タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第8話『すし屋の地代』

 (〜時価?それとも定価?) 第12章

 

(山崎調査官は、同族会社の行為計算の否認規定の適用があると指摘するが、沖山税理士は解釈違いと言う。益々困惑するトイレの中の多田税理士であった。)

 

 税務署員が解説する同族会社の行為計算の否認規定について納得してしまった多田税理士にとっては、沖山税理士が解釈違いだと指摘することが理解できないでいたのだった。

 

「所得税法157条の同族会社の行為計算の否認規定とはね、そもそも課税庁サイドのための条文であって納税者が拘束される条文じゃあないんだけど、どうも肝心なところを解釈違いしているよ。」と、沖山税理士。

 

「ですが、沖山先生。今回の場合、時価までの地代をもらっていない地主としては、やはり時価での地代をもらっている人より所得金額も少ない訳ですし、あくまで時価が正しい地代の金額なので、時価より安い地代収入とは不当に安い収入金額となって、課税庁からこの所得税法157条で更正処分されるので、納税者としてはその前に修正申告をすることになると思うんです。税務署員の言うように・・。」

 

「多田さんね、そもそも所得税法157条の主語というか書き出しはどうなっとるね。そこに条文があるんやろう。しっかりみてみらんね。」

 

「はい。え〜と、『税務署長は、』から始まってますね。それれは、見たとおりですから分かります。」

 

「そう、税務署長は、同族会社の行為や計算で、そのまま認めたら、株主等の個人の所得税の負担を、不当に減少させると認められる場合において、税務署長の認めたところによって所得税の計算をして、更正処分することができる、という意味の条文なんよね。だから、課税庁は、この所得税法157条を根拠に更正処分することができるんだけど、修正申告書の提出根拠に、この同族会社の行為計算の否認規定はなり得ないんだよ。」と、沖山税理士の太くて張りのある声が携帯電話から聞こえる。

 

 多田税理士は、洋式トイレのふたを閉め、その上に資料を広げ、しゃがんでトイレのふたを机代わりにして話を続けていたのだった。

 

「じゃあ、沖山先生。どんな時に所得税法157条の適用があるんでしょうか。所得税の負担を不当に減少させると認められる場合なんてどんな場合なんでしょうか。」

 

「うん。つまり、不当に減少とはね、同族会社だからできたことであって、同族会社でなかったらあり得ない行為であったことが必要だしね。また、合わせてその行為が通常の経済人であれば到底あり得ない取引であることが必要なんだよ。そして、金額的にも高額になることも必要だよね。例えばね、不動産管理料を家族が株主で役員の会社に支払うとするよね。そうした場合にね、その不動産管理業務の対価として不相当に高額な金額をウン千万払ったとしたらね、その業務に相当な金額を超える部分は必要経費と認めないで所得計算をやり直して更正処分してくるような場合は、この157条の適用があることが考えられるよね。身内の会社に不相当に高額な経費を払って、自分の所得税の負担を不当に下げた場合に、同族会社の行為計算否認規定の適用は理解できるよね。多田さん。」

 

「はい。理解できます。不動産管理料を払う場合に、通常の管理業の報酬以上の報酬を他人の会社に払うことはありませんし、少々高い程度では課税庁も更正処分してこないでしょうが、ウン千万円ともなるとこれは課税の公平の観点からもその同族会社の行為が否認されても仕方ないと思います。」と、沖山税理士の説明に理解を示す多田税理士であった。

 

「不動産管理料の金額が、不動産業務の遂行上必要な経費であったとしても、通常の管理業務に対する対価を超えて身内である同族会社に支払って、自分の所得税を相当額減少させてしまう行為は、やはり、同族会社だからこそ勝手にできてしまうことなので、こういう場合に、課税庁が同族会社の行為計算を否認する規定が157条なんだよ。そして、納税者が修正申告をする根拠条文でないことも分かるね。」

 

「はい。分かりました先生。修正申告は、納税者が当初申告した内容に間違いがあって税額が少なかった場合に、課税庁が更正処分をするまでの間に、自主的に税金を追加納税するための申告のことですよね。」と、必死に頭を絞る多田税理士。

 

「そう。例えば、必要経費でないのに経費処理していたとか、去年の必要経費を今年の必要経費にしていたとかね。また、収入金額の計算に誤りがあって過少に計算されていたとかね、間違った所得計算をして本来より少ない税額で申告していたことが分かった時、つまり、明らかに税法の適用に誤りがあった時に、税務署から更正処分されるまでの間、自主的に課税標準等又は税額等を修正する納税申告書を提出することができることになってるよね。国税通則法19条だよね。強制適用じゃないよね。つまり、修正申告が可能だということであって、修正申告せねばならない訳ではないんだよ。いいね、多田さん。」

 

「はい、わかります。非常に納税者の自主性を促すことであって、納税者の精神性の高さを促すことですね、修正申告って。」

 

「うんまあ、そうやね。修正申告したらね、その後その修正申告の原因となる状況について認識誤りがあったとしても、以後一切不服申し立ての手段はないことも分かっているよね。だから、修正申告をする時は慎重に検討しないといかんと思うよね。今回の地代が安すぎるという指摘はね、所得計算や税額計算に誤りがあった訳ではないよね。不動産所得の収入金額は、収入すべき金額であって、その収入すべき金額は相手との契約によって決定した金額であれば適法な訳なんだよ。だから、修正申告する必要もないし、所得税法の適用に誤りがあったということで更正処分をされることもないんだよ。税法で決められた収入金額で計算している訳だからね。」と、ゆっくり話す沖山税理士。

 

「でも、今回は、同族会社の行為計算の否認規定で更正をするから、その更正の前に修正申告をしたらいかがでしょかと修正申告の慫慂をしているんでしょう。通常の更正と同じことだから、更正される前に修正を促しているものと思ってますが何が違うんでしょうか。解釈違いとやらがさっぱり分からないんですが・・。」

 

「つまりね、所得税法の適用に誤りがあった場合にはね、納税者が修正申告をしかなった場合に、所得税法の適用に誤りがあったことを理由に更正処分をしてきて追加の税金を払えと言うことになるし、同じく所得税法の適用に誤りがあって所得税が少なくなってしまっていたことを理由に修正申告をしてもいいんだよね。納税者は、所得税法の適用に誤りがあって税額が過少であった場合に修正申告をする選択と、修正申告しないで更正処分をしてもらう選択があることになるよね。ここまではOKかい多田さん。」

 

「はい、分かります。」

 

「じゃあね、今回の同族会社の行為計算の否認規定の157条は、課税庁が更正処分をする根拠条文であって、納税者が修正申告をする根拠条文じゃあないんだよ。つまりね、その地主の不動産所得の申告内容は、所得税の適用に誤りはないのだけれど、非同族会社では全く不可能だけど同族会社だからこそできた行為で、なおかつ、経済人としては全く不合理、不自然な行為である場合に、特別に、納税者の通常での正しい所得税法が適用された申告内容を無視して税務署長の考える通りの計算に直して更正処分をするということなんだよ、この所得税法157条は。逆に言うと、所得税の負担を不当に減少させる結果と認められる場合に適用されるこの157条は、それこそ相当に異常な行為や計算を前提としているので、おいそれと適用されて簡単に更正処分をする条文でもないんよ。」

 

「そしてね、税理士がね、課税庁が更正処分をする根拠条文を修正申告の根拠条文として納税者に修正申告をさせてしまった場合にはね、所得税の適用に誤りがなかったのに、誤った条文解釈で修正申告させてしまったことになるし、修正申告の場合は、以後は理由は一切関係なく納税者の救済手段は自主的に返上したことになるんよね。誤って修正申告させて税金を納めさせた場合にはね、税理士の責任問題にまで発展することだってあるんだから、修正申告に当っては慎重に検討せんとね。」

 

『うう、誤って修正申告をさせてしまったら・・』


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