タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

9話『歯科医院の秘密』

 (バレたら大変!) 10

 

(お見合いパーティー会社の紹介で知り合った桃子の務め先の歯科医院での税務調査。簡易帳簿での記帳が、青色申告の要件を満たすことを正確に反論し、青色事業専従者給与についても反論する多田税理士。)

 

「し、しかしですねえ。実際に支払ってもらわないと必要経費にできない訳で・・。」と、田代上席調査官。

 

「だから、山上歯科医院さんのお二人の青色事業専従者の方には、実際に毎月給料日に支払っている訳で、青色事業専従者給与の届出も出してますし、その金額もその業務に照らして相当な範囲内だと判断できますし、当月分の翌月10日支払の給与の支給形態は一般的な形態と言えるものですし、未払いになった経緯に相当の理由があって、かつ、短期間に現実の支払が行われているのであって、こちらの青色事業専従者給与の未払いについては問題なしと判断できます。」と、厳しい口調の多田税理士。

 

「しかし、これまでも・・・。修正をですね・・・。」と、口ごもる田代上席調査官。

 

「こっこれまでも、修正申告ですって。他の事業所のことは知りませんが、これまで間違った修正申告の慫慂をしてきたんですか。」と。多田税理士。

 

「いえいえ。その修正などとは、その・・・。わっ分かりました。この青色事業専従者給与に関しましては、署に持ち帰って検討したいと思います。」

 

「はい、いいですよ。今、結論を出されなくても構いません。当方としましては、青色事業専従者給与については修正申告することはありませんので。ご承知おきください。」と、多田税理士はキッパリと言った。

 

「え〜と、ですね。そろそろ署にもどらなければなりませんので本日の調査はここまでということで終了させて頂いてよろしいでしょうか。」

 

「はい、当方はいいですよ。奥さんもいいですよね。」と、礼子に返事を求める多田税理士。」

 

「はい。もちろんです。これで、ホットできますわ。」

 

「では、次回の調査の日程なんですが、来週の月曜日の午前10時ではいかがでしょうか。まだ、売上の調査が終了しておりませんので、よろしくお願いします。」と、低姿勢の田代上席調査官。

 

「え〜。まだ、調査あるんですか。仕方ないよなあ。」と、自身の税務手帳をめくる多田税理士。

 

「じゃあ、来週の月曜日は、なんとか都合つけますので。10時ですね。奥さんは、ご都合いかがですか。」

 

「あっ、はい。私の方はもう大丈夫です。」と、大きく多田税理士にお辞儀する礼子であった。

 

 田代上席調査官は、帰って行った。山上歯科医院の応接室には、山上礼子と多田税理士の二人が雑談していた。

 

「多田先生、本日はもう大変ありがとうございました。まさか、青色事業専従者給与の未払いがダメだって言われるとは思ってもみませんでしたわ。」

 

「いやあ。私も急に言われてちょっと混乱しまして、即答できなかったんですね。条文の言葉って取っ付きにくいですからねえ。」

 

「先生のお話ですと、『支払』と『支給』を使い分けてあったような気がしたんですけど、そうなんですか。」と、ホットした表情の礼子。

 

「いや〜。その通りですよ。『支払』は、実際の給与の支払を意味しますし、『支給』は債務の確定を意味すると思っていただいて結構なんですね。青色事業専従者給与は、その届出をし、実際に届け出た仕事をし、そして、毎月給与の支払をすれば、必要経費と認めましょう。そして、その支払った給与の支給に係る年、つまり、労働債務が確定した年の必要経費にしてください、と規定してあるんですね。当月分当月払いであれば、『支払』も『支給』も同時なので、未払の問題はないんですけどね。」

 

「実際に支払っていないとダメだ、としか理解していないと、12月に働いた給与でも翌年1月に支払ったので、年内の12月の必要経費にならないと思い込んでしまいかねないですねえ。いやあ、先生のお話でよく理解できました。ありがとうございました。また、来週もありますが、よろしくお願いします。」と、深々と頭を下げる礼子であった。

 

「こちらこそお世話になりました。じゃあ、また来週月曜日にお伺いします。」

 

「あっ、それから、桃子ちゃんにも磯子にも、多田先生ってスゴク実力のある税理士さんで、とっても頼もしい方だって言っておきますのでね。ホホホ。」と、微笑む礼子。それに対し、何も言えず照れ笑いの多田税理士であった。

 

 多田税理士は、山上歯科医院の受付の花田桃子とは土曜日に、歯科医の海田磯子とは日曜日に、それぞれデートの約束をしていた。

 

「多田さん。調査じゃあ大活躍だったそうねえ。カッコイイなあ。桃子は、頼もしい方って大好き。奥様がしきりに褒めてらっしゃったわよ。私も、多田さんを紹介して鼻高々なんだよ〜。嬉しいわあ。」と、あどけない桃子であった。

 

「いやあ。まあ。それほどでもないさあ。普通だよ普通。」と、謙遜しながらも桃子に好印象を与えたと思うとウキウキする多田税理士であった。

 

「ねえ、桃子ちゃん。今度は、夜の食事でもどおお。夜景の素敵なレストランがあるんだ。」

 

「わあ、夜景の見えるレストランなんて、桃子嬉しい。」

 

 翌日の日曜日には、多田税理士は、海田磯子とデートしていた。

 

「多田さん。私のお友達の歯科医院の税務調査があってねえ。その税理士さんがねえ、とっても仕事ができる方らしくてね。その歯科医院の奥さんも私の友人なんで、私に紹介してあげるって言われちゃったんですよ。それでね、私、もう税理士さんのお友達はいるわよって答えたら残念そうな顔をしてましたわ。」と、優しく微笑む磯子であった。

 

「はは、そうですか。歯科医院の調査ですねえ。税務署も、業種を絞って調査することもあるようですからねえ。今年は、歯科医院が調査の重点業種なのかも知れませんね。」と、山上歯科医院の税理士が自分であることを言いそびれている多田税理士であった。

 

「ねえ、多田さん。私も将来開業したいと思っているんだけど、その時は、色々とお手伝いしてくださいね。私、事務的なことはまったく苦手で分かりませんの。」

 

「ええ、もちろんですよ。磯子さんが開業されるんなら、できる限りお手伝いさせてもらいますよ。ハハハ。」と、ガッツポーズでおどけてみせる多田税理士。

 

「その時はよろしくお願いしますわ。多田さん。ねえ、ところで、多田さんって子供は好きですか。」

 

「ええっ。そうですねえ。嫌いではないですが、自分の子供だったらかわいいんでしょうねえ。それが、どうかしたんですか。」

 

「えっ、いえ。ちょっと聞いてみただけなんです。多田さんてとっても優しいから、子供にもやさしいんだろうなって思ったんです。」と、磯子。

 

「他人の子供にまでは責任持てませんが、自分の子供だったら可愛がると思いますよ。ハハハ。それと、今度、夜景の素敵なレストランがあるので、いかがですか。フルコースでワインも料理に合わせて出してくれるんですよ。ワインはお薦めですよ。」と、多田税理士。

 

「まあ、嬉しいお誘いですわ。多田さんってワインが好きなんですね。じゃあ、多田さん専用のカルテにワイン好きって書いておきますわ。ホホホ。」と、会話が弾む二人であった。


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