タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?)  第6章

 

(多田税理士は、山崎調査官の修正申告の要請を拒むことができず、沖山税理士にトイレ電話で助けを求めたのであった。)

 

「不動産所得の地代収入が安すぎるという理由で修正申告を要求する事例って多いんでしょうか。沖山先生。」と、多田税理士。

 

「いや〜、今まで聞いたこともないねえ。今回の調査についてはね、まず所得税法第36条の収入すべき金額の解釈が間違っているね。ここんとこを主張せんといかんよ。多田さん。」

 

「え・・36条ですか・・・・」と、絶句する多田税理士であった。

 

「うん。36条やね。今手元に条文はあるね。」

 

「いいえ。すみません。今は手元にありません。」

 

「そうね。じゃあ私が読むとね。36条はね、『その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。』とあるんよね。つまり、収入すべき金額とはね、時価で収入しなければならないという意味ではないんでね。そこのところは大丈夫ね。多田さん。」

 

「えっ・・そのお・・そこのところがちょっとですね。」

 

「そうね。ここが一番重要なとこなんよ。つまりね、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とされているんよね。でね、その総収入金額というのはね、相手方との契約によって決定した金額のことなんよ。つまり、収入すべきとは、時価で収入すべきとか言うんじゃなくてね、契約で決めた金額を総収入金額にしなさいと言っているんよ。」

 

「はい、分かりました。つまり、相手と取り決めた金額を収入金額にするわけですから、定価みたいなもんですね。じゃあ、契約書どおりに入金していれば、その入金した金額を総収入金額とすればいいんですね。先生。」と、安堵の表情に変わる多田税理士。

 

「そう。ただし、その契約した金額、つまり、その不動産賃貸の対価は、時価以下でなければならんよね。時価を超えて相手方に支払っていれば、その時価を超える分は相手方に贈与したことになるからね。今回の場合は、時価より安いわけだから、契約した金額を収入すべき金額と理解していいんだよ。」と、淡々と話す沖山税理士であった。

 

「分かりました。ほっとしました。じゃあ、なぜこの調査官は、収入すべき金額を時価だと言っているんでしょうね。先生。」

 

「そんなの私しゃあ分からんよ。税法の理屈に合わない指摘だからねえ。今まで、地代が安いと指摘して修正申告をさせてきたんだろうねえ。信じられんことだけど、税理士や納税者が修正申告に応じてしまったから、そう思い込んでいるのかもしれないし、知っててわざととぼけているのかもしれんね。まったくあきれてしまう指摘だよ。嘆かわしいねえ。多田さん、しっかりがんばるんだよ。」

 

「はい、分かりました。ありがとう、ございます。あのお、ちょっとこの事例からそれますが、不動産賃貸の対価なんですが、いくら安くても構わないのでしょうか。」と、自信のない声の多田税理士。

 

「うん。個人対個人の不動産の賃貸の場合にはね、固定資産税相当額の対価の場合にはね、賃貸借ではなくて使用貸借となってしまってね、不動産所得の計算を収入も固定資産税も除外せねばならなくなるね。使用貸借だと、借りている者の権利は無いと同じだから、地主が出て行けと言えばその通りにしなくちゃならないのが使用貸借だから、賃貸借を前提とした不動産所得の計算から除外されることになるんよね。」

 

「あっ、そうですか。あまり安すぎても問題があるんですねえ。難しいですね。じゃあ、今回は、地主が個人で借主は法人ですよね。法人でも使用貸借はあるんでしょうか。」

 

「使用貸借の場合にはね、賃料の支払いもないも同然だし、借地借家法でも保護されないのでね、個人間では借地権の移動もないんだけど。建物の所有者が法人の場合にはちょっと事情が変わってくるんだよ。簡単に言えば、借地権を無償で返すことを届け出ることで、対法人でも使用貸借は認められて、権利金の認定課税の問題はなくなるんだよ。この場合でも、年率6%の相当の地代の認定をされることになっているんだよ。」と、よどみなく話す沖山税理士であった。

 

「じゃあですね先生。今回のような、地主個人で、建物所有が法人の場合で、法人が無償返還の届出を出していない場合にですね、固定資産税相当額の土地の賃貸借契約の場合には、どうなるんでしょうか。」と、湧き上がってきた疑問をぶつける多田税理士なのだが、トイレにこもった時間は刻々と過ぎて行く。

 

「多田さん、あんた今税務調査の最中なんやろうもん。時間は気にせんでいいとね。」

 

「はい、いいです。是非、教えてください。」

 

「うん、分かった。まず、個人地主の不動産所得の計算では、あくまで所得税法36条の適用があるので、収入すべき金額とは、契約した金額が総収入金額になるんよ。固定資産税評価額相当額だろうとなんだろうとね。それで、法人の方の所得計算だけど、結論から言えば、無償返還の届出という制度の前はね、法人に使用貸借は認められていなかったんだよ。つまり、法人は純経済人なんで、法人を当事者とする使用貸借はありえないことであって、それは賃貸借を使用貸借と偽装して地代の支払いを免除しているにすぎないと取り扱われていたんだよ。」

 

「そうすると、どうなるんでしょう。」

 

「そうするとね、法人の方では、権利金をやり取りする慣行のある地域で、個人地主が法人に土地を無料で貸して法人所有の建物の建築を承諾した場合には、権利金の認定が行われることになっているんだよ。」

 

「え〜、先ほど先生は、使用貸借の場合には、借地借家法の適用がないとおっしゃったと思うんですが。それでも法人税は権利金を認定する立場なんですか。」

 

「そう、地代が無料ということは使用貸借ということだから、借地借家法の適用はないので、借地権はないものと考えることになるんだけど、それは、個人間の話であって。法人税法では、法人が無償返還の届出も出さない使用貸借は認めない取扱だから、借地人を保護する借地借家法の適用がないのに、税法上の借地権は存在するという取扱が残っているんだよ。」

 

「え〜、法人税法ではあくまで法人は純経済人であるという認識を貫く姿勢なんですね。ということは、無償返還の届出書を提出する以外には、法人での使用貸借は認められず、賃貸借契約だと見られるんですね。じゃあ、今回の場合は、借地権の無償返還の届出なんてしていない場合にも、年率6%の相当の地代の認定があるべきなんでしょうか。調査官が指摘しているように。」と、頭フル回転の多田税理士。

 

「うん。今回の場合は、何の届出もしていないけど、賃貸借契約をしている訳だし、法人での借地開始当時に権利金の認定はなかったということだけど、それは、税務署が法人に借地権の受贈益を認定しなかっただけの話であって、今回の場合は土地の賃貸借契約書も存在している訳だから、法人は借地借家法の保護を受ける訳だから借地権は発生していると考えられるので、地代の認定を考えるとしても、底地の年率6%程度が借地権設定後の通常の地代として考えられると思うよ。つまり、借地権割合が30%だとすると、相当の地代年率6%×底地割合70%=年率4.2%の地代年率と考えられるね。でも、税務署が通達で言う年率6%の地代率自体に根拠もない訳だから、年率4.2%も高いと思うね。我々の勉強会のデーターではもっと安い地代でもいいのではないかと考えているんだよ。」

 

「分かりました。是非、先生の勉強会でのデータ―を教えていただけないでしょうか。お願いします。そして、ですね、賃貸借を使用貸借と偽装して地代の支払いを免除するとは具体的にどのような処理になるのでしょうか。」と、多田税理士の疑問は尽きない。


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