タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第5章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

(多田税理士は、小石川夫妻が税務署員から怒鳴られ机を叩いて脅かされたことを沖山税理士に相談した。沖山税理士は強行に税務署に抗議するように多田にアドバイスした。多田は、少々腰が引けていたのだが、沖山税理士のアドバイスに従うことにした。そして、小石川商店の事務員は、税務署での面会のことを涙ながらに話すのであった。)

 

女性事務員の話しは、こうだった。

 

「尾戸巣税務署から呼び出されて、行ってみると、会議室みたいな部屋に通されたんですね。それで、所得税の調査に来られていた、初永さんと「トウカツ」と呼ばれる方がいろいろ質問されたんです。」

「はい、それで・・・」と、多田税理士。

 

「それで、椅子に座って間もない頃でした、振替伝票を見て、初永さんが『書き直しているところがあるようですが』と言われて、私は、『そうですか』と曖昧な返事をしたところ・・・」

 

「ウンウン」と頷いている多田税理士。

 

突然、『トウカツ』と呼ばれる方が、大きな声と強い口調で『本当のことを言って下さいよ。ほおっんとうのことを』と、机をドンと叩いて言われたんです。」

 

「一瞬とってもびっくりしました。私、父親にも夫にも怒鳴られたことなんてなかったんです。ウウツ・・」

 

 

 女性事務員は、尾戸巣税務署の個室での面会の様子を思い出し、その時の恐怖感と屈辱感を思い出し、涙を浮かべてしまったのだった。

 

「そうですか、恐い思いをしましたねえ」と、女性事務員を慰める多田税理士であった。

 

「まるで警察の尋問のようだったんです。ウウッ」と、目に涙を溜める女性事務員だった。

 

『トウカツ』とは、統括調査官といって、企業で言えば係長のような役職で、税務調査の現場での直接の責任者のことである。初永は、上席調査官であるが、企業で言えば主任みたいなものだ。

 

初永上席調査官は、個人課税第2部門に所属しているのだが、怒鳴った『トウカツ』は、個人課税第1部門の統括官であった。同じ、個人課税部門なので、1部門の統括官であっても問題ないのであろうが、何か税務署側の意図があるのかも知れない。

 

「分かりました。大変でしたね。では、所得税の調査のことについて、調査初日の様子から教えて下さい。」

 

 多田税理士は、所得税の調査について、女性事務員と小石川の妻彩子から話を聞いたのだった。

 

 調査の初日は、いきなり4人での訪問であったが、以後、所得税の調査は初永・野山両上席調査官が訪問していたのだった。

 

 まず、事業を引き継いだ小石川昭夫の平成13年と12年の総勘定元帳・振替伝票・日計表(日々の売上の原始記録)を丹念に調べ、女性事務員に記録方法などを尋ねる形で調査は3日連続で行われたのだった。

 

 そして、初永上席調査官達は、帳簿等を預って帰り、その後、更に3日間小石川宅を訪問し、父親時代の帳簿関係も預っていったのだった。

 

 多田税理士は、税務署員が残していった「帳簿書類等の預り証」を見ながら、彼女達の話しを聞いてメモをとっていた。

 

多田は、「おそらく、昭夫さんが女性事務員に振替伝票を書き直しさせていたことを見つけて、父親も同じようなことをしていなかったか調べているんだな」と、一人考えていた。

 

 事実、平成13年分については、売上を160万円ほど少なく申告しており、その売上に合うように、女性事務員は毎日コツコツ、日計表と現金出納帳を書き直し、総勘定元帳のパソコン入力を変更していたのだった。

 

「脱税は良くない。だからと言って、任意調査なのに納税者を怒鳴って良い訳がない」と、多田税理士は考えていた。

 

 

 税務調査には、二通りの調査があり、強制調査は、裁判所が許可状を交付して、強制的に脱税の証拠を検査したり捜索・差押をすることで、国税局査察部の査察官が行う調査で、課税処分はもとより、悪質な脱税の場合、検察庁に脱税容疑で告発することを目的としている。映画でおなじみの「マルサ」というやつだ

 

 国税局には、査察部の他「資料調査課」という部署もあり、同じ国税局の職員であるが、「資料調査課」の職員は「実査官」といい、査察官のように強制調査はできず、「任意調査」の権限しかないのだ。

 

 だから、国税局から来たと言っても単純に「査察官」が来たと思ってはいけないのだ。規模が大きい会社などは、国税局が管轄しており、資料調査課が訪問してくることもあるが、それは、任意調査であって強制調査ではないのだ。

 

 では、任意調査とは、通常税務署が行う調査で、強力な強制権はないものの、質問に答えなかったり、調査を理由なく拒否したり、ウソの答弁をすると、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられるのだ。

 

 任意調査といえども、間接的に強制される訳なのだが、強制調査ほどの強制力はない。税務署員は、特定された質問対象者に質問をして、納税者の了解のもとに帳簿書類その他事業や相続に関係のある「もの」を検査できるのだ。

 

 要するに、税務署員が調査に来た場合は、任意調査なのであるから、プライバシーや基本的人権も守られなければならないのだ。

 

 しかし、小石川夫婦や女性事務員は、税務署の個室で税務署員に囲まれ、怒鳴られて机を叩いて威嚇されたのだった。まるで、強制調査である。そして、刑事事件の犯人扱いである。自白を迫っているような「トウカツ」の面会であった。

 

「脱税を助けることはできませんよ。ゴマカシテいたんならちゃんと認めて、払うものは払わんといけませんよ。」と、多田税理士は小石川彩子に話したのだった。

 

 女性事務員から、調査内容を聞き終わった頃、小石川昭夫が事務所に戻って来たので、今度は、小石川夫婦から尾戸巣税務署での面会の様子を聞くことにした。

 

「税務署の会議室では、税務署員は何人でしたか。」

 

「初永さんと野山さんと、あと『トウカツ』と呼ばれていた人の3人です」と、小石川昭夫が答える。

 

「こないだ、お電話で話した、税務署員がしゃべった内容を書いた用紙はありますか」

 

「はい、これです」と、彩子がA4版の1枚の書類を多田税理士に渡した。

 

「エー、たったこれだけですか。2時間以上も面会していたんでしょう。」と、がっかりする多田税理士。

 

「頭が混乱して、なんて言われたのか、うろ覚えなんです。とにかく、恐かったですし・・・」と、彩子。

 

「じゃあ、分かりました。私がこれから質問しますから、徐々にで良いですから、当時のことを思い出して下さいね。私が、メモしますから。」と、言って小石川夫婦に質問し、メモを忙しくとる多田税理士であった。

 

 小石川夫妻は、税務署での面会の様子を始めから思い起こし、徐々に、当日の会話の内容を思い出してきたのだった。

 

 多田税理士は、二人の話しを聞きながら「なんてヒドイこと言うんだ。なんてとんでもないことを言うんだ」と、怒りを感じていた。その面会の様子とは・・。

 

 

 次回をお楽しみに。


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