タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第9章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(小石川彩子は、尾戸巣税務署の会議室で、昭夫と事務員の会話を聞いたことを黒石『イットウ』に証言するが、再び、怒鳴りつけられることになった。そして、恐怖のあまり「脅かしているんですか」と叫んでしまったのだ。その後も、父親が脱税していたことを認めろと執拗に迫られたのだった。昭夫は、「多田税理士に相談して払わねばならなければ払う」と言い残し、小石川夫婦は会議室を後にしたのだった)

 

 小石川昭夫は、尾戸巣税務署の会議室を出る際、「多田税理士と相談する」と言った時の初永上席の「マズイな」とでも言い出しそうなそうな「シカメっ面」を見逃さなかった。

 

 また、昭夫は、初永上席が、手元の資料を自分で見るだけで、自分達には何の資料も提示しないで、「父親が毎年300万円の脱税をしていたのは確かだ」と言ったことも引っかかっていた。

 

 多田税理士は、尾戸巣税務署に呼び出された時の会議室でのやり取りをまとめることにした。納税者は、文章を書くことに慣れていないし、むしろ、税理士が代筆する方がより詳しい内容を表現できると考えたのだ。

 

 多田税理士は、小石川夫妻と事務員からインタビューしたメモを眺めて考え込んでいた。どう書こうか悩んでいたのだ。多田税理士にとっても初めてのことである。無理もない。

 

「う〜ん。何から書こうかな。う〜ん。納税者が書いた報告書ということだから、本人になりきって、冷静にかつ感情を込めて、状況と心情を書けばいいんだ。そうだ。うん。じゃあまず、調査初日の状況から書くことにするか。」

 

 多田税理士は、本人達の感情も思い諮って、事実を感情豊に書き進めたのだった。おおよそ、3時間くらいかかって「所得税の調査報告書」を書き終えた。出来あがった報告書を小石川夫妻にFAXし、感想を聞いたところ・・・。

 

「自分達の心情も分かってもらっている文章になっています。その通りです。」と、昭夫は電話で返事をくれたのだった。

 

 多田税理士は、沖山税理士から税務署への「質問書」も書くようにと指示されていた。納税者からの「調査報告書」に記載してあることが事実ならば質問検査権の乱用であり、非常に大きな問題があるという内容だ。

 

 会議室での恫喝は、昭夫と昭夫の父親の所得税についての面会時の出来事なので、所得税の調査官については職権乱用だから、事実関係を認めるまでは調査の延期を申し出ることとし、事実関係に誤りがあれば指摘してほしい、とも記載していたのだ。

 

 更に、質問に対する回答が速やかに得られないようであれば、自分のホームページに、調査関係者の実名報道をする意思があるとも質問書には記載していたのだった。

 

  多田税理士は、質問書を書くにあたり、尾戸巣税務署の会議室に誰がいたのか確かめねばならなかったので、鳥栖税務署に電話で聞いてみることにした。

 

 尾戸巣税務署に電話をかけ、個人課税2部門の初永上席を呼び出してもらった。

 

「税理士の多田と言いますが、小石川さんの所得税の調査についても私が委任を受けることになりましたので、報告しておきますね。委任状は、後日郵送します。ところで、面会時に同席していたのは、あなたと誰ですか。」と、初永上席に尋ねると。

 

「はい。私と野山と『イットウ』です。」と、初永上席。

 

「『イットウ』ちゃなんね。税務署用語はよく分からんので教えてもらいたいんだけど。」と多田税理士。

 

「『イットウ』は、一部門の統括です。」と、初永上席。

 

「ああ、一部門の統括ね。黒石黒雄ね。」と、名前が判明したので、ひとまず安心した多田税理士であった。

 

「それより、多田先生。委任を引き受けられる前に一度お会いしたいのですが。明日はいらっしゃいますか。」と初永上席。

 

「ああ、明日ね。明日は坂行政評価事務所に行く予定だからダメですね。」と多田税理士は初永上席との話しを終わらせようとしていた。

 

「今、小石川さんの調査の件で質問書を書いているから、それを行政評価事務所にもって行きますよ。」

 

 ここまで、穏やかな口調だった初永上席は口調を荒げて「そんな、質問書出したって文書で回答なんかしませんよ。」と、無駄なことをするなと言いたげだった。

 

「いいですよ別に。じゃあ。ガチャリ。」電話終了。

 

 電話を切った多田税理士は、質問書を書き上げて、最終の助言をもらうべく沖山税理士に報告書と質問書をFAXしたのだった。小石川夫妻には、沖山税理士に相談することについて、既に承諾もらっていたのだ。

 

 平成14年12月4日にインタビューをして、翌日の5日に税務署に電話をかけ調査報告書と質問書を書き上げ、6日には坂行政評価事務所に小石川夫妻と出向くことにしていたのだが、沖山税理士からの連絡はまだ来ない。

 

 6日に坂行政評価事務所に出向き、係官に税務調査のこれまでの概要を話し、報告書と質問書を見せた。

 

「分かりました。多田税理士さんが、税務調査の苦情相談に見えられたことを、今から総務課長さんに電話しておきますね。」と係官は、親切に対応してくれた。

 

 行政評価事務所とは、国や特殊法人(JR、NHK等)が行っている業務について、国民から苦情や意見を受けて中立な立場から関係機関にあっせんをする総務省の機関である。あっせんは、強制力などはないので強引な税務調査を止めさせることはできないが、税務調査に関する苦情相談の実績作りのために、行政評価事務所に出向く意義はあるのだ。

 

「あのー、質問ですけど。ホームページで税務署員の実名報道をしようと思いますがどう思いますか。」と多田税理士は係官に相談すると、「あーどうぞどうそ。公務員の職務中の行動はプライバシーではないですからね。悪質だったらドシドシやったらどうですか。」との係官の返答に、多田税理士は安心したのだった。

 

「ただ、納税者の方のプライバシーには気をつけて下さいね。」と、係官は別れ際にアドバイスしてくれた。

 

 多田税理士と小石川夫妻は、坂行政評価事務所の駐車場にいた。

 

「こうやって、外部の機関に税務調査の苦情を報告しておくことも大事なことなんですよ。弱腰の税務署員だったら、『こりゃあ大変だ』と思う可能性もありますしね。謝ってくる可能性もありますよ。でも、尾戸巣税務署はガラが悪いという評判らしいので、あまり期待はできないかもしれませんがね。」

 

「それから、税務署員の実名報道は、あっさり『いいですよ』と言ってくれましたねえ。」と、多田税理士。

 

「そうですね。ちゃんと謝ってもらいたいですよね。でも、今日は行政評価事務所の方にも報告ができて良かったと思いますよ。係官も励ましてくれましたからねえ。」と昭夫は、満足した表情で話すのだった。

 

 しかし、6日の午前中、ここにいる3人に全く知らせることなく、初永上席達は、小石川商店の事務員に質問をしに行っていたのだ。多田税理士が所得税の調査の委任を受けたので、慌てて事務員から証言を取っておきたかったのだ。姑息な行動である。

 

 この日の午後、沖山税理士から電話があり、『今の内容ではまだまだ甘い!』と指摘を受けたのだった。

その厳しい指摘とは・・・・・。


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