タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?) 第16

 

(多田税理士は、トイレ電話のせいでキヨを怒らせてしまった。しかし、調査の対応はしっかりしたものだ。トイレ電話の賜物だ。)

 

「これまでも、地代収入を増加する修正申告をお願いしたことが・・・・」返答に窮する山崎調査官。

 

「だから、なぜ地代年率6%の地代収入まで引き上げて修正申告しなければならない理由を説明して下さいよ。なぜ、地代年率2.5%の地代収入で相手方と契約して、そのとおりの地代収入で不動産所得の計算をしたことが間違いなんですか。どう間違っているから修正申告しなければならないのか教えてくださいよ。」と、説明を求める多田税理士。

 

「えっ。いやあ。あの、その。地代に関しては了解しておりまして。」と、力ない山崎調査官。

 

「はい。地代に関しては了解されたんですね。では、今後、所得税法157条の同族会社の行為計算の否認規定を使われようがどうぞご勝手にして下さい。当方が所得税法157条を理由に修正申告をするように納税者の方に言うことは出来ませんので。そんな、理由のない修正申告なんかさせられませんからね。」

 

 沈黙の時間がしばし流れた。

 

「分かりました。今回は、地代の値上げを検討して頂くことを指導したということで調査終了します。」

 

『ああ、良かった。これで、調査が終わる。』と、心の中で叫ぶ多田税理士であった。

 

「えっ、じゃあ修正申告とやらで追徴の税金を払わなくてよくなたってことですかい。」と、山崎調査官に向かって話す隆であった。

 

「えっ、ええ。当方もいろいろ検討させて頂きまして、今回は地代の値上げをご検討頂くということにしたいと思います。」と、申し訳なさそうに話す山崎調査官。

 

「なんだ〜。じゃあ、なんの為に税務調査に来たのかわからないじゃあありやせんか。ねえ、税務署さん。」

 

「いええ。今回は、当方といたしましても、多田先生にいろいろとご指導頂きまして、検討することが多々ありまして、また、過去の事案とこちらのケースは微妙に違うことが分かりまして。ええ、そんなところで、こちらとしましては今回は指導ということで引き取らせて頂こうと思います。それで、よろしいでしょうか、多田先生。」

 

「指導とは、なんですか、指導とは。何を指導したんですか、地代の値上げなんて、税務署に指導してもらわなくたっていいことでしょう。それに、同族会社の行為計算の否認規定がどうだとか言わないでもらいたいですね。そんなことは、修正申告の理由にならない訳ですからね。」と、口を尖らせて噛み付く多田税理士。

 

「いや。はい。あの・・。ですから、今回は指導ということで修正申告の慫慂はなかったものとさせて下さい。はい、それではみなさんもお忙しいでしょから、私はこれで失礼致します。多田先生、どうもお疲れ様でした。失礼します。」と言い、そそくさと山崎調査官は、すし屋を後にしたのであった。

 

「いや〜。多田先生どうもありがとうございました。あんなにしつこかった調査官だったのに、今日はとっとと帰りましたね。調査官が自信満々に同族会社のなんとかって言って時は、多田先生は元気さなそうにお見受けしたんですが、なんとも無事に税務調査が終了したようでホットしていますよ。」

 

「いやあ。同族会社の行為計算の否認規定なんて急に言われたんで、私としても混乱してしまったんですよ。それで、トイレの中でも考えていましたら、これがよく頭の整理ができたものですから、ご覧の結果になりました。いやあ、修正申告とならなくて良かったですね。」

 

「そうそう。多田先生は、トイレから出てこられるとなんかこう別人みたいに自信満々になられて、非常に頼もしく感じました。ハハハ。」

 

「はい、私もトイレで閃くことが良くあるんですよ。それで、ちょっと長くなることもあるんですが・・ハハハ。」と、調子を合わせる多田税理士であった。

 

『トイレの中で携帯電話から先生に質問をしていたなんて言えないしなあ。俺、本当は早飯、早便は得意なんだけどね。』

 

「いやあ。姉さんが連れてきてくれた税理士さんだけあったなあ。姉さんにも報告しますからね。」

 

 多田税理士は、隆の税務調査を無事に無傷で乗り切ってホットしていた。そして、戸田キヨの喜ぶ笑顔を想像していたのであった。そして、二人で食事をしながら談笑している光景を思い浮かべていたのだった。『ああ、これでやっとキヨさんとゆっくり会えるんだ。ああ、早く会いたいな。』

 

「ああ、そうそう。じゃあ今から姉さんの携帯電話にかけてみますね。きっと、無事に税務調査が終了したことを喜んでくれると思いますよ。」

 

「いや〜。そうだといいんですが。まあ、あまり大したことをした訳じゃあありませんから、そんなに喜んで頂かなくてもいいんですけどね。ハハハ。」と、照れる多田税理士。

 

「いえいえ。立派に役に立っていただいたことを報告しますからね。ちょっと待って下さいね。」と、携帯電話を取り出す隆であった。

 

「あっ姉さん。今電話大丈夫。うん。あのね、多田先生がねよく頑張ってくれてね。うん。そうそう。それでね、調査官の人帰っちゃったんだ。うん。そうだよ。修正申告なんかしなくてよくなったんだよ。ねっ、驚きだろう姉さん。うんうん。」満面の笑顔の隆。

 

 多田税理士は、キヨとの今後のことに思いを巡らせていた。『へへっへ。無事に税務調査も乗り切ったんだから、好印象バッチさ。またキヨさんと楽しく飲めるんだ。いろんな処に飲み食べ歩きしたいよな。へへ。』

 

「うん。そうなんだよ。大活躍だったよ多田先生。姉さんも一緒にいればよかったのにね。うん、それでね、今度、多田先生と一緒にお店にき来てよ。うん、お礼しないといけないじゃない。うん、姉さんが税理士さん紹介してくれたからねえ。姉さんにもお礼しなくっちゃと思ってさ。ねえ、何時がいい。」

 

『うん、そうか。この弟さんのすし屋にご招待か。いいねそれも。こちらのすし屋はネタによっちゃ時価をつけるって高級店だからなあ。ああ、楽しみだなあ』と、ウキウキ気分の多田税理士であった。

 

「えっ。どうして。嫌なの。えっ、どうしちゃったんだよ姉さん。うんうん。そうか。そうだね、昔っから言い出したら聞かない方だったしね。仕方ないよねえ。うん、分かったよ。じゃあ、多田先生には僕の方から言っとくよ。うん、じゃあね。」と、隆のキヨへの携帯電話は終わった。

 

「多田先生、今回はスッカリお世話になちゃってありがとうございました。調査立会いの報酬の方はきっちり請求してください。すぐにお支払いしますから。」

 

「え、ええ。それでは、遠慮なく請求させて頂くことにしますね。それで、キヨさんはどおされたんですか。」

 

「それがね、多田先生。姉さん、ちょと変っててね、男のトイレ長いの嫌なんだって。昔から、男はテキパキしてないと生理的に受け付けないらしくって。多田先生のトイレ長いのがイラつくんですって。で、一度、嫌悪感を感じた男とは二度と会いたくないって言ってましてね。すみまんせんねえ。」と、頭を下げる隆。

 

「いえいえ。そんな別にキヨさんにどうこうと思ってないですから。」と、平静を装うのに精一杯の多田税理士であった。『あ〜あ、あんなに頑張ったのに振られちまったか。時価のすし屋なんて、俺には縁がないんだよなあ。くるくる回る定価のすし屋にでも言ってヤケ酒飲むかあ。あ〜あ。トイレで長電話しなきゃあよかったんだけどなあ。沖山先生に質問しなくていいくらいに実力つけなきゃなあ〜。はあ〜あ。』


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