔を決め込むのです。100%知らん顔という訳ではありませんが、それでもかなりの割合で無視されることが現状なのです。

 では、税務調査で過大申告が判明したり、又は、税務調査の前に事前に過大申告に気づいた場合には、どうしたらいいんでしょう。いや、まだ方法はあります。そうです、「請願」があるのです。憲法16条の請願権に基づいて、請願法という法律が制定されています。憲法16条だけでは、具体的な請願方法がハッキリしませんので、請願法が制定されているのです。請願法は、少ない条文なので、ここに記載します。

請願法

(趣旨)
第1条       請願については、別に法律の定める場合を除いては、この法律の定めるところによる。

(請願の方法)
第2条 請願は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し、文書でこれをしなければならない。

(請願書の提出先)
第3条 請願書は、請願の事項を所管する官公書にこれを提出しなければならない。天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない。

 A請願書の事項を所管する官公署が明かでないときは、請願書は、これを内閣に提出することができる。

(提出先を誤った請願書の処置)
第4条 請願書が誤って前条に規定する官公署以外の官公署に提出されたときは、その官公署は、請願書に正当な官公署を指示し、又は正当な官公署にその請願書を送付しなければならない。

(請願の処理)
第5条 この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。

(差別待遇の禁止)
第6条 何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

 この請願法で注目すべきは、第5条です。つまり、「請願」は、お願いすることであって、法律上の当然の権利ではありませんので、お願いを受けた官公署は、必ず処理しなければならない法律上の義務はないんですね。ですから、国民の「請願」をより強固なものとするために、請願法第5条によって、官公署に誠実に処理するように要請しているので。「誠実に処理をしなければならない」と、規定していても、官公署が処理する義務や罰則を規定しているのではありません。あくまで、官公署の裁量(意思)によって、請願事項が処理されるのか処理されないのか決定されるのですが、「誠実に処理をする義務」が、請願法第5条に規定されている意義は、大きくて深いのです。

 仮に、官公署に対し、憲法と請願法によって「請願」しても、該当の官公署が「誠実に処理」しなかった場合には、行政評価事務所に、苦情相談に行くことができます。【請願法という法律に則って「請願」したけれども、その官公署は、誠実処理義務違反をしている】ので、注意してもらったり、誠実に処理するように催促してもらうこともできるでしょう。また、法律に従わない官公署のことを「法律違反をしている官公署がある」と、マスコミに報道してもらうこともできます。ここが、非常に重要なんですね。つまり、「請願」を受けた官公署に、その請願事項を処理する法律上の義務や罰則はないけれども、国民の請願権を保証している憲法や請願法に違反していると各所に主張できる訳です。場合によっては、実名報道もできるのです。

 やはり、役所は世間に騒がれたり批判されることには弱いのです。法律を率先して守らねばならない公務員が、おおっぴらに請願法違反をしていると騒がれることは困るのですよ。間接的に請願事項を強制することが可能になるのです。

 ですから、減額更正の場合、税務署に対して文書で「請願」すれば、税務署は「誠実に減額更正をする義務」が発生することになる訳です。ですから、この義務を遵守しなければ、行政評価事務所やマスコミに向かって大騒ぎできるのです。(笑)

 ところが、平成14年6月12日の東京高裁の変な判決がでたのです。つまり、ある税理士さんは、突然、過大申告であった事実を納税者である会社から相談されたのですが、すでに減額更正の期限が数日に迫っていたのです。それで、税理士は、減額更正のことを納税者に教えないでそのままにしていたんですね。現実には、申告期限がギリギリに迫っており申告作業で手一杯だった上に、その過大申告の内容を計算することが複雑で時間を要することでもあったし、数日で税務署が還付の処理をしてくれるとことは事実上不可能だと経験則で判断していたんです。

 しかし、納税者である会社は、税理士から「減額更正」のことを教えてもらわなかったので、会社は多く払いすぎた税金が戻ってこなくなったという理由で、税理士に対し損害賠償請求訴訟を起こしたんです。そして、高等裁判所では、税理士が減額更正の「嘆願」(たんがん)をしなかったことには損害賠償義務があるという判決が下りたんです。これは、我々実務界に衝撃が走りました。何故か。それは、いくつかあるのですが、一番大きかったことは、減額更正の「嘆願」をしなかったことに対し賠償責任が認められたことでした。

 「嘆願」とは、法律上何の意味も地位も持っていません。にも拘わらず、法律の専門家中の専門家である東京高等裁判所の裁判官は、「嘆願」しなかったから税理士が悪いと言っているのです。「嘆願」とは、「江戸時代の名主が代官所に提出したもの」だそうです(山本守之税理士解説)。つまり、「お代官様ぁ〜。オラ達が納めた年貢は納めすぎだったです。どうか、納め過ぎの年貢をオラ達にお返しくだせぇ〜。お代官様お願ぇですだぁぁぁ〜」と、言いなさいと裁判官は我々国民に示したのです。

 まったくバカにした話だとは思いませんか。確かに、実務界では、「嘆願書」という文書で、税務署に対し減額更正を要請することはあるのです。しかし、それは現場サイドでの話しであって、法律の専門家の中の専門家である裁判官が、江戸時代のお上に対するお願いをしなかったから税理士が悪いを言うのですよ。憲法の請願権の条文も請願法も知らないのでしょうね。

 本来、法律家のはしくれである税理士の賠償責任を問うのであれば、法律行為をしなかったことを問うべきですし、又、不法行為を問うべきなのです。「嘆願」などという法律用語でもないような、江戸時代の用語を使用するなど、現代の裁判所はバカ丸出しです。山根さんの冤罪事件でも、最高裁判所は、貸倒損失の計上を誤ったことが「偽り不正な行為」であり懲役刑に相応しいとの高等裁判所の判断を支持したのです。おかげで山根さんは、懲役刑が確定し、現在執行猶予中の身にさせらせたのです。

 また、「ぶっ殺すぞ」発言をした佐賀の検事もいましたね。日本の司法制度は崩壊している、と指摘するジャーナリストもいます。やはり、大きな変化もなく監視されることもなければ、「官」は、傲慢病・堕落病にかかってしまうのですね。税務署とて、同じことです。税務署員にボールペンを投げつけられた税理士もいるのです。こういう「官」の批判をしていると、私も冤罪で個室(拘置所の独房)に送られることも考えられます。なんとも、情けない時代になってしまいました。

 さて、愚痴ばかり言っても仕方ありませんね。ちなみに、増額更正の期限ですが、脱税の場合はどの税目でも7年です。そして、単純な計算誤り等の増額更正の場合、所得税、消費税、相続税は3年・贈与税は6年(平成15年改正)・法人税は5年(平成16年改正)です。減額更正は、いずれの税目でも5年となっています。起算日は、法定申告期限の翌日からです。所得税の場合、法定申告期限は3月15日ですから、平成15年分の減額更正の期限は、平成16年3月16日から平成21年3月15日までということになります。

 請願法による減額更正を要請する文章の書き方は、事実内容が分かれば形式は自由なのですが、既に、実践されている税理士の方が、実例を掲載した本を出版されているので参考にされて下さい。

     Q&A 納税者のための税務相談 
   著者 浦野広明 
   出版社 叶V日本出版社
   定価2,100円(税込)

 当方で、請願法による減額更正の事例が出れば、ここで紹介することにします。

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