タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第54

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、小石川親子に対する更正処分について、異議申立てができる旨を説明しようとしたのだが、小石川夫妻の表情がいつもと違う暗いものであった。

 

「今回の更正処分で納税する税額ですが、異議申立てが認められれば還付されることになりますし、もし、認められなくても、次は、国税不服審判所に審査請求をすることができるんですね。それで、認められた場合に税額の還付ということになるんですね。で、それでも、こちらの主張が認められなかった場合には、地方裁判所に課税処分が不当であるとして税務訴訟を起こせるんです。」と、今後の活動について解説するのであった。

 

 小石川夫妻は二人とも冴えない表情で多田税理士の話しに耳を傾けていたのであった。

 

「つまりですね。税務訴訟は、いきなりは無理なんですね。まずは、行政庁である税務署に不服申立てをしなければならないんですね。そして、なお、行政庁の処分に変更がないことが決まった場合でないと訴訟は起こせないようになっているんですね。」

 

「はあ・・」と、何故か気のない返事の昭夫であった。

 

「まあ、税務訴訟となれば弁護士さんのお世話にならないといけないですが、国税不服審判所までは税理士でできますから、是非チャレンジしましょうよ。ねええ、小石川さん。」

 

「あのう。その異議申立てをしたら、その後はどうなるんですか。また、調査とかあって、また税務署員が家に来ることになるんですか。」と、暗く沈んだ声の昭夫であった。

 

「ええ。まあ、そういうことになります。でも、恐らくですが、前回の税務署員ではない人が改めて調査することになりますし、必ず私も立ち会いますし、ましてや税務署の会議室で怒鳴られることもありませんので安心してください。」と、多田税理士。

 

 小石川夫妻は、元気なくうつむいたままであった。ついこないだまでは、異議申立てについて意欲的な態度であったことが嘘のような態度であった。多田税理士は、小石川夫妻のいつもと違う雰囲気にとまどいを感じ始めていたのであった。

 

「あのう。税務調査がこんなに長引いてしまって、私達正直疲れてしまったんですね。今回、更正処分の税金を払うと一旦落ち着くじゃないですか。そう思うと、また、あの税務調査の延長戦があるとなると、なんかこう憂鬱な気分になってしまうんですね。そして、なんかこう気力が出て来ない感じなんですよ。なあ、おい。」と、彩子に視線を向ける昭夫であった。

 

 彩子も静かに頷き、申し訳なさそうな表情で上目づかいになって多田税理士に顔を向けた。

 

「う〜ん、そうですか。前回までは、お元気に異議申立てをするとおっしゃっていたんで、意外なお話に戸惑ってしまいますねえ。何か、あったんですか。もし、何かあったのなら教えて頂きたいんですけど。どうなんですか。まさか、税務署から何か言ってきたんですか。それで怖くなったんじゃあないでしょうねえ。どうなんです、小石川さん。」

 

「いえいえ。税務署から連絡などありませんよ。ただこう気力が抜けてしまったというか、疲れてしまったというか・・・」と、うな垂れる昭夫であった。

 

「異議申立ての税理士報酬が気になっているんでしたら、成功報酬で構いませんよ。異議申立てや審査請求で税額が還付されたら報酬を相談させて頂くということで私はまったく構いませんよ。」

 

「いえ、先生の報酬が問題な訳ではまったくありませんよ。多田先生や沖山先生にはもう精一杯私達のために頑張って頂いたことは感謝しているんです。ただ、一区切りついてしまうと、なんかこうこのまま終わりたい気分になってしまったんですね。」

 

「そうですか、う〜ん・・・」と、多田税理士は落胆した表情になってしまった。

 

 しばし、沈黙の時間が流れた。

 

「そうですか。分かりました。無理に異議申立てをしてくださいとも言えませんし、ご本人がされたくないのであれば仕方ありません。当方は、もう何も申し上げることはありません。ただ、もし心境の変化でもありましたら早めにお願いしますね。急に気が変わられても、異議申立ての準備もまだできてませんのでね。よろしくお願いしますね。」と、多田税理士。

 

「すみません。多田先生。成功報酬でいいなどと気を遣って頂いて。あっ、今回までの税務調査の報酬やらあると思いますので請求してください。すぐにお支払いしますので。」と、明るい表情に変わった昭夫であった。

 

「すみません。実は、当方も資料を持ってきまして。」

 

 多田税理士は、鞄から資料を取り出した。その資料には、税務調査の立会の日付や要した時間が記録してあった。

 

「一応、今回までが一つの区切りでしたので、これまで要した日数や時間を集計してみたんですね。それで、こういう金額になるんですけどもよろしいでしょうか。」と、これまでの報酬を知らせ小石川の了解を得ようとする多田税理士であった。

 

「はい、分かりました。すぐにでもお支払いしますので。今がいいですか。」と、昭夫。

 

「いえいえ。今すぐなどとは言いません。この金額で了解いただければ、これから請求書を作成しますので、銀行振り込みでお願いします。」

 

「はい、では請求書が着きましたらすぐにお支払いします。ほんとに、長い間私達に付き合ってくださってありがとうございました。本当に助かりました。」と、テーブルに両手をついて頭を下げる昭夫であった。

 

「いえいえ。まあ、税理士としてやるべきことをやっただけですよ。こんなかたちで終わってしまっていいものかどうか分かりませんが。」と、笑顔の多田税理士であった。

 

「いや、もう私達にとっては十分です。税務署で怒鳴られた時には、この先どうなるのか不安と恐怖と怒りで混乱してしまって、多田先生にご相談してキチンと対応して頂いて感謝しています。なあ、おまえ。おまえからもお礼を言いなさい。」と、彩子に話す昭夫であった。

 

「多田先生ありがとうございました。」と、彩子。

 

「まあまあ。こちらこそ色々と勉強させてもらいました。特に、沖山先生と一緒に調査立会いができたことは私にとっての大きな財産になりました。これも、小石川さんとご縁があったからなんでしょうね。アハハ。」と、笑う多田税理士。

 

「いや〜。ほんと、沖山先生の力強い発言は頼もしかったですね。それに、多田先生にも頑張って頂いて、感謝しています。私の周りにも相続の申告を控えたやつがいますから、弁護士的税理士がいるって宣伝しておきますよ。」と、上機嫌の昭夫であった。

 

『弁護士的税理士とは、どんな税理士だ?』と、昭夫の言葉が気になった多田税理士であった。納税者の財産を守る姿勢が見受けられたからなのだろうか。それとも、税務署の言いなりにならない姿勢がそう言わせたのであろうか。

 

「だって。普通の税理士さんて、だいたい税務署の言いなりでしょう。どっちの味方かわからないって感じですよ。でも、沖山先生や多田先生は違ってましたねえ。それだけでも、ほんと嬉しいんですよ。私らはね。」と、昭夫。

 

『普通はそんなもんかなあ』と、思いつつ、他の税理士の税務調査を知る由もない多田税理士は、昭夫の言葉を不思議な感じで受け止めていた。

 

(さて、いよいよ次回で第7話は終了します。)


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