タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?)  第4章

 

(多田税理士は、彼女候補のキヨの弟の税務調査に同席することになった。調査官の自信満々の指摘に考え込む多田税理士であった。)

 

「時価取引違反ってなんのことですか。多田先生。いきなり専門的なことを言われたって私達素人にはなんのことやらさっぱり分かりませんよ。」と、多田税理士に質問する店主の隆であった。

 

「つまりですね。有限会社や株式会社のような法人については、法人税法という税法が適用されるんですね。それで、法人税法では、益金から損金を引いた残りを所得と言うんですが、この所得がプラスの場合に法人税が課税されるんですね。会計上の売上から原価や経費を引いた残りの利益と同じだと考えてもらって構わないんですが、税法独自の規定があって、利益イコール所得と言う訳ではないんです。」と、隆に説明する多田税理士であった。

 

「そして、益金を計算する際に、無償による取引についても益金を計算しなければならないことになっているんですよ。たとえ無償で商品を売ったとしても、その商品の時価までは売上、つまり、益金を認識しなければならないんですよ。分かりますか。」と、心配顔の多田税理士。

 

「ま、まあ。」と、頭をかいて目をパチクリさせて分かったふりをしている隆であった。明らかに理解していない隆に、説明を続ける多田税理士であった。

 

「つまり、ですね。このお店で時価500円の寿司を1個無償で私がもらったとします。会社としては、お金をもらっていないからといって、売上0円ということではありません。なので、売上500円と記録しなければならない訳です。つまり、掛け売上をしたと考えてください。明らかに商品の移転が行われた訳ですから、売上500円です。そして、代金が未回収となる訳です。これが、原則なんです。そして、無償であるということは、売掛金を免除したことになるんです。そして、その売掛金をもらえなくなった訳ですから、500円の売掛金という財産がなくなった分、会社は損をしますから、500円の費用つまり損金を認識することになるんですね。それで、その売掛金を免除した相手によって、会社の役員や社員だったら、500円の給与を支払ったことになりますし、私みたいな社員以外の人間だと、500円の寄付金を支払ったということになるんですね。」と、ジェスチャーを交えながら解説する多田税理士であった。

 

「なるほどねえ。そう決められてるんじゃ仕方がないんでしょうねえ。そういえば、その時価500円の寿司についても、仕入代金は原価になっていますもんね。売上を500円としないと、原価だけがその損金となってしまうんですね。で、いいんでしょう。」と、隆。

 

「まあ、そういうことなんです。法人税法では、商品や土地などの財産だけでなくサービスの提供についても、無償の価値の移転があった場合でも、その価値の時価までの収益、つまり、益金を計算しなければならないことになっているんです。それで、一般的に時価取引が強制される、などど言われているんですね。」

 

「じゃあ、時価500円の寿司を1,000円で売ったらどうなるんですか。売上は500円までしか認識しなくていいんですか。」と、隆。

 

「売上については、そういうことになるんです。ですが、売上代金500円以上にもらった500円については現実に現金という財産が増加していますので、その500円分の儲けを受贈益として収益つまり益金にしなければならないんです。つまり、寿司の時価500円までは売上で、後、時価500円という現金が増えたことになって雑収入500円と記録しなければならないんですよ。」と、時価取引について説明する多田税理士であった。

 

「なるほどね。その法人税法の世界も私ら寿司職人の世界も同じ価値観ってことですね。だって、うちの寿司は時価でお願いしているんで、そこんとこはよく分かるつもりですよ。だって、季節の新鮮なネタは時価でないと利益が取れないですからねえ。」と、分かった顔をして頷く隆であった。

 

「じゃあ、ついでに、多田先生教えてくださいな。時価400円のネタを500円で買った場合はどうなるんですか。」

 

「それは、時価400円までの支払いは仕入原価となって、あと余分な100円は、購入した商品の対価ではありませんから、相手方に贈与をしたことになるんですね。それで、相手方が社員だったら給与の支払いになりますし、取引先になんらかの祝儀の意味で高く買ったのであれば100円の交際費の支払いになりますし、直接会社に利害関係のない者だと100円の寄付金の支払いになりますね。」と、突然の隆の突っ込んだ質問に驚いた多田税理士であった。

 

 そこへ、話に割って入る山崎調査官。

 

「ねっ。多田先生の言うように、法人は時価取引が強制されるんですよ。これで、よく分かったでしょう。」

 

「そうなんですか。多田先生。」と、隆。

 

「えっ、まあ法人は時価取引が強制されるにはされるんですけど、今回の地代の件については・・・」と、口ごもってしまう多田税理士であった。つまり、この寿司店の地代について十分な検討を加えていなかったのだ。

 

『昨日の内に、沖山先生に電話で質問しとけばよかったなあ。時価より安い買い物の場合、どう考えればいいのかなあ。地代に時価ってあるのかなあ。あるとすればいくらなのかなあ。やはり、近隣の地代の相場なんかを調べなくちゃならんのかなあ。そんなこと言ったって調べられる訳ないし・・。そう言えば、田中さんのところは、社長個人の土地に会社の建物を建てて、何年も地代は払っていなかったよなあ。こんな場合は、どう考えればいいんだろう。』と、疑問が渦を巻いて湧いてくる多田税理士であった。

 

「多田先生、わざわざ調査の立会いに来られたのだから、何か納税者の方に説明してもらわないと困りますねえ。」と、腕組する山崎調査官。自信たっぷりの態度に多田税理士は、縮こまってしまうのであった。

 

「しょうがないなあ。じゃあ多田先生にも修正申告の件を説明しましょう。」と、自身のカバンから資料を取り出し机の上に置いて説明を始める山崎調査官であった。

 

「こちらの土地は、坂駅近くにありますし、借地権割合が40%と定められた地域ですから、借地権の取引の慣行がある地域なんですね。そういう、借地権の取引のある地域で、地主が自分以外の者に建物を建てさせて地代をもらうということは、借地借家法の借地権が設定されたことになるんですね。つまり、建物所有者は土地を借り続ける権利を持つことになるんです。」

 

「借地借家法では、通常、借地人が強烈に保護されておりまして、契約で期間を定めていない場合の借地権の存続期間は30年で、契約で期間を定めている場合には、30年以上借り続けられることになっているんですね。それで、契約更新に際しても、地主がその土地を利用する正当な理由がない場合には、半永久的に契約更新し続けなければならないことになっているんです。最近では、定期借地権といって、公正証書による契約で、あらかじめ契約期間の決まった借地契約もできるようにはなってますが、戸田さんの場合は、定期借地権とかの契約じゃあないですよね。」と、多田税理士に話しかけていたのを、隆に向けて質問する山崎調査官であった。

 

「公証人役場で契約書を作ってもらったんじゃないですよね。」と、多田税理士。

 

「はい、会社の税理士さんに作ってもらったんですけど、内容も簡単なものでした。」と、隆。

 

「そうですよね。そうしますと、一旦建物を建てさせたら半永久的に借り続けられる権利である借地権が設定されたことになるんです。そして、借地権の取引慣行のある地域で、無償による借地権の設定が行われた場合には、その借り手の法人に借地権という財産が移転したことになるので、その法人には借地権相当額の権利金の認定課税が行われることになっているんですね。ここまではいいですね。」と、山崎調査官。

 

「・・・」脂汗の多田税理士であった。


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