タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

9話『歯科医院の秘密』

 (バレたら大変!) 第1章

 

土曜日の7時過ぎ。多田税理士は、自宅でくつろいでいた。テレビのニュースを見ていたのだが、突然、ブルブルと携帯電話が震えたので、手に取り相手先の電話番号をみると、登録先ではなく、市外局番からの電話番号が表示されていた。どこからの電話か判らず一瞬ためらったのだが、テレビの音声を消して携帯電話に出ることにした。

 

「もしもし。こちらお見合いパーティーを開催しております株式会社キューピットと申します。私は、出会いアシスタントの山中と申しますけれども、こちらのお電話は多田様の携帯電話でよろしかったでしょうか。」と、明るい女性の声だ。

 

「あっ、はい。そうですけれども・・」と、突然のお見合いパーティーの主催会社からの電話に言葉が出ない多田税理士であった。

 

「はい。私どもキューピットでは、お客様に登録して頂いたデータを女性のお客様に情報公開して、出会いを希望される場合には、お電話で相手の男性をご紹介するサービスを行っております。今回、多田様のプロフィールをご覧になって出会いをご希望の女性、桃子様がいらっしゃいますけれども、いかがなさいますか。多田様もパーティー以外でも出会いをご希望だと当方のデータに記録されていますが・・。医療関係にお勤めの28歳の女性ですよ。」

 

「は、はあ・・。」と、多田税理士は困惑気味だ。

 

 そして、やっと気付いたのだ。「そうか。以前、ホテルのお見合いパーティーに行ったことがあったよなあ。ああ、あの時そんな登録したよなあ。」

 

「もしもし、出会いをご希望ではございませんか。ご迷惑でしたら電話を切りますけれども、いかがなさいますか。」

 

「いえいえ。すぐに思い出せなかっただけです。分かりました。覚えています。はい。で、出会いを希望します。」と、少々声が上ずっているようだ。

 

「はい。では、これから、桃子さんに電話しまして、連絡がとれましたら、再度、多田様の携帯に当方からお電話をします。そして、桃子様と三者通話でお話して頂きまして、お出会いの場所を決めていただきます。そして、お互いの携帯電話の番号を交換して頂きまして、それで、お出会いの前日の夜に、桃子さんから多田様へ電話して頂いて最終確認をして頂きます。ここまでよろしいですか。」

 

「はい。分かりました。自宅にいますので、何時になっても構いません。」と、すっかり乗り気の多田税理士。

 

「では、これから桃子さんに連絡してみますので、お待ちください。当日、連絡が取れない場合には、多田様へ電話しませんので、よろしくお願いします。」

 

「はい。分かりました。よろしくお願いします。」と、携帯電話を切るニコニコウキウキの多田税理士。

 

 突然の女性との出会いの電話に驚く多田税理士。「こんなことがあるのか」と、不思議に思うのだが、自分と15歳も歳の違う若い女性との出会いが向こうからやって来たのだ。はしゃぐのも無理はない。

 

 多田税理士は、独身であり、人生のパートナー探しにお見合いパーティーに何度か参加していたのだが、やはり、初対面で何人もの女性と話をするのは緊張し精神的にも疲れるのでおっくうになり、パーティーから遠ざかっていたのだった。なので、女性からの面会希望システムの存在なごまったく忘れていたのだった。そうこうしている内に、多田税理士の携帯が震えた。

 

「もしもし。キューピットの山中ですけれども。」

 

「はいはい。多田です。」

 

「こんばんは。桃子さんと連絡がとれましたので、これから三者通話でお話頂きますけれどもよろしいでしょうか。はい。じゃあ、お相手は花田桃子さんです。桃子さん、聞こえますか。はい。じゃあ多田史郎さんです。それでは、どうぞお話下さい。」

 

「は、はじめまして。花田桃子です。よろしくお願いします。」

 

「あっ、はじめまして。多田と申します。よろしくお願いします。え〜と。」と、挨拶の後、何を話してよいのやら検討もつかない多田税理士であったが、すぐに、キューピットの女性担当者が話しに加わった。

 

「はい。それでは、多田さん来週の土曜日の午後はご都合いかがですか。桃子さんのご希望なんですが。はい。ああ、多田さんもよろしいですね。では、午後3時にコンチネンタルホテル1階のロビーで会われたらいかがでしょうか。1階には喫茶店もありますからね。それと、お互いに、携帯電話の番号をおっしゃって下さい。はい、多田さんからどうぞ。はい、では桃子さんの方からもどうぞ。では、桃子さん、金曜日の夜に多田さんの携帯に連絡して下さいね。」

 

「多田さん、それでは前日の金曜に桃子さんから連絡が入りますから、時間場所の変更がないか確かめて下さいね。それと、面会されてからですが、相手方とお付き合いをご希望されるのかされないのかお返事を当社までご連絡下さい。1週間以内にお願いします。それでは、電話をお切り下さい。」と、あわただしく出会いアシスタント山中からの電話が終わった。

 

 翌日の日曜日の夕方。沖山税理士の携帯電話が震えた。今度も、登録先からの電話ではなかったが、多田税理士は電話に出た。

 

「はい、もしもし。」と、自分からは名乗らない多田税理士であった。

 

「もしもし。私は、お見合いパーティーでお馴染みの株式会社キューピットと申します。多田さんの携帯電話でよろしかったでしょか。」と、又してもキューピットからの電話である。今度は男性の声だ。

 

「あっ、はい。多田ですけれども。何か不都合でもあたんでしょうか。」と、前日の花田桃子の都合が悪くなった連絡かと思った多田税理士であった。

 

「えっ、私は初めてお電話差し上げていますけれども。実は、私どものパーティーに参加された方で、あなた様との出会いをご希望の女性がいらっしゃいまして、女医さんで海田磯子さんとおしゃるんです。年齢は、多田さんより随分お若くて35歳でいらっしゃいますけれども、出会いをご希望になられますか。あっ、申し遅れました、私出会いアシスタントの小森と申します。よろしくお願い申し上げます。」

 

「あっ、はい希望します。」と、今度は即答し、ガッツポーズをする多田税理士だった。

 

 この後、前日と同じように三者通話となった。

 

 そして、来週の日曜日の午後3時、同じくコンチネンタルホテル1階のロビーでの出会いとなった。

 

 思わぬ女性との出会いの電話に単純に喜ぶ多田税理士は、ウキウキした気分で一週間を過ごしたのだった。そして、金曜の夜の花田桃子からの電話確認も済ませ、土曜日を向かえたのだった。精一杯、オシャレをした多田税理は、コンチネンタルホテルの1階で、前日聞いていた花柄模様のワンピースを着た桃子を見つけたのだった。

 

「はじめまして、多田です。花田さんですよね。」

 

「あっ、はじめまして、花田です。よろしくお願いします。」

 

 二人は、そのまま1階の喫茶店に入った。二人とも注文を済ませると、多田税理士は自分の名刺を桃子に渡したのだった。

 

「あら、多田さんて税理士さんなんだ。プロフィールには会社役員って書いてありましたよね。」

 

「ええ、税理士って書いても、サラリーマンのご家庭の方だと分からないかも知れないと思いましてね。」

 

 桃子は、多田の名刺をじっと眺めてから、「多田さん、私の勤め先の奥さんの相談に乗ってもらえないかしら。個人経営の歯科医院なんです。私の勤め先。」


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