タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

9話『歯科医院の秘密』

 (バレたら大変!) 5

 

(お見合いパーティー会社の紹介で知り合った桃子の務め先の歯科医院での税務調査。調査官より青色申告の要件を満たしておらず、多額の青色事業専従者給与が否認されると指摘された。)

 

青色申告の要件に該当していないのではないかとの指摘に、多田税理士は即座に回答を見いだせなくて考えこんでしまった。山上歯科医院の妻山上礼子は、自分の青色事業専従者給与が遡って否認されると指摘され狼狽気味である。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり、青色申告の要件を指摘されても、法人と個人では違うところがあるかも知れませんし、まだ、私もこちらの記帳状況を完全に把握していないものですから・・。青色申告の要件についてもちょっと確認したいんですけども・・。」と、明快に回答できないであせり気味の多田税理士であった。

 

「青色申告の要件ですか。法人も個人も似たようなものでしょう。やはり、複式簿記で毎日仕訳帳を書いて、総勘定元帳も作成する義務がありますよ。あっ、それに貸借対照表と損益計算書も作成義務がありすし、棚卸表も作成義務がありますね。」と、まくしたてる田代上席調査官であった。

 

「え〜、貸借対照表も作成義務があるんですか。これまで、青色申告決算書は損益計算書しか記入していないんですけど・・。」と、驚く礼子であった。

 

「ああ。多田先生。条文集があるじゃないですか。法人税法施行規則の確か53条から青色申告法人の決算や帳簿に関すことが書いてあるはずですよ。確かめてみてくださいよ。個人の場合も、同じだと思いますけどね。私も、まだ所得税の方までは確かめたことはないんですけどね。」と、多田が持参した条文集を指差す田代上席調査官。自信満々である。

 

「ああ、そうですか。これから、確認してみたいと思いますけど。でも、今まで青色申告でやってこられた訳ですから、今のままでも青色申告の要件を満たしていると考えてもいいんじゃないですかねえ。ねえ、奥さん。これまで。青色申告で何か問題でもありましたか。前の税理士さんは、何か言っておられなかったでしょかね。」と、これまで無事青色申告で確定申告してきたことに気付く多田税理士であった。

 

「前の税理士さんから青色申告できませんよ、なんて言われたことはありませんわよ。」と、多田の主張に同調するように何度も頷く礼子であった。

 

 多田税理士に、これまでの所得税の確定申告が無事に済んでいることを指摘され、腕組して考え込む田代上席調査官であった。

 

「まあ、そうですね。そう言われれば、そういうことも考えられますね。でも、所得税の青色申告の要件にどういう風に合致しているのか、提示してくれませんか。当方も、まだ個人課税部門に移って間もないものですから。」と、急に笑顔を作る田代上席調査官。

 

「えっ、所得税の青色申告の用件ですか・・。これまで、青色申告でこられた訳ですから、問題ない状態のはずですけど、まだ条文を確認していないですので。もうちょっと待ってもらえますか。」と、多田税理士。

 

「多田先生。私どもの帳簿の状況では、青色申告はダメなんでしょうか。青色申告の要件に当てはまらないとしたらどこがいけなかったんでしょうか。」と、心配この上ない礼子。

 

「あっ、いえいえ。先ほども言いましたように、これまで青色申告でスムーズにきた訳ですから、問題はないと思うんですけど、確かなところをですね、あの・・条文とかをですね・・ちょっとまだ提示できないものですから、ちょっと時間を頂きたいと思っているんですよ。」と、明快に応えられず、あせる多田税理士。

 

「コンコン」と、応接室のドアが鳴った。桃子が、コーヒーを持ってきたのだった。3人分のコーヒーをテーブルに置き「どうぞ」と、桃子。

 

 多田税理士と田代上席調査官は軽く頭を下げた。桃子は、多田税理士にだけ見えるようにウィンクをして、微笑むのだった。多田税理士は、微笑み返す余裕はなかった。桃子は、そのまま応接室に残されていた食器などを整理していた。

 

「奥さん。唐突なんですが、去年の1月分からですが、奥さんの青色事業専従者給与が値上げされているんですが・・」と、田代上席調査官が言い終わる前に、慌てて口を開く礼子であった。

 

「ああ、私の専従者給与ですね。はいはい。毎月頂いておりますの。ちゃんと働いてますもの、ねえ、当然ですわよね。ちゃんと、青色事業専従者給与に関する届出書も出してますでしょ。給与の支給額も届出金額の範囲内に納まっていますでしょ。私、経理業務全般と給与計算と、社会保険事務所関係の事務も担当してますのでね。仕事の内容と給与のバランスはOKだと思ってますのよ。」と、勝手に話し出す礼子。

 

「あっ、桃子ちゃん。ここはもういいから。仕事戻っていいわよ。」と、桃子に応接室から出るように促す礼子であった。桃子は、素直に応接室を出たのであった。

 

「いえいえ。その専従者給与の変更届出もキチンとされているので感心ですね、と申し上げたかった訳なんですよ。それに、職務内容と給与のバランスは、難しい問題ですけど、奥さんの場合は毎日業務に従事されているので、まあ問題はないと思っています。今後も、手続き関係もお忘れなきようよろしくお願いします。」と、穏やかな口調の田代上席調査官。

 

 ホットした表情に戻る礼子は、コーヒーに手を伸ばし一口すすっては「ホット」軽くため息をついたのであった。

 

 多田税理士は、調査官と礼子のやり取りをじっと聞いていたのだが、礼子が突然饒舌になったことに不自然さを感じてはみたものの、その話の内容に不信さを感じないでいたのだった。特に、問題になる内容ではなかったはずだ。

 

「はい。ところで、去年の11月から専従者給与の支給者が増えておられるのですが、義母と届け出てありますので、奥さんのお母さんということでよろしいでしょうか。秋山フサさんですね。清掃業務で、月10万円の支給額で届出てありますね。実際の支給額は月7万円ですか。」と、資料を手に話す田代上席調査官。

 

「ええ。丁度、去年の10月中旬に主人の許可も出たので母と同居するようになって、それで、何もしないと体がなまってしまうので、朝と昼休み時間に院内と玄関回りの清掃をしてもらうことになったんです。仕事内容と給与金額のバランスが問題なんでしょうか。」と、調査官に質問する礼子であった。

 

「ええ。そのバランスもあるのですが、実際に毎日清掃業務をされているのでしたら、まあ、問題ないとするしかないと思うんですが。ところで、こちらの給与の支払いは、末締め翌月10日払いですよね。それで、秋山フサさんの青色事業専従者給与ですが、11月分と12月分の2ヶ月分の14万円を必要経費にされていますが、支払ったのは11月分を12月10日に支払っただけなので、7万円だけ必要経費となるのであって12月分の1月10日支給分は、去年の内に支払ったのではないので必要経費に算入できないんじゃないでしょうか。」と、田代上席調査官は指摘するのであった。

 

「えっ、そうなんですか多田先生。私の分も職員の給与の分も末日締めの翌月10日払いなんですけど。」と、青ざめる礼子。

 

 即座に返答できない多田税理士は、腕組みして考え込むしかないのであった。

 

「こないだ署で研修したばかりなんで、条文番号もはっきり憶えているんですけど、所得税法57条には青色事業専従者給与について、届出書に記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、親族に対する対価の支払いであっても必要経費に算入することができると規定してあるんですね。そうそう、多田先生、条文集が手元にあるじゃないですか。是非、今読んで確認してみて下さいよ。」と、又も、多田の条文集を指差す田代上席調査官であった。


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