タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

9話『歯科医院の秘密』

 (バレたら大変!) 7

 

(お見合いパーティー会社の紹介で知り合った桃子の務め先の歯科医院での税務調査。対応に苦慮した多田税理士は、沖山税理士にトイレ電話するのであった。)

 

 一通り税務調査の状況を話した多田税理士は、沖山税理士の返事を待つのであった。

 

「はい。わかりました。まずは、青色申告の要件のことだけど、随分細かい事を持ち出す調査官やねえ。確かに、青色申告の要件は、結構厳しくて細かいんよ。でね、法人税法と所得税法はほぼ同じような帳簿類の作成要件を課しているんよ。でね、厳密に青色申告の要件を満たしていないと、その調査官の指摘するように、その帳簿類の不備があった年まで遡って青色申告を取り消されてしまうことになるんよ。」

 

「はあ。青色申告が何年も遡って取り消しされたら、大変なことになりますよね。特に、青色事業専従者給与が何年にも渡って取り消されたら、毎年何百万円も必要経費が否認されてしまうんですね。うわあ〜。大変なことですね。」と、落胆する多田税理士。

 

「うん。そうなんよ。青色申告の特典も色々あるけど、やっぱり多田さんの言うとおりに青色事業専従者給与の否認の影響は大きいんよ。だから、記帳能力の低い個人事業者はね、青色申告するのも考えもんだという場合もあるんよねえ。でね、個人事業の場合にはね、特例があってね、そうそう所得税法施行規則56条に規定されているんよ。条文集手元にあるの。」

 

「あっ。いや、すみません。今、トイレの中だもんで条文集はありません。」

 

「そうね、トイレね。少しエコーがかかってる気もするね。ハハハハ。それでね、その56条にはね、財務大臣の定める簡易な記録方法及び記載事項によることができる、って規定してあるんよ。だから、その調査先は簡易帳簿で記帳しているんで、青色申告の要件を満たしていると考えていいんじゃない。その点、を調査官に主張してみてね。」

 

「はい」必死に、手帳にメモを書く多田税理士。

 

「まあ、参考だけど。仕訳帳はね、法人も個人も通常の青色申告の場合にはね、作成義務も保存義務も両方あるんよ。でも、貸借対照表・損益計算書と総勘定元帳があれば税務調査も可能な訳だから、ことさら仕訳帳の作成要件が満たされていないから、青色申告取り消しをほのめかすなんて、細かいね。精神的に揺さぶってくる作戦かもしれんね。もちろん、仕訳帳の作成に関しては、青色申告の要件なんで、作成保存してた方が無難だよね。」

 

「はあ、そうですか。仕訳帳は、出力してないところもありましたけど、安全のためにも今後は印刷するようにした方がいいですね。」と、自分自身の顧客のことを振り返る多田税理士であった。

 

「まあ、さっきも言ったようにね、貸借対照表・損益計算書と総勘定元帳があれば調査可能だし、その内容も仕訳帳と同じ内容な訳だから、仕訳帳だけ出力していないからといって、即、青色申告取り消しなんてことにはならないとは思うけどね。あっ、ついでに、棚卸し表も作成義務も保存義務もあるからね。気をつけといた方がいいよね。」

 

「あっ、はい。勉強になります。」

 

「でね、青色事業専従者給与なんだけど、普通に支払っていないとダメだと理解している人が多いと思うんだけどね、それはね、ちと条文の解釈をねもう少しつっこまなくちゃいけいないと思うんよね。」と、沖山税理士の声の歯切れがよい。

 

「ど、どういうことでしょうか。私も、先ほど所得税法57条を読んでみたんですけど、やはり、給与の支給を受けた場合の、その給与の支給に係る年分の必要経費に算入する訳ですから、やはり、12月分を12月中に支払っていないと、その12月分は年内の必要経費にならないと言われてしまうと、そうなのかなあって思っちゃうんですけど。」と、自分の解釈を話す多田税理士。

 

「じゃあ、ちょっと長くなるかもしれないけど、その所得税法57条は、事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例のことを規定してあるんだけど、その条文の一つ前の56条にはね、事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例が規定してあってね、生計を一にする配偶者や親族が受け取る対価についての原則が規定してあるんよ。まず、ここを押さえておこうか。」

 

「はい、なんか、ちょっとその56条ですか、その必要経費の特例が原則だなんてさっぱり分からないんですけど。え〜。」と、眉間にシワがよる多田税理士。

 

「ははは。そうね。じゃあね、まず、事業をしている個人がね、その事業に対して労務の提供をしてもらった場合、つまり、働いてくれてた人にはその労務の対価として給料を払うのは当然だし、その給料はその働いてもらった期間の必要経費になるのは分かるよね。」

 

「あっ、はい分かります。」と、至極当然のことをなぜ言われるのか理解できない多田であった。

 

「うん、当然やねえ。ところが、その事業に従事してくれたのが、生計を一にする配偶者や親族の場合にはね、財布の右から左にお金が動いたのと同じで、他の必要経費のようにその家の財布から外部に出て行っていないので、その対価はその事業をしている人の必要経費にはできません、ってことなんよ。そして、その親族が受け取った対価はその親族の所得にはならないことになっているんよ。んで、対価はね、労務の対価もあれば賃貸の対価もあるんよね。ここまでいいい。」

 

「あっはい。例え、そのを労務や賃貸の対価であっても、それが、生計を一にする一家の財布から見て、外部に出て行かないような対価については、まずは認めないよってことでしょうか。でも、働いたり何かを賃貸してその対価をもらうのは当然だと思うんですけどねえ。」と、首をかしげる多田税理士。

 

「うん、そうなんよ。その労務の対価として払うことは当然なんだし、払っても構えわないし、払っても贈与ということにはならないんよね。ただ、事業者と生計を一にする親族への対価の支払いは、その事業者の必要経費には認めませんってことなんよ。この56条の言わんとするとこはね。ただね、車とかを生計を一にする親族が賃貸した場合にね、その対価は必要経費に認められないけれども、その親族が払ったその車の自動車税なんかはね、車を借りた事業者の必要経費に加えることになっているんよ。」

 

「へ〜、その親族が支払った経費は事業者の必要経費になるんですね。少しは救われる気がしますが、でも、実際に働いてその対価を払っても必要経費にできないなんて可哀想ですよねえ。」

 

「うんそうだね。ここまでが、生計を一にする親族への支払いの特例のことなんだけど、多田さんの言う通りにね、実際に働いてその対価としてふさわしい金額であれば、青色申告を条件に認めてあげようというのが所得税法57条の1項に規定してあるんよ。だから、働いた対価を支払うことが条件ですよって意味ね。働いても無給はダメですよ。また、支払って、即、その給与としての対価を戻すようなことは認められませんよってことなのよ。その給与の支払を受けた場合ってのはね。ここまではいいね多田さん。」

 

「あっはい。生計を一にする親族でも、実際に働いていて、その対価として妥当な給与で、その届出書の範囲内の金額であれば、青色申告をしている事業者について、青色事業専従者給与の届出を条件に認めましょうということなんですね。それも、実際に支払うんですよってことですね。はい、わかります。でも、だから、12月分は翌年110日に支払っているんで、年内の必要経費になりませんってことになんの変化もないように思うんですけど。ん〜ん。」と、沖山税理士の説明に納得するも、調査官の指摘を覆すことにはなっていないと思う多田税理士であった。

 

「はは。まあ、ここまでの話だったらそうかも知れんね。あのね、その571項の後の方にね、給与の支給に係る年分のその事業所得の必要経費に算入するって規定してあるんだけど、ここをどう解釈するのかってことがポイントなんやと思うんよ。」

 

「はあ〜。」と、思考停止の多田税理士。


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