タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第8章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(尾戸巣税務署の会議室で、小石川夫妻は黒石第一部門統括官『イットウ』に「うそ言ってんじゃないよ。遊びでやってんじゃないぞ」机を叩かれて大声で恫喝をうけたのである。そして、父親も7年間脱税をしていただろうと、執拗に同意を強要されたのであった。それでも、妻の彩子は、ある思い出した事実を話すのだが。)

 

恐る恐る、彩子は思い出したことを話し出したのだった。

 

「あのう。平成13年の売上のことで、主人と事務員が160万円がどうのと話してたことを覚えているんです。ちょうど、台所で聞いていたんです。」と、彩子が話すや否や、黒石『イットウ』の顔が硬直し、これまで以上の大声で怒鳴り出すのであった。

 

「何をとぼけたことを言ってんだ。そんな前のことを覚えている訳がねえじゃねえか。じゃあ、それは何年の何月何日の何時何分だったんだ」と、噛みつかんばかりの大声で小石川夫妻を怒鳴りつける黒石『イットウ』であった。

 

 彩子は、緊張と恐怖で頭が真っ白になってしまった。

 

そして、必死の抵抗を試みたのだった。

 

あなたは、脅かしているんですか。そんな何時何分まで覚えている訳がないじゃないですか」と、我を忘れて大声で応酬したのだった。

 

 

 野良猫が民家に入りこんで、家人から追いこまれている時は恐怖感一杯で逃げ回るのだが、部屋の隅に追いやられてしまい、逃げ道がなくなるような絶体絶命の恐怖にまで追いこまれると、逆上し、家人に向かってきて逃げきってしまうことがある。

 

 ちょうど、追い込まれた野良猫のように、恐怖感の絶頂に追いやられた彩子は、逆上し、反撃にでたのであった。彩子は、緊張し興奮しきっていた。自分で心臓の鼓動が高鳴るのがハッキリ分かったのだった。

 

「もういやだ、早くここから帰りたい」彩子は心の中で、そう叫んだのだった。

 

 黒石『イットウ』も、彩子の逆襲にあうとは予想していなかったので、以後は、普通の口のきき方に戻ったのだが、小石川夫妻の言い分には一向に耳を傾ける様子はなかったのだった。

 

 このような小石川夫妻は、このまま税務署の会議室での面会に絶えねばならないのだろうか。いやいや、そんなことはない。税務署の任意調査には、取調べる権利などないのである。警察のような司法権はないのである。さっさと、帰って構わないのである。

 

 

「納税者を恫喝する調査など、違法調査であり、公務員の職権乱用なので、このような違法調査を受ける義務はないので、本日は帰ります。」と言って帰ればいいのである。引きとめる権利は税務署にはないし、もし、強制的に会議室に引き止めたら、それこそ「監禁」したことになり、職権乱用罪で刑事告発できるし、刑法220条の監禁罪が成立するのである。もちろん、国家賠償法で損害賠償を求める訴えをすることも可能になるのだ。

 

 あくまで、警察の取調べではないということである。

 

 

 任意調査は、あくまで、納税者の承諾を前提にしているのである。税務署に呼び出されても、用事を思い出せば帰っていいし、時間がかかりすぎるようであれば帰れるのである。

 

 このように、自分の都合をハッキリ伝えてそのように行動して良いのである。もちろん、このように税務署との面会に支障があった場合、税理士に相談し今後の対応を検討せねばならないのだ。あくまで、税務調査を受ける義務は間接的に強制されているのだ。

 

 あとは、このような相談に乗ってくれる税理士を探さねばならない。これも結構骨の折れることだろう。つまり、税理士のおおよそ半分くらいは税務署出身の税理士であって、昔は、黒石『イットウ』と同じことをして、有無を言わさず税金を取りたててきたのかも知れないし、税務署員と一緒になって納税者を追及する税理士もいるかも知れないのだ。

 

 そして、大半の税理士は、税務署からニラマレルようなことはしたくないと考えているし、まして、税務署に抗議に出かける税理士など稀の稀なのである。

 

 しかし、そう言った税務署と戦う姿勢の税理士がいないわけではないのだ。沖山税理士は、勇敢にも税務署と戦う税理士なのだった。

 

 多田税理士は、沖山税理士を尊敬しており、徹底して納税者の側に立つ姿勢を学びたいと考えていたのだった。正に、格好の事件が多田税理士に振りかかったのであった。

 

 さて、尾戸巣税務署の会議室では、父親の脱税を認めろとの説得が続いていたのだった。証拠は何も提示されていないのに、である。強要罪すれすれなのだ。

 

 

「とにかく、平成13年分については払いますよ。」と、昭夫がしゃべると、黒石『イットウ』は、「そんな問題じゃないよ」と吐き捨てるように言ったのだった。

 

 昭夫の不安は膨れ上がった。『そんな税金を払うだけでは済まないとはどういうことなんだろう』と、言い知れぬ不安感に襲われたのだった。

 

 これも、任意調査では脅し文句になる。任意調査とは、行政処分の為の調査なのであり、全く調査に協力しないと、罰金などが課せられることもあるが、調査に協力している場合には、不足した税金があれば払えば終わりなのである。

もちろん、罰金的な加算税を上乗せして払うことになるのだが、税金を払えば済む問題なのだ。巨額脱税事件ではないのだから。

 

 黒石『イットウ』は、昭夫に対し、「社長はそもそも初日から逃げていましたよね」とも言い、昭夫が予定の用事で調査初日にはいなかったことを逃亡していたと決め付けたのだった。

 

 また、「社長は売上金を事務員に回さんで、直接懐にいれていたんじゃないの」とも、発言していたのだった。この発言は、全くの憶測で、事実関係を示す証拠は一切提示されていなかったのであった。まさに、恐喝するヤクザのもの言いそのものである。

 

 税務署とは、広域暴力団の親戚にも見えてくる。

 

 黒石『イットウ』は、会議室から出る際に「すみませんでしたね。私は頭に血が昇りやすいんでね」と言ったのだった。

 

 昭夫は、この言葉にも憤慨していた。机を叩いて大声を上げたのは会議室に入ってすぐのことである。

 

 

 言い合いなどする間も無く突然の出来事なのだった。税務署員は、感情の趣くままに、まるで子供が駄々をこねるように、社会人としての自制心もなく、勝手にわめき出すものらしい。それを、堂々と認めているのだから、愚か者丸出しである。

 

 ここまで、会議室での出来事を思い出した小石川夫妻は、怒りの表情に変わっていたのだった。

 

「それで、先代が年間300万円を7年間ごまかしていたことは確かなんですね。と、初永さんにお尋ねしたところ、確かです、と答えられたので、でしたら、多田先生に相談して、多田先生が払わなきゃいけないとおっしゃれば払います。と言って帰ってきたんです。」と、昭夫は多田税理士に話したのだった。

 

 「そうですか。お尋ねしてみると、A4用紙1枚以上になりますね。では、これから、本日お尋ねしたことをまとめますので、後で目を通してもらえますか。」と多田税理士は、小石川夫妻に告げたのだった。

 

 多田税理士は、今日のインタビューの結果を「所得税の調査報告書」としてまとめることにしたのだった。

 

 さて、多田税理士は、報告書がまとまった後は、どのような行動を考えているのだろうか。

 

 では、次回の展開をお楽しみに。


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