タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?)  第1章

 

 多田税理士は、自宅でパソコンに向かっていた。あるホームページを眺めていたのだった。そのホームページとは、九州限定の出会い系サイトのホームページであった。まだ、出来上がったばかりらしく、投稿者の人数は男性も女性もごく僅かであった。

 

 多田税理士は、独身で一人暮らしである。純粋な動機であれ、不純な動機であれ、異性との付き合いがでもないものかと思案していたのだ。

 

「ふ〜ん。こんなホームページの書き込みに返事なんてくるのかなあ。まあ、ものは試しで伝言板に書き込みでもしてみるか。」

 

『坂駅の近くで一人暮らしをしている42歳の者です。身長172センチ、体重60キロです。会社の役員をしています。お互いの都合いい時間にでも、飲み食べ歩きができたらいいなと思ってます。』

 

 多田税理士も男である。出会い系サイトなるものがインターネット上に存在することは知っていたのだが、利用してみるのは今回が初めてなのである。もしかしたら、高額な利用料を請求されたりしないのか等、心配もしたものの好奇心が理性を上回ったのであった。

 

「ふむ。これで、後はメールが来るのを待つ訳か。まあ、変なホームページだったらメールアドレス変えればいいからな。なんでも経験経験。これで、彼女が出来れば、こんな簡単なことはないよな。どうだろうか・」

 

 それから、数日間。多田税理士は、帰宅してから真っ先にメールチェックをしていたのであった。そして、ついに返事が来たのであった。確かに、あの九州限定の出会い系サイトからのメールであった。

 

「おっ、来たー。着たじゃないかメールさん。ホイホイ。うん、なになに『あなたにメッセージが来ています。相手の方にお返事されれば、先方からメールアドレスの含んだ返事が帰ってきます。』か。なるほど、本人確認もしっかりできるということか。」

 

『私も一人暮らしです。たまには居酒屋などにも行ってみたいと思ってます。メル友からどうですか。空。』

 

「お〜、空さんか。いきなり本名で返事はこないだろうね。まあ、まともな普通の返事だよな。とりあえず返事しときますか。」

 

 多田税理士は、返事が来たことが嬉しかったのだ。早速、メールの返事を出すと、すぐに相手の女性から返事が来た。そして、数日間、メールのやりとりを経て、駅前の居酒屋で二人で会うことになったのだった。相手の女性も多田税理士と同い年だということだ。

 

 金曜日の午後7時、坂駅の南出口で待ち合わせの約束だ。多田税理士の携帯電話に相手から連絡が入ることになっていたのだ。多田税理士は緊張してか、携帯電話を持つ手が汗でベットリとしていた。

 

ブルブル・・多田税理士の携帯電話が振動して着信を知らせるのであった。

 

「あっ、多田さんですか。私です。空です。」と、待ち合わせの女性からの電話である。がしかし、相手がどこにいるのかお互い分からない。

 

「あっ。どうも多田です。今どこにいらっしゃいますか。私はもう駅の南出口に来ていますけど。」多田税理士はキョロキョロと周りを見回すのだが、誰が待ち合わせの相手か分かるはずもない。

 

「多田さんね。南にゆっくり歩いてもらえませんか。そして、振り返って戻ってもらえませんか。それで、私が多田さんを見つけますから。」と、相手からの指示である。

 

 多田税理士は、携帯電話を耳にあてたまま、指示された通り歩いて戻ってみた。

 

「分かったわ。じゃあ、これからそちらに行きますね。」

と、言って携帯電話の通話は切れた。

 

 しばし待つ多田税理士であった。そして、目の前に現れた女性を見てびっくりしてしまったのだった。パンツ姿にジャケットを羽織った活動的な感じの女性なのだが、その顔を見て「ハッ」と息を飲んだのだ。

 

「おお。なんと。女優の十朱幸代によく似ている美人じゃないか。イヤーラッキーだなあ。」と、相手に気付かれずに、心中でほくそ笑む多田税理士であった。

 

「こんばんは」 「こんばんは」

 

「ああ、あなたで良かった。どんな人がくるのかドキドキしてましたわ。」

 

「僕の方もドキドキですよ。私もあなたで良かったですよ。無事に会えたことですし、そこの居酒屋にでもいきますか。」

 

「ええ、そうしましょうか。」

 

 居酒屋で話始めた二人。お互い相手に親近感を持ったようだった。リラックスした雰囲気である。

 

「駅で、歩いて戻った時に見てたんですよね。それで、気に入らないとそのまま帰るつもりだったんでしょう。そうでしょう。」と、微笑む多田税理士であった。

 

「うん。ごめんなさいね。フフ」

 

「あっ、身元をキチンと明かしておきますね。」と、名刺を差し出す多田税理士。

 

「へ〜。税理士さんなんだ。会社もやっているんですね。それで、会社役員って自己紹介されてたんですね。私は、名刺持ってないけど医療関係の仕事をしてて、名前は戸田キヨと言います。」

 

 お互いの身の上話に花が咲く二人であった。戸田キヨには、県外に住む大学生の息子がおり、随分以前に離婚して現在独身の一人暮らしである。ここ数年来のビッグイベントは、中古マンションをかなり安く買えたことが自慢らしい。経済的にも自立した女性だ。

 

 和やかな、会話が続くのであった。

 

「私は基本的には土日が休みなんだけど、多田さんは、お休みの日は何をされてるんですか。」

 

「そうですね。大体ですね、本を読んでるか、飲んだくれているかですね。ハハハ。是非、キヨさんといろいろとドライブできたらいいですね。」と、上機嫌の多田税理士であった。

 

「あら、私も飲み食べ歩きは好きなんですよ。なので、これからも素敵な居酒屋さんとかに行きましょうね。」

 

 今日会ったばかりの二人であったが、すっかり意気投合してしまったようだ。多田税理士は、『これはいける』と、内心喜んでいた。

 

 時間も10時を過ぎた。店を出た二人は、自然と駅に向かう。そして、駅構内に入ったところで多田税理士が立ち止まった。

 

「良かったらこれから僕の部屋で話しませんか。」と、自身満々に誘う多田税理士であったが・・。

 

「あのう、私初対面の方に会ったその日にお部屋に伺うことなどしませんの。今日は、これで失礼します。」と、戸田キヨはさっさと地下鉄の方へ消えてしまった。

 

 すっかり期待していた多田税理士はすっかり落ち込んでしまったのだが、その日の内に多田キヨからメールが来ていたのだった。本当は、突然の誘いにびっくりしてしまったのだった。そして、今度ゆっくり会ってほしいとのメールであった。自分の弟の税務調査の相談に乗ってほしいそうだ。多田税理士は、すっかり元気を取り戻した様子であった。

 

「なに。弟さんの税務調査か。う〜ん。地代が安すぎるって税務署員に言われているのか。どういうことなんだろうなあ。こりゃあ、会って話をじっくり聞かないとなあ。」と、戸田キヨと再会できることを心待ちにする多田税理士であった。

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