タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?) 第14章

 

(多田税理士は、沖山税理士から同族会社の行為計算の否認規定について、今回の事例では心配ないとの説明を受けていた。しかし、キヨの異常には気付かない。)

 

「多田さん。このすし屋さんの地代率はどれくらいになるのか調べたことはあるんね。」と、問う沖山税理士。

 

「はい。ここの土地の時価は分かりませんけど、今年の相続税評価額で地代率を計算しますと約2.5%になります。

 

「じゃあ、十分な地代率と判断できるよね。以前話した福岡市内の駐車場の地代年率が2〜3%程度だったからね。私達がまとめた論文の話を覚えているよね。」

 

「あっ、はい。覚えています。はあ〜。安心しました。ででもですね、。ちょっと気になったんですけど、その2〜3%程度の駐車場の地代年率の件ですけど、今回の場合は、建物の敷地としての地代なので、そこの違いはどう考えればいいんでしょうか。」

 

「いい質問だね。なかなか理解が進んでいるようだね。ハハハ。」と、陽気に話す沖山税理士であった。

 

「ハハハ。ありがとうございます。」と、応える多田税理士。

 

 すると、「コンコン」と、携帯電話で話している多田税理士が入っているトイレのドアが鳴った。

 

 沖山税理士との携帯電話での会話に集中している多田税理士はドアのノックに気付かない。そして、ふたたび「コンコン」とドアが鳴る。

 

 多田税理士はドアのノックに気付くのだが、沖山税理士との話が終わっていない間はトイレから出るわけにはいなかいと思い、トイレの中からドアを2度ノックしてトイレが使用中であることを主張した。

 

「私達の論文ではね、その地代率を違う角度でも調査しているんよ。それはね・・」

 

 と、沖山税理士の解説が続くのだが、再びトイレノックの音がした。「ドンドン」とだ。

 

「すみません。もう少しで出ますので。」と、会話中の携帯電話の受話器を塞いで、トイレの外の人物に返事をする多田税理士であった。そして、そのまま沖山税理士との会話に集中する多田税理士であった。

 

「ん、なんか話にくいのかい。」と、返事のタイミングがずれてしまった多田税理士を気遣う沖山税税理士であった。

 

「あっ。いいえ。なんでもありません。先生、それで、その地代率の他の事例があるんですか。」

 

「うん、あるよ。一つはね住宅メーカーの一般定期借地権で借地期間50年の物件の地代を調べてみたんよ。保証金をいくらにするとか細かい条件の違いもあるんだけど、だいたい時価の1.45〜1.75%にしかならなかったんだよ。これは、定期借地権だけど建物の敷地としての地代率だし、借地期間50年間という超長期の契約期間なので、通常の普通借地権に非常に近い事例だと判断できると思うんだ。」

 

「あ〜、そうですか。そんな借地期間50年間の事例なんかあるんですか。そんなに長期でも税務署の言う年率6%の地代なんかよりはるかに安いんですね。」

 

「うん、そうだね。で、更に、論文の研究者達はもちろん税理士なわけだから、それぞれ自分の顧客に貸しビルオーナーもたくさんいるんだから、それじゃあ福岡市内の貸しビルの実際の事例を分析してみようということになったんよ。5件の実際の貸しビルの純利益を建物部分の純利益と土地部分の純利益に分けてみることにしたんよ。ここまでは、いいね。」

 

「はい、実際の貸しビルの事例なんか、そのまま比較対象になり得ますね。駐車場の事例も入れて三つの土地の賃貸事例で地代年率を調べた訳ですね。へえ〜。おもしろいですねえ。」と、感心しきりの多田税理士。

 

「建築年数が経っているもの、そうじゃないものと条件の異なる物件の損益状況を分析してみることにしたんよ。つまりね・・。」

 

「ドンドン、ドンドン」と、激しいトイレのノックだ。

 

「すみません。もうちょっと、もうちょっとで出ますので、もうちょっと待ってください。」と、トイレ待ちの人物の悲痛な訴えをドアのノックから感じた多田税理士であったが、沖山税理士の解説も聞き逃す訳にはいかなかったのだ。再び、ドアのノック音が返ってくるのかと身構えたのだが、もう再びドアのノック音が返ってくることはなかった。

 

「あっ、先生すみません。貸しビルの損益状況を分析することになったんですよね。で、その5つの事例ではどんな結果が出たんでしょうか。」と、ホット一息つく多田税理士であった。

 

「うん。家賃収入から減価償却費やら固定資産税やら修繕費・維持管理費・損害保険料やその他水道光熱費やら実額や見積もり価額で計算した経費を差し引くとその残りの純額収益が分かるよね。それで、その純収益を建物にかかる純収益と土地にかかる純収益に分けてみることにしたんよ。それでね、その純収益の内、建物にかかる純収益は建物の取得価額の6%と仮定してね。そして、その残りが土地の純収益として試算してみたんよ。ここまでは、大丈夫かい多田さん。」と、相手の理解状況を確認する沖山税理士であった。

 

どんな質問者に対しても、相手の理解度を確認しながら、話を進める沖山税理士なのだから、そのファンは九州中に広がっているのだ。

 

「はい、その結果はどうなったんでしょうか。建物が古いと建物の純収益が少ないような気もしますが、場所によっちゃあ建物が古くても結構な賃料は取れるでしょうからねえ。」

 

「うん、それでね。純収益を区分してみたらね、建物の純収益が多い事例もあれば、土地の純収益が多い事例もあったんよ。だから、必ずどちらかの純収益が多いとは言えない結果はね、種々様々な事例を取り上げたことになると考えたんよ。それでね、建物の取得価額の6%が建物の純収益として、残りが土地の純収益としたんだけどね、分析の結果ある共通点があることに行き着いたんだよ。」

 

「えっ、共通点ですか。そっそれはどんな共通点なんでしょうか。先生。」

 

「まずね、地代の純収益をその土地の時価や相続税評価額で割って地代年率を計算してみたんよ。そしたらね、ある一定の範囲内に納まってしまったんよ。」

 

「つまりね。福岡の中心部の事務所店舗としての土地の収益率は時価額に対する割合は3%程度でね、相続税評価額に対する割合も3〜4%になったんよ。でね、

同じ福岡市でも住宅地の事例の場合にはね、その土地の収益率は通常の時価額に対する割合は2%弱で、相続税評価額に対する割合は2%強になったんよ。」

 

「へえ〜。純収益の内、建物の方が高かったり、あるいは、土地の方が高かったりと、賃貸条件の異なる事例について、その地代の収益率を計算してみたら、時価や相続税評価額の3%前後の地代年率だったという共通点が見出せた訳なんですね。土地の有効活用された事例での地代の収益率だから、より経済実態を反映した結果だと言える訳なんですね。そうでしょう、先生。」と、やや興奮気味の多田税理士。

 

「うん、そういうことなんよ。これで、分かったやろ、相当の地代の年6%なんてとんでもなく高額な地代だってことがね。そのすし屋さんの地代年率も2.5%程度なんやろう。やっぱ、経済実態としての地代年率は2〜3%なんよ。それで、地代として少ないなんて言えないやろう。じゃあ、地代年率6%が妥当な地代年率だって何を根拠に言っているんだって言ってやりなさいよ。年2.5%程度の地代年率が、どうして不当に所得を減少させるものだと立証できますかって言ってやりなさいよ。」と、沖山税理士の語気は厳しい。

 

 キヨは、もうすでに隆の店を去っていた。


13章に戻る
15章へ