タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?)  第5章

 

(多田税理士は、事前に十分な下調べができないまま、キヨの弟の税務調査に立ち会った。山崎調査官の時価取引説の説明にも理解不能の多田税理士であった。)

 

「では、会社が建物を所有して、地主である戸田さんに地代を支払うようになってから、会社の方に税務署から権利金の認定課税を受けられましたか。」と、山崎調査官。

 

「えっ、会社にそんな課税なんか受けていないですよ。顧問の税理士さんもそんな認定課税なんていうことは言われませんでしたよ。」と、隆。

 

『なんだなんだあ〜。借地権とか認定課税だとか難しいことになってきたぞ。キヨさんにカッコイイ姿を見せられると思って弟さんの税務調査を引き受けたけど、なんか太刀打ちできない感じだなあ〜。』と、心中穏やかでない多田税理士であった。

 

「はい。では、ですね。借地権とは土地をずーっと借り続けられる権利だと説明しましたね。その財産とも言える借地権が会社に移転したのに権利金の認定課税が行われないで済む方法があります。通常、権利金という借地権相当額が会社に移転すれば、その後の土地の賃料は安くていい訳です。つまり、土地全体を借りるのでなく、底地部分のみを地主から借りていることになりますからね。でも、土地全体の地代として相当に高い地代を払うことで、借地している会社に借地権の移転がなかったとされています。」と、山崎調査官。

 

「つまり、土地1,000万円で借地権割合40%とすれば、400万円の借地権という価値が地主から会社に移転しまったら、地主は底地600万円に対する賃料しかもらえない訳です。それで、底地600万円に対して年率6%の地代が時価になるので年36万円の地代になります。でも、土地全体の1,000万円の年利6%の地代年60万円を払うと、借地権が移転した場合よりも地代を産み出す力は強くなっているので借地権は経済価値的には移転していないことと同じになるんですね。ですから、土地全体に対して年利6%の相当の地代を支払っていれば権利金の認定課税はないことになるんです。つまり、借地権相当額の財産が会社に移転したのに、会社に土地を借りた時に支払うべきであった権利金の認定課税を受けない場合には、相当の地代が土地の賃料の時価ということになるんですよ。税法は、そうなっているんです。」と、自身満々の山崎調査官であった。

 

 建物所有の目的で、土地の賃貸借が行われた場合、借地借家法という借主を強力に保護する法律が適用されるのだ。そして、半永久的に土地を借り続けることができるので、土地利用の面から言えば、土地の表面を利用できる権利、つまり、借地権と、土地の底部分しか利用できない権利、いわゆる底地権とに権利が別れてしまうことになる。そこで、税法では、借地権を財産と考えて、その財産の移転が行われたと同様のことがあった場合には、土地の一部売却と同じような課税をしようとしているのだ。

 

 借地権割合が30%以上の地域では、借地権の取引が行われているとし、その借地権が移転したのに権利金も支払わない借地権の移動について、認定課税をすることにしている訳だ。ただし、税法では、相当の地代(年率6%)という高い地代を払えば、借地権の移動はなかったものとする例外を設けているのだ。

 

「そして、当事者同士で土地の賃料を決めても、その土地の賃料の定価とも言える契約上の賃料が、土地の賃料の時価である相当の地代より少なかった場合には、土地の賃料の時価である相当の地代まで会社から地主に払ったことになるので、地主としては、契約上の賃料から相当の地代までの差額分の賃料分だけ不動産所得の申告漏れになるんですよ。だから修正申告してくださいと説明しているんです。戸田さんの場合、契約上の賃料年額240万円が定価ということになりますが、土地の賃料は時価の相当の地代になりまして年額で約564万円になりますから、差額年額約324万円の不動産所得の申告漏れになります。今年の申告は、相当の地代で申告してもらうとして、過去2年分の修正になりますので、よろしくお願いします。」と、山崎調査官は修正申告を迫るのであった。

 

「多田先生。やっぱり税務署の方が言われるように修正申告をしないといけないんでしょうかね。なんか定価と時価の話を聞くと、今回は妙に納得しちゃうんですけどね。」と、多田税理士の顔を覗き込む隆であった。

 

「えっ。ええ。う〜ん。一般には、定価と時価の関係は、そうなんですが・・。定価とは、つまり契約で決めた値段でして、時価とは、その財産なりの客観的な価値ですね。つまり、第三者間で納得する価値を時価と言ってますね。はい。」と、シドロモドロとなる多田税理士であった。

 

「どうなんですか、多田先生。」と、いら立つ隆。

 

「そうですねえ。じゃあ、地主である個人は、そのあなたの言われる相当の地代までの差額分の地代はまだもらっていませんよね。それでも、修正申告しなくちゃならないんですか。」と、やっと反論する多田税理士であった。

 

「そうですよ。当たり前じゃないですか。今からでも会社からもらってください。」と、キッパリと言い放す山崎調査官。

 

「はあ、そうですか。そうすると、会社は地代という経費が増えますよね。そうしたら、会社の方は所得金額が減るので、法人税を還付してもらえるようになるんですか。」と、自分でも疑問に感じることを反論する多田税理士であった。

 

「会社のことは私は関係ありませんよ。私は、個人課税部門の人間ですからね。ただ、今年からは会社は地主に相当の地代を払うことにして、過去の2年分は、一旦地代を受けとって、それから、その支払いを免除してあげたことになるんじゃないですか。ですから、過去2年間の会社の経理としては、地代という経費が増えるけれども、その地代の支払を免除してもらったという雑収入が同額増えるので、会社の方は、所得金額は変わらないんじゃあないですかね。だから、還付なんてないはずですよ。」と、山崎調査官。

 

「う〜〜ん・・・」と、腕組して目を瞑り考え込む

多田税理士であった。しばし、沈黙の時間が流れるのであった。そして・・。

 

「ちょっとすみません。トイレを貸してもらえませんか。」と、隆に訴える多田税理士であった。

 

「えっ、ええ。どうぞ。」と、店内のトイレの方に手の平を向けて案内する隆であった。

 

「急にすみませんに。ホント、急にお腹が痛くなってしまって。ホント中座してすみませんけど。ちょっとだけ失礼します。」と、隆と山崎調査官に頭を下げて、トイレに急ぐ多田税理士であった。

 

 トイレに入ったら、携帯電話を取り出した。そして、電話をかける相手は・・。そう、沖山税理士に電話をかける多田税理士なのであった。

 

「はい、沖山です。」

 

「あっ、先生。坂の税理士の多田です。今よろしいでしょうか。」と、沖山税理士が電話に出てくれたおかげで少しだけホットした多田税理士であった。

 

「先生。今、所得税の調査に立ち会っているんですけれど、調査官から地代が安すぎるって指摘されているんです。つまり、借地権という財産が無償で会社に移ったのにその分会社に課税されていない場合には、土地の賃料は、相当の地代とかが時価になるので、その相当の地代までの差額を修正申告するように言われているんですけど、やっぱり不動産所得の修正申告をしなければいけないんでしょうか。」と、掻い摘んで状況を説明する多田税理士であった。

 

 多田税理士は、なんとかキヨに気に入ってもらえるように活躍したいのだが、下準備のなさが税務調査での苦戦を強いられていたのだった。救世主を求めて沖山税理士に電話をかけた多田税理士であったが、説明不足のせいか、何度も、沖山税理士からの状況把握のための鋭い突っ込みにたじろぎながらも懸命に説明する多田税理士であった。ようやく、内容が伝わったようだ、沖山税理士からの税務調査対応のアドバイスが返ってきたのだった。


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