タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

9話『歯科医院の秘密』

 (バレたら大変!) 8

 

(お見合いパーティー会社の紹介で知り合った桃子の務め先の歯科医院での税務調査。トイレ電話にて、沖山税理士から税務調査の対応の手ほどきを受ける多田税理士は、困惑気味だ。)

 

「いいかね。当月分当月払いの場合と、当月分翌月払いの場合とで考えてみようかねえ。12月に働いた給料を12月中に支払った場合にはね、その支払った月にその支払った金額が必要経費になるのはわかるよねえ。25日払とかで多少日数のズレは無視してね。いいい。」

 

「あつ、はい。分かります。しかし、ここの場合は当月分を翌月払いなので混乱しているんです。」

 

「うん。分かっているよ。だからね、12月分の給料を翌月1月に支払った場合にね、まず、支払いはしているから、給与の支払いを受けた場合という条件はクリアしているよね。現実に支払ったわけだからね。まあ、待って待って。だから、12月中に支払っていないから年内の必要経費にならないって指摘されたんでしょう。でも、給与の支払いが実行されていることに間違いはないんだよ。それでね、いつの必要経費になるのかなんだけど、ここが気をつけたいところなんよ。」

 

「う〜ん。まだ理解できません。」

 

「うん。じゃあ、12月中に働いた給与をもらう権利は12月中に確定するよね。1月に確定するから1月になってから支払い義務が発生した訳ではないよね。」

 

「はい、そりゃあ12月に働いた訳ですから、その労働の対価を請求する権利はその働いた月に発生し確定していると思います。はい。」

 

「そう、その給与の支払債務の確定のことをね、その支給に係る年分の必要経費にするって57条は言っているんよ。つまり、12月の労働の対価は12月に発生し確定しているのだから、その12月分の給与は年内の必要経費にするってことなんよ。ただし、12月に労働をして12月中に支払債務が確定したからといっても、翌年になってもまったく支払わないと、12月分の青色事業専従者給与は認められませんよって解釈すれば分かるかなあ。」

 

「わっ分かります。そうかあ、そういうことだったんですね。同じ12月の労働に対する支払債務なんだから、12月中つまり年内の必要経費になるわけなんですよね。その労働債務の支払いが翌月になろうとも、労働債務の確定した年の必要経費にするのは当然ですよね。なんで、気付かなかったんだろう。」と、やっと支払と支給の区別が理解できた多田税理士の喜びの声だ。

 

「ははは。分かったようだねえ。つまりね、生計を一にする親族である青色事業専従者ではなくて、赤の他人の従業員さんの労働債権のことを考えれば分かると思うけど、従業員が働いた場合にね、その労働の対価を請求する権利は当然発生しているよねえ。例え、事業者の資金繰りの都合で2ヶ月3ヶ月未払になったとしても、つまり、その月に支払っていなくても当然その労働債権は蓄積していくよねえ。」

 

「それはもう当然のことと思います。従業員さんに給与の支払いを約束して働いてもらいながら、その給与を払わないなんて詐欺みたいなものじゃないですか。はい、これくらいは分かります。」

 

「そうだよね。当然だよね。じゃあ生計を一にしている親族が従業員として働いた場合にも、その労働債権は赤の他人の従業員と同様と考えられるよね。そうすると、生計を一にする親族の場合に、いろんな事情で簡単にその事業者の労働債務の支払いが行われないことも考えられるよねえ。そうすると、青色事業専従者給与は、労働の実態があってその職務に相当な範囲の給与を親族ではない従業員と同じように認めようというものだから、青色事業専従者についても適正な労働債務の支払いを要求しているとも考えられるよね。」

 

「なるほどですね。通常、給料の支払いも当月分当月払いもあるし、当月分翌月払いもありますよね。支払った月にしか必要経費に認めないとしてしまったら、おかしなことになりますねえ。だって、10.11.12月と働いてもその支払いが年内に行われないで、翌年1月になってしまった場合に、10.11.12月分の給料が年内の必要経費にならないで翌年の必要経費になるなんて、労働債権、債務の確定と必要経費の時期がずれてしまってまったく合理性がなくなってしまいますよね。そういうことなんだあ。はあ〜。」と、安堵のため息とつく多田税理士であった。

 

「う〜ん。ちょと違うよね。通常はね、未払いになった経緯に相当の理由があって、かつ、短期間に現実の支払がおこなわれているような場合に、青色事業専従者給与の未払経理が認められると解釈されているんよね。税務署の職員の方達が監修した問答集なんかには、月末の青色事業専従者給与を月末の資金繰りの関係で翌月10日に支払った等の場合は未払経理が認められると書いてあるんよ。この等が問題やね。どこまで、未払いの経緯に相当の理由があると判断するのは難しいんよね。それでね、他の従業員と同じく当月分の翌月支払の給与形態であれば、未払いの経緯に相当の理由があると考えていいと思うんよね。それがねえ・・・」

 

「はあ、やはり、赤の他人の従業員と青色事業専従者とじゃあ違うんですね。」

 

「うん。赤の他人である従業員さんの場合には10.11.12月分の給料の未払経理は認められると思うよ。だって、従業員さんは立派に労働債権をもっているんだから、自分が働いた分の給与を請求する権利があるからね。で、青色事業専従者についても、その労働の対価という面では、従業員と同じく労働債権が確定したと考えられるけれども、必要経費と認められるための条件を満たしているのかといえば、何とも難しいような気もするよね。3ヶ月も未払にしておいたことに相当の理由があるのか疑問だよね。正確に判断しずらいよね。未払経理に相当の理由がないと判断された場合にはね、10.11.12月の未払経理も認められないし、10.11.12月分を未払経理しないで翌年まとめ払いしても、そのまとめ払いした時の必要経費にもならないと思うよ。つまり、必要経費となる条件が成立しない場合には、後でまとめて支払ったとしても、その青色事業専従者の10.11.12月の労働の対価を必要経費にすることはできないことになるんよね。」

 

「はあ、そうですか。労働者の労働債権が確立した年の必要経費になると思ったんですが、青色事業専従者の場合には、所得税法が認める条件を満足させないと必要経費にはしてくれないんですね。」

 

「うん。そうなんだよ。そちらのように給与の翌月払いは、給与の支払形態としては社会常識的に行われている訳なんで、適正な労働債務の支払が行われているから、未払の経緯に相当の理由があると私は考えるね。でも、青色事業専従者の給与だけ、3ヶ月遅れたり、支払わない月があったりすると問題になると思うよね。そもそも、適正な労働債務が発生していないのではないかとも考えられるからね。」

 

「なるほど、通常の給与の支払形態を逸脱した場合まで、青色事業専従者給与を認める訳にはいきませんよってことなんですね。ふ〜ん。」

 

「未払の経緯に相当の理由があるかどうかの判断は難しいものがあると思うけど、私は自分の判断で当月分翌月支払を継続実行しているのであれば、青色事業専従者給与の未払経理に相当の理由があって、かつ、短期間にその支払を実行していると考えていいと思っているのでね。多田さん、あなたも、自己責任で対処してくださいな。」

 

「はっ、はい。もちろんです。最後は、自分できっちり考えて主張するようにします。先生、貴重な参考意見をどうもありがとうございました。」

 

「はいはい。そいじゃあ・・ツーツーツ」

 

 携帯電話をしっかり握り締めていたので手にベットリと汗をかいていた多田税理士は、携帯電話を上着のポケットにしまい、手帳のメモを読み返し、頭の整理に23分時間をかけた。

 

「よし、なんとか反論できそうだな。」

 

 調査官に対する反論の準備ができた多田税理士はトイレを出て、調査官と歯科医院の妻礼子の待つ応接室に戻ってきた。二人は、ソファーに腰を下ろした多田税理士が口を開くのを待った。

 


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