タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?)  第3章

 

(多田税理士は、キヨの弟のすし屋に同行した。そして、弟の隆の話を聞くのであった)

 

「安すぎるって言ったんですか。税務署員がですか・・。う〜ん。聞いたことがありませんねえ。」と、隆の話に困惑する多田税理士であった。

 

「確かに、私の不動産所得が少なすぎるから、本来もらうべき地代で計算し直して修正申告するようにいわれたんですよ。」と、去年の確定申告書のコピーを机に置いて多田税理士に差し出す隆であった。

 

「では、拝見します。え〜っと、地代は月に20万円で年間240万円ですね。そして、固定資産税が113万円で、不動産所得が127万円になるんですね。じゃあ、会社と隆さんとの間の不動産賃貸借契約書は月20万円で作成されているんですか。」と、質問する多田税理士であった。

 

「はい。ありますよ。契約書はちゃんと作りましたから。会社で頼んでいる税理士さんに作ってもらいました。なあに、自分で自分の会社に貸すんで、そんな難しいやつじゃなくてもいいって思って、税理士さんに頼んだら二つ返事で作ってくれましたよ。そん時、あの税理士さんは安すぎるとか高すぎるとかも何にも言わなかったんですよ。月20万くらいだったら固定資産税も払えるし、こんなもんでいいかって感じで、自分達で地代を決めたんですよ。」と、契約書作成当時のことを話す隆であった。

 

腕組をして考え込む多田税理士。同族会社の場合、社長の土地の上に会社の建物を建てることはよくあることなのだし、地代を払っていない場合も多くあるのだ。果たして、どういう理屈で地代が安いというのか皆目検討がつかないでいた多田税理士であった。

 

「で、会社は時価取引が原則だから、とかも言ってましたね。それに、相当のなんとかとか、私らじゃまったく分からないことを言ってましたね。とにかく、修正申告してもらわないと、って感じなんで困ってしまったんで、姉に相談したんですよ。」と、キヨに目を向ける隆であった。

 

 キヨは、笑顔で隆にウィンクをした。

 

「そうなのよ。かわいい弟の相談だもの、なんとかしてあげたいなって思ってた時にあなたとお知り合いになれてよかったわ。」と、多田税理士の顔を覗き込むキヨであった。

 

 急にキヨに見つめられ、「ドキッ」とした多田税理士であったが、表情には表れなかった。やはり、本業の税法に関する考え事をしている時は、冷静さを失わないのだろうか。

 

「それで、ですね。来週の月曜日に坂税務署の所得税担当の山崎さんがお見えになるんです。それで、ひとつお頼みしたいのが、多田先生に月曜の税務調査にご一緒していただきたいのですが、いかがなもんでしょう。私らだけで、税務署の方の話を聞いてもちっとも分かりませんし、多田先生から私らが納得するような説明を聞きたいんですよ。納得しないで、ただ修正申告しろだけでは税金払いたくないですよ。」と、隆。

 

「う〜ん・・。」と、多田税理士は唸った。

 

 多田税理士は、この土日で税務署の言い分に対して、反論を考えつく自信はなかった。

 

「私からもお願いします。」と、キヨが腕組をして考え込む多田税理士の腕を掴んできた。

 

『ああ、柔らかい手の感触だ。キヨさんともっと親しくなりたいし、月曜日はとりあえず税務署員の言い分を聞くだけで、反論はその後考えてもいいしな。』と、考えた多田税理士は、税務調査の立会いを承諾した。

 

「分かりました。課税の理由が納得できないのに、税金を払うことはできないですよね。月曜日の税務調査に立ち会いましょう。まあ、大船に乗ったつもりでいてください。ハハハ。」と、多田税理士。

 

「あっ、ありがとうございます。」と、           隆。

 

「やっぱり、頼もしくて素敵な方なのね。」と、満面の笑顔のキヨ。

 

『まあ、日曜日に沖山先生に相談すればなんとかなるさ。』と、安易に考えた多田税理士であった。

 

「じゃあ、多田先生。今日のところは、うちで寿司でも食っていってください。」と、隆。

 

「そうね。私も久しぶりに隆のにぎりを味わいたいわね。ね、隆。今日は、お姉ちゃんにおごって頂戴ね。」と、キヨ。

 

「うん、分かったよ姉さん。今日はゆっくりしてってよ。多田先生も、ごゆっくりどうぞ。」と、言い残し隆は、厨房に消えた。キヨと多田税理士は、カウンター席に移った。

 

 お造りや、煮魚などの酒のつまみを出されて、次々とたいらげ日本酒を何合も酌み交わし、会話に花をさかせて上機嫌の二人であった。

 

 日曜日の朝、多田税理士は沖山税理士の携帯に電話をかけた。しかし、呼び出し音がするだけで、つながらないのだ。その後、何度か電話するもやはり呼び出し音がするだけだ。

 

「う〜ん。困ったなあ。沖山先生に聞けばなんとかなると思ったのになあ・・。」と、多田税理士はたちまち不安になってしまったのだった。そして、月曜日が来てしまった。

 

月曜の午後1時に坂税務署の所得税の調査官が隆の店に来ることになっていた。多田税理士は、12時過ぎには隆の店に到着していた。税務代理権限証書の説明を隆にしていた。キヨは、来ていない。

 

「隆さん、この税務代理権限証書は、私があなたの税務代理人であることの証明です。まあ、委任状だと考えてください。これに、署名押印をお願いします。」と、多田税理士は、税務調査の準備に入っていた。しかし、心中は不安だらけであった。

 

「こんにちは。坂税務署の山崎です。」午後1時きっかりの訪問者だ。

 

「はい。どうぞ。今日は、税理士の多田先生に立会いをお願いすることにしましたので、よろしく。」と、隆。

 

「急なことなんですけど、調査立会いを依頼されましたので。はい、これが、税務代理権限証書です。」と、山崎調査官に書類を差し出す多田税理士であった。一瞬、怪訝な表情になった山崎調査官。

 

「分かりました。山崎です。よろしくお願いします。」と、まったく落ち着いている。

 

「早速ですが、多田先生もご存知のように、戸田さんの受け取られている法人からの地代なんですけど、時価よりかなり安いんですね。法人は時価取引をしなければならいことはお分かりだと思いますが、地代の場合は、土地の時価の6%の地代が時価なんですね。ここの土地の路線価は1u16万円で、敷地面積が約180坪ですから、土地の相続税評価額は約9,504万円ですから、その6%の地代を12ヶ月で割ってみますと、地代月額で約47万円、年額で約564万円がここの土地の地代の時価になります。しかし、戸田さんは月額20万円の年額240万円の地代しかもらってないんですね。明らかに時価取引違反になりますから、時価相当額までの地代を不動産所得の総収入金額に加えて修正申告をして頂くことになります。今回は、3年分でいいことにしますから。」と、自信たっぷりの山崎調査官であった。

 

 確かに、法人つまり会社は時価取引を強制されることは、法人税の世界では常識であった。

 

『時価取引違反?なんだそりゃあ。俺知らんぞそんなこと。税務署員が言うんだから、本当なんだろうけど。法人の支払い先の個人地主の所得税まで時価取引が強制されるのか。う〜ん。知らんかった。困った、やっぱ修正申告になるのかな。』と、考え込む多田税理士であったが、隆は、大いに期待しているのであった。


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