タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

9話『歯科医院の秘密』

 (バレたら大変!) 第2章

 

(お見合いパーティー主催会社からの紹介で出会った女性から相談される多田税理士。彼女の勤務先のことでの相談事があるようだ。)

 

「私が勤めているのは山上歯科医院て言うですけど、近いうちに税務署の調査があるらしいんですけど、奥さんが税理士さんを探していらっしゃるんですよ。」と、花田桃子の可愛い唇が動いた。

 

「え〜、でも今まで申告はされてきたんでしょうからお付き合いのある税理士さんがいるんじゃないですか。いきなり税務調査だけの依頼なんて普通じゃないですよ。僕も今までめったに経験ないですよ。それに、その山上歯科医院さんのこと全然知りませんしねえ。」と、困惑気味の多田税理士であったが、松嶋菜々子に似た彼女に興味津々であった。

 

「院長は、おやさしくて歯科医としての腕も抜群で、人としても尊敬できる方なんです。その院長も奥さんが困ってらっしゃるのを気にされているんですね。それで、多田さんが税理士さんだってことなんで相談してみようって思ったんです。だって院長の悩んでいるお顔を見るのってこっちも辛いんですよ。」と、眉間にシワを寄せた表情が可愛らしい桃子に更に心引かれる多田税理士であった。

 

「ふーん。困ってらっしゃるんですねえ。桃子さんのお勤め先は。まあ、僕で何かお役に立てればとも思いますが・・今すぐOKですとも言えませんよねえ。」

 

「ええ。今ここでお返事いただかなくても結構ですよ。来週にでも奥さんと会ってお話を聞いていただけないでしょうか。それで税務調査は引き受けられないって思われたら断られて結構ですから。」と、頼み込む桃子の可愛らしい表情に更に心を動かされる多田税理士。

 

「そうですねえ。桃子さんの頼みとあれば断れかせんねえ。じゃあ、来週訪問できる日程を連絡しますね。桃子さんの携帯に電話してよろしいですか。」

 

「はい。私の携帯でOKですよ。今日の内にでも院長と奥さんにはお話しておきますから。きっと安心されると思います。今日は多田さんにお会いできて本当に良かったわあ。桃子も安心です。あのう、もし良かったら明日の日曜日に劇団四季のライオンキングを観にいきませんか。私、招待券を2枚持っているんです。妹と行こうと思ってたんですけど、多田さんと一緒にいっちゃおうかあなあ。フフ。」と、屈託なく微笑む桃子であった。

 

 桃子の笑顔につられて微笑み返す多田税理士であったが、明日の日曜日は女医の海田磯子とのデートの約束があることを思い出したのだ。

 

「ああ、残念。せっかく誘ってくれたのに、明日は緊急な仕事が入っててね。うん、相続の仕事でね。日曜日にしか相続人の方が一同に揃わなくてねえ。めったに日曜日に仕事は入れないんだけど、明日だけは特別なんだ。僕も、仕事するより桃子さんと観劇の方が良いに決まってますよお。残念だなあ。アハハ。」

 

 その後、終始なごやかな会話を2時間程楽しんだ二人であった。来週、桃子の勤める歯科医院に訪問する約束を確認した二人は、コンチネンタルホテルの喫茶店を出て別れたのであった。

 

「いやあ〜。桃子さんって、若くて可愛くて良かったなあ。でも、税務調査の依頼があるなんて思っても見なかったなあ。いきなり、税務調査に付き合うなんてなあ。何が出てくるか分からんし、山上歯科医院さんの納税意識も分からんしなあ。ちょっと困るけど、桃子さんの笑顔には勝てんもんなあ。へへ。」

 

 多田税理士は、かなり花田桃子を気に入っているようだ。一瞬、明日の海田磯子との面会も断って、桃子と観劇に出かけようとも考えたのだが、明日の女医さんとの出会いも捨てがたいと思う多田税理士であった。

 

 日曜日の午後3時。連日コンチネンタルホテルのロビーに立つ多田税理士は、白のパンタロンスーツの女性を探していた。程なくして、それと分かる女性がロビーに入ってきた。多田税理士の方から声をかけた。

 

「あのう。海田さんでいらっしゃいますか。」

 

「はい。多田さんですね。こんにちわ。海田です。本日はよろしくお願い致します。何分、こういうことって不慣れなものですから・・」と、首をかしげて微笑む磯子に目を奪われた多田税理士は、とっさに返事を忘れてしまうほどであった。『おお、なんて美人なんだ。竹内結子に似ているなあ。』

 

「あっ、わっ私の方こそよろしくお願いします。ハハハ。ここじゃあなんですから、あそこの喫茶店でも入りましょうか。」と、磯子を案内して一緒に喫茶店に入る多田税理士であった。

 

昨日、桃子と来た時と同じウェイトレスが水を持ってきた。連日違う女性と同じ喫茶店で同じ時間に面会している多田税理士をどう思っているのだろうか。ウェイトレスは、無表情な笑顔で注文を聞く。

 

 多田税理士はコーヒーを、磯子は紅茶をオーダーした。多田税理士は、前日と同じく自分の方から名刺を女性に渡したのだった。

 

「あら、税理士さんなんですね、多田さんは。」

 

「はっはい。会社も作ってますので、会社役員も事実なんですけど、税理士って知らない方もいるんじゃないかと思いましてね。プロフィールには会社役員ってことにしたんですよ。」

 

「あら。私は税理士さんって職業は、前から知っていましたよ。私達の同業者も沢山お世話になっている職業ですからねえ。私も先々お世話になるかも分かりませんわよ。」

 

「磯子さんは、女医さんだと出会いアシスタントの方から聞いたんですけども。その、専門などお聞きしても構いませんか。」

 

「ええ。構いませんよ。私は歯科医なんです。今は、勤務医なんですけど、将来は自分の医院を持ちたいなって思ったり。でも、失敗したらと思うと怖くなったりで、なかなか決心がつかないんですよね。それに、税務署が入ったら必ず税金を払わされるって聞きますし、なんか恐いし面倒ですよね。」

 

「そりゃあ、歯科医院だって経営ですから大変なことも多いですよね。でも、税務署に関しては、キチンと帳簿をつけて、事業以外の経費を入れ込んだり、収入を誤魔化したりしてなければ何にも恐くないですよ。普通、税理士も立会いますしね。」

 

「あら、そうなんですか。多田さんが立ち会ってくださるのなら心強いでしょうね。フフフ。」

 

「いや、そりゃあハリキッテ頑張りますよ。磯子さんのためなら。持てる力の120%を発揮しますよ。」

 

「あら。頼もしい方ですわねえ多田さんって。私のお友達にご紹介したかったですわ。でも、もう今は見つかりそうなんですって。世の中、結構税理士さんを探しているんですねえ。」

 

「ああ、そうなんですか。お友達の方で税理士さんを探されている方がいらっしゃるんですか。へえ〜。昨日もある方から税理士を探してるって言われましてねえ。それで、取りあえず会うことにしたんですけどね。」

 

 二人は、話のきっかけがつかめたのかたっぷりと会話を楽しんだ後、再会の約束をして別れたのであった。

 

 翌月曜の午後、桃子の携帯に電話する多田税理士であった。そして、山上歯科医院訪問の日程は、水曜日の午前10時となった。そして、当日山上歯科医院の受付を訪ねると、土曜日に会った花田桃子がいた。

 

「多田さん。いらっしゃい。来てくださって嬉しいわ。ちょっと、この待合室で待っててくださる。奥様に連絡しますからね。」

 

 さほど待つこともなく、受付の奥の応接室に案内された多田税理士は、この後山上院長の妻と面会することになるのであった。そして、即座に税務調査を引き受けるのであった。


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