タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?)  2

 

(多田税理士は、出会系サイトで知り合った美人と出会い居酒屋で飲んだ。弟の税務調査の相談に乗ってほしいと要請を受けた。美人に再会できることを喜ぶ多田税理士であった。)

 

キヨと会ってから1週間後の金曜の夜、一人晩酌をしていた多田税理士の携帯電話が鳴った。戸田キヨからの電話だ。多田税理士の鼓動が高鳴った。

 

「はい、多田です。」

「あのう、キヨです。こないだはどうも・・・」

「あ、いやどうも・・・」

 

直ぐに会話が始まらない。やはり、初対面での別れのやりとりを思い出して、お互いに気恥ずかしいのだろう。やがて、キヨから話しだす。

 

「遅くにお電話してすみませんね。今、お電話大丈夫かしら。」

 

「はい、大丈夫ですよ。・・」と、相手の出方を伺う多田税理士であった。

 

「こないだメールした弟の税務調査の件で、ご相談に乗って頂きたいのですけれど、よろしいですか?ご迷惑ではありませんか?」

 

「いえ、いえ。迷惑なんかありませんよ。喜んでご相談に乗らせて頂きます。」

 

「すみません。じゃあ、お電話では話しづらいので、喫茶店でお話できないでしょうか。できれば、明日の土曜日の午後ではいかがかしら。もちろん、あなたのご都合がよろしければの話ですけれど。」

 

「ああ。明日の午後ですか。いいですよ、今週の土曜日は休みですから。じゃあ、坂駅の南出口で待ち合わせしましょうか。それから、近くの喫茶店に行きましょうか。」と、ニンマリの多田税理士。

 

「はい。ありがとうございます。では、午後2時ということでよろしいでしょうか。」と、キヨ。

 

「分かりました。では、明日午後2時ということで。はい。失礼します。」

 

 多田税理士は、内心ワクワクしていた。また、あの美人に会えるのかと思うと、信じられない気持ちだったのだ。

 

 翌日、多田税理士は、紺色の綿パンに白いボタンダウンシャツに黄色の麻のジャケット姿であった。自分では、オシャレをしているつもりなのだが、果たしてキヨの好印象を得ることができるのか。

 

 坂駅南出口で待つ多田税理士に、後ろから声をかける女性がいた。戸田キヨだった。

 

「多田さん。素敵なジャケットね。」

 

「あっ、どうも。後ろからよく分かりましたね。」

 

「そりゃあ分かりますわよ。だって、こないだ会った時にあなたのお姿をしっかりと拝見しておりましたから。フフフ。」と、微笑むキヨであった。

 

 坂駅近くの喫茶店に入った二人。

 

「税務調査で相談されたいということなんですが、弟さんは、何か商売とか個人事業とかをされているんですか。」と、多田税理士。

 

「はい。弟は、寿司屋を経営しておりまして、もう開業して10年は経っていますの。まあお客さんもそこそこついているみたいです。詳しい内容は、聞いてもわかりませんけど、まあ、繁盛していると思います。」

 

「では、弟さんのお寿司屋さんの経営に税務調査が入ったんですね。」

 

「いえ。地代が安すぎるって税務署の人に言われたんですって。」と、キヨ。

 

「はあ。どういうことなんですか。」と、状況が掴めない多田税理士。

 

「あら、ごめんなさい。私、話が下手なもので。弟は、10年前に個人経営で寿司屋を始めたんですが、絶対に自信があるから自分の店舗を建てて開業したいって聞かなかったんです。それで、父親の土地に地代無料で2階建て店舗を建てることにしたんです。もちろん、銀行から借金してましたけどね。それで、経営も順調に伸びてきたので、有限会社を作って、店舗を会社に売却して事業を会社経営に切り替えたんです。開業して3年くらい経っていたでしょうかね。」と、時折天井を眺めながら当時の事を思い出すキヨであった。

 

「それで、会社も儲かっていたんで、父親に地代を払うことになったんです。いくらか知りませんけど、父親は地代の確定申告をしてました。そして、3年前、父親が亡くなってしまったんですね。」

 

「それで、弟の経営する会社の建物の敷地は、弟が相続することにしたんです。相続後は、弟が自分の会社から地代をもらうようにしたらしいんですけど、いくらの地代なのかも知りませんし、高すぎるとか安すぎるとかなんか分かりませんしねえ。」と、キヨ。

 

「弟さんの会社の顧問税理士さんに相談されたんですか。今も、弟さんの会社の申告はされているんでしょう。」と、自分に弟の税務調査の相談をすることに疑問を感じた多田税理士はキヨに尋ねたのだった。

 

「それがね。弟は、どうもその顧問税理士の態度が気に入らないらしいのよ。それがね、去年、会社に税務調査が入ったんだけど、『税務署の味方かこっちの味方か分からない』って怒っててね。税理士を変えようと考えていたとこらしいのよ。それで、私に誰か納税者の立場を理解してくれそうな税理士を知らないかって相談されてたとこで、あなたと知り合ってしまったのよ。」と、上目遣いで見つめられ、その美貌にめまいを覚えた多田税理士であった。

 

「は、はあ。そうですか。」と、多田税理士は、キヨとの付き合いと弟の会社の顧問税理士という二つの魅力あるターゲットに内心興奮していたのであった。

 

「それでね、多田さん。これから、弟に会って話しを聞いてくださらないかしら。会社の税理士も変えたいって言ってたし。よろしかったら、なんですが。」

 

「分かりました。どこまでお役に立てますか分かりませんけど、詳しいお話を聞かせてください。」と、野心に燃える多田税理士だが、あくまで、謙虚な姿勢を装うのであった。

 

「ありがとうございます。ほんの近所ですのよ。」

 

二人は、喫茶店を後に、キヨの弟の寿司屋に向かった。5分と歩かないうちに到着した。駅近くの店舗としては優良な立地の場所である。到着した2階建ての店舗の1階ののれんを潜り中に入る二人であった。

 

「隆、いる。あたしだけど。」と、キヨは弟を呼ぶ。

 

「ああ、姉さん。」と、目鼻立ちのはっきりした、凛々しい板前姿の男性が、厨房から現れた。

 

「隆。姉さん、立派な税理士さんを見つけたって言ってたでしょう。連れてきたわよ。」と、キヨ。

 

 自分の実力も分からないのに、いきなりキヨに褒められた多田税理士は照れ笑いになった。

 

「あっ、多田先生ですね。姉から聞いております。今日は、急にすみませんね。私も、気軽に話ができる税理士さんがいなくって困ってたんですよ。まあ、座って下さい。」と、店の中の一番奥のテーブルの椅子を引いて席につくように促す隆であった。

 

「実は、先週の水曜日に坂税務署から電話がありましてね。私の不動産所得について調査したいので今日の午後から訪問したいって電話があったんですね。それで、個人の所得税は税理士さんを通してなかったんで、私ら夫婦で税務署の方と会うことにしたんです。それで、先方が言うにゃあ、私がもらっている地代が安すぎるので、もっと高い地代で修正申告しろって言われたんですよ。」と、口を尖らせて話す隆であった。

 


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