タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

9話『歯科医院の秘密』

 (バレたら大変!) 第3章

 

(お見合いパーティー主催会社からの紹介で二人の女性と連日出会う多田税理士。歯科医院に勤める桃子を尋ねる多田税理士であった。)

 

「コンコン」というノックのすぐ後に、山上礼子が応接室に入ってきた。いかにも、上品な奥様風である。

 

「はじめまして、山上の妻でございます。当医院の経理を担当しております。本日は、わざわざお越し頂きありがとうございます。」

 

「いいえ。桃子さんから是非力を貸してほしいと言われまして、とりあえず何かお役に立てることがあればと思って参上致しました。あまり、期待しないで下さい。当方としましても、こちら様のことは全く知りませんので、税務調査の立会いといってもお役に立てるかどうか、はなはだ疑問ではあるんですね。」

 

「いえいえ、多田先生。うちはそんなに難しいことはしておりませんから、ご心配には及びません。」と、ニッコリと微笑む山上礼子であった。

 

『そんな。自分からうちは色々ありますからなんて言わないよなあ。何が出てくるのか分からんからなあ。早目に退散できればいいんだけどなあ。桃子さんの手前断りきれなかったけど。まあ、こちらの歯科医院の場合、至極特殊なケースだからいきなり税務調査の立会いは無理だってことにすれば桃子さんも納得してくれるだろう。』と、心の中で思う多田税理士。

 

「実は、税理士さんには確定申告の時にお世話になっていたんですけれども、今年その税理士さんが亡くなってしまったんですね。それで、先週税務署から税務調査の連絡が入ったんですけど、調査に同席してくださる税理士さんがいなくて困っていたんですよ。それで、受付の桃子ちゃんやらお友達やら色んな方にご相談していたんですよ。それで、桃子ちゃんから最近税理士さんと知り合いになったから頼んでみたら『OKだって言ってもらいました』って携帯電話から報告してくれたんでほっとしていたんですよ。私共の所はそんなに複雑でもありませんし、叩いてホコリなんてでませんから、調査のご同席をお願いできないでしょうか。あまり、税務署を待たせる訳にもいきませんし・・。」

 

「はあ、そうですか。それは仕方がありませんね。で、過去の申告書とか帳簿とかは、今どこにあるんでしょうか。前の税理士さんの所にまだあるのなら、ちょっと当方ではどうにもなりませんよ。」と、断る理由を探す多田税理士であった。

 

「はい。申告書の控えは開業の年の分から保存しておりますし、帳簿や領収書も全部当医院に保存してありますわ。届出書の控えもちゃんと保存していますので、なんら問題ないと思いますけど。」

 

「そうですか、資料的には問題なさそうですねえ。でもなあ・・・。」と、腕組で考え込む多田税理士。

 

「そう言えば、多田先生は、海田磯子ってご存知ではありませんか。」と、山上礼子はニッコリと微笑む。

 

「えっ、えっ。海田いい磯子さんですか。えっ、え〜。」と、どうして、お見合いパーティー会社から紹介された女性の名前が出てくるのか不思議がる多田税理士であった。

 

「フフ。桃子ちゃんもキューピットとか言うお見合いパーティー会社の紹介なんでしょ。海田磯子も同じ会社からの紹介なんでしょ。ね、多田先生。正直におっしゃいなさいよ。」と、屈託のない笑顔の山上礼子。

 

「え〜、何と申しましょうか。その、なにですね。」と、シドロモドロの多田税理士。

 

「やっぱり、そうだったんだ。ピッタンコカンカンって感じですね。海田磯子って私の友人なんです。主人の後輩でもあるんですけどね。よくここにも遊びに来てたんですのよ。で、桃子ちゃんも税理士さんと会ったって言うし、磯子も税理士さんに会ったって言うし、しかも年齢まで同じとくりゃあこりゃあ同一人物だってピンときたんですよ。いえ、いいんですよ。桃子ちゃんは可愛いし、磯子は美人だしね。うふふ。これから、恋の物語がどんな風に語られるんでしょうかね。楽しみですわ。ほほほ。」

 

「いやあ。あの、たまたま続けて連絡がありまして。そのお、本来は一人づつお付き合いをするのが、その筋と申しますか・・・。」赤面の多田税理士。

 

「いえいえ。多田先生。人の恋路をどうこう言うつもりはまったくありませんよ。桃子ちゃんにも磯子にも黙っていますから。しっかり、がんばってくださいね。先生。それで、税務調査の件ですけれど、お引き受けくださいますよね。よろしいでしょう。」

 

「あっ、はい。分かりました。乗りかかった船です。お引き受けしましょう。ははは。」照れ笑いする多田税理士であった。

 

「じゃあ、税務署に調査の日程と、税理士さんが見つかったって連絡しますね。よろしくお願いします。」

 

『あ〜あ。何にも知らない納税者の税務調査なんかしたくなかったんだけどなあ。でも、びっくりしたなあ。桃子さんの勤め先の奥さんが磯子さんの友達だったなんてなあ。あの奥さんには、なんか秘密を握られてしまった格好になってしまったなあ。早くどっちかに決めないといけないんだろうけどなあ。桃子ちゃんは可愛いし、磯子さんはキレイだし。う〜ん、悩んじゃうなあ。』と、考え込む多田税理士。

 

「多田先生。来週の月曜日に朝10時から調査ということでよろしいかしら。私の方から税務署に電話しますね。もし、税務署の方の都合が悪ければ早目に先生にご連絡しますので。よろしくね、先生。」と、テキパキと今後のスケジュールを決める礼子であった。

 

 受付まで見送った礼子は、奥に戻っていった。多田税理士が税務調査の立会いを引き受けたことを知った桃子がVサインで迎えるのだった。

 

「多田さんって優しい方ですね。桃子嬉しくなっちゃうなあ。奥さんもホットされてたし。これで、院長も安心できます。ありがとうございます。」と、ペコリと頭を下げる桃子。

 

「いやあ。まだ、調査が終わった訳じゃあないし。これから始まる訳で。いやあ、何が出てくるのか分からないんで不安ではあるんだけどね。」

 

「まあ、そうなの。じゃあ、今度の土曜日の午後にでも税務調査の対策会議をしましょうか。コンチネンタルホテルの喫茶店でお茶しましょうか。ね、多田さん。」

 

「そそうだね。でも何か対策を練らないとマズイことでもあるのかなあ。桃子さんは、何か山上歯科医院のことでマズイことでも知ってるの。」

 

「いえいえ。私なんか、何も知らないんだけど。私の知ってる範囲のことを事前にお話しておいた方が何かと都合がいいのかしらって思ったの。」

 

「そそうだね。受付での業務とか、仕事の流れやお金の流れなんか聞いておいた方がいいよね。じゃあ、土曜日にね。」

 

土曜日の午後。コンチネンタルホテルの喫茶店。

 

「だいたいの流れは分かったよ。受付事務やカルテの整理、窓口現金の管理は桃子ちゃんで、支払や経理業務は奥さんが一人でやってる訳ね。給与計算も奥さんがねえ。それで、医療報酬の請求は、桃子ちゃんと院長が共同でやっているんだね。」

 

「うん。院長はカルテの整理なんかにはうるさいのよ。でも普段はやさしいんです。」

 

「ああ、そうなんだ。やさしいねえ。それで、桃子ちゃんは何か気になることないかなあ。」

 

「う〜ん。特にないけど・・。でも、奥さんがね、『これは知られたくないなあ』って、ポツリとこぼしてたことがあったわねえ。確か給与計算をされていた時だと思うわ。それくらいかしらね。気になることって。」

 

「そう、給与計算の時に、知られたくないとこぼしてた訳ね。ふ〜ん。なんか怪しい匂いがするなあ。」と、多田税理士の額にシワが出現。


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