タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第5

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、小石川家に届けられた更正処分の通知書の確認をしていた。そして、配偶者の税額軽減の確認であることに気付くのであった。

 

「ん〜っと。今回の父親名義の定額貯金の分を加えたところでの母親の相続した財産や約12,961万円でしょ。そうすると、母親の相続財産の取得割合は法定相続分の50%を超えて66.4%になったけれど、16,000万円までは配偶者の税額軽減が適用されるんだったよなあ。通常の場合はね。」と、電卓をはじく多田税理士であった。

 

「あ〜あ。そうか、なんだ。じゃあ、申告財産に加えないで隠していた親戚名義の定期預金分2,600万円と今回の父親名義の定額貯金分2,000万円を加えても、母親の相続した財産は16,000万円以下だから、本来、最初から申告財産に加えていても、母親については相続財産の全部について配偶者の税額軽減制度の対象になっていて、納税額はなかったのかあ。あ〜あ、最初から正直に話してくれてたらなあ。」と、ため息をつく多田税理士であった。

 

「ん。すると、母親については、修正申告で納税した310万円と今回の更正処分された相続税本税494万円と修正申告の重加算税109万円と今回の更正処分の重加算税173万円を合計すると、1,086万円になる訳で。そして、当初から、申告財産に加えていたら、配偶者の税額軽減が使えたので納税額はゼロだったんだ〜。1,086万円は払わなくてよかったことになるんだ。」

 

「まあ、今回の父親名義の定額貯金分の相続税本税と重加算税の合計667万円については、今後、異議申立てをして取り戻す可能性はあるものの、親戚名義の定期預金分は隠してたから本税と重加算税の合計419万円についてはまったくの無駄な納税と言うことになるんだなあ〜。」と、自分のことのようにガックリ頭を垂れる多田税理士であった。

 

「やはり、配偶者の税額軽減制度の威力はすごいなあ。それに、仮装・隠蔽の場合に適用がないことのインパクトも大きいし、更正処分については適用がないことも大きいなあ。まあ、最初から正直に申告した人と、ごまかした人との差は大きいのは当たり前なんだろうけどね。何度も、他に申告財産はありませんかって聞いていたけどなあ。やはり、俺の説明不足なのかなあ。う〜ん。まったくもって残念。」と、嘆き節の多田税理士であった。

 

 更に、小石川昭夫の更正通知書の確認を始めた多田税理士であった。

 

「う〜、タイトルも母親と一緒かあ。まあ、当然といっちゃ当然だよな。修正申告も今回の更正も、母親が財産を相続したけど、相続財産が増加した分相続人の負担する相続税額も増額する訳だから、息子の相続税も当然増加するよな。で、修正申告の本税が170万円で、これは本来納税すべき金額だからなんの損もないけど、この修正申告の本税には59万円の重加算税がかかる訳で、これが、親戚名義の定期預金分を隠してなかったら払わなくてよかった訳だよね。それで、今回の更正処分での相続税の本税は123万円で、この重加算税43万円の合計166万円は、今後の異議申立ての結果次第では戻ってくる可能性がある訳だ。」と、修正申告と更正処分の結果をどのように伝えようか思案中の多田税理士であった。

 

「ん〜そうだよな。異議申立てをするにしても、今回の更正処分という行政処分の効果はなくならないのだから、一旦は、更正処分の係る本税と重加算税は支払うしかないもんなあ。それで、この更正と重加算税の賦課決定処分は無効であると主張するんだよなあ。」

 

「で、異議申立ての期限は2ヶ月以内だから97日までだから早目に書類の書き方やらを勉強しとかないかんなあ。」と、これからのことを考えてしまう多田税理士であった。

 

 小石川昭夫から送ってもらった、更正処分の内容の確認を終えた多田税理士は、小石川家に報告の電話をしたのであった。

 

「ああ、多田先生ですか。お疲れ様です。どうですか、先日の税務署からの資料はあれでよかったでしょうか。」と、昭夫。

 

「はい、その件でお電話したんですけど、内容を確認しましたら、やはり、郵便局の定額貯金の内お父さん名義の分についてだけ更正処分の対象になっていました。ですから、郵便局の定額貯金につきましては、お母さん名義や昭夫さん彩子さん名義のものも今回はっきりとお父さんの相続から除外して良いことも確定しました。ですので、お父さん名義の定額貯金分について異議申立てするかどうかの最終判断をすることになります。」

 

「はあ、そうですか。やはり、父名義の郵便局の定額貯金については更正処分してきたんですね。分かりました。で、こちらにある納付書はどうすればいいんですか。多田先生の所に持って行った方がいいんでしょうか。それとも、当方で記入してもいいんでしょうか。」と、納税が気にかかる昭夫であった。

 

「はい。異議申立てするにしても、こちらの主張が認められるまでは行政処分の効力は有効ですから、納税義務はありますので、一旦は税務署から通知された金額を納税してください。後は、その納税額を取り戻す活動をするかどうかになります。金額と住所氏名を書くだけですから、納付書はそちらで記入してもらって構いませんよ。で、納税期限は87日ですので、約1ヶ月ありますから定期預金の解約の検討にも十分な時間はあると思いますよ。」と、多田税理士。

 

「分かりました。納付書はこちらで書くことにします。母の分と私の分と合わせて今回は1,000万円位ですか。私達ように額に汗してコツコツ働いている一般庶民にとっては大きい金額ですね。ハッハッハ。」と、余裕の笑い声の昭夫であった。

 

「資金不足でないことは承知しております。ただ、お母さんの納税資金はお母さんの預金で行ってくださいね。昭夫さんについても同じです。ご自身の預金から納税してください。贈与税の問題が発生しますので十分気をつけてくださいね。それと、今後のことについて打ち合わせのために訪問したいのですが、そちらの都合の良い日時を教えてくれませんか。」

 

「はい、分かりました。今月はちょっと忙しいもので来月の初め位になりそうですが、はっきり決まりましたら女房に電話させますから。」と、昭夫。

 

「来月ですか。まあ、異議申立ての期限は2ヶ月ですから間に合いますから大丈夫です。では、お電話をお待ちしております。」と、少々がっかりして電話を切る多田税理士であった。

 

 多田税理士は、すぐにでも異議申立ての準備に入りたかったので間が空くのが気がかりであった。

 

 納税者の意思を確認しないまま、異議申立ての準備に入っても徒労に終わることもある。仕方がない。小石川昭夫の気持ちを確認するまでは、少々休憩することにした多田税理士であった。そして、小石川家への訪問日は84日月曜午後130分と決まった。

 

当日を向かえ、多田税理士は小石川家に居た。いつも明るい小石川夫妻だが、これまでと様子が違う。二人の笑顔が見つからない。

 

「納付書を用意されてたんですね。じゃあ、確認しますのでね。」と、今回の更正処分にかかる金額と納付書の金額を確認する多田税理士であった。

 

「はい。合ってますね。87日が期限ですので。よろしくお願いします。では、今回の更正処分についての今後のことについて説明したいと思います。異議申立てができる処分につきましては、お父さん名義の郵便局の定額貯金部分となります。お母さんの本税と重加算税を合わせて667万円分となりまして、昭夫さんにつきましては同様に計算しまして166万円となりまして、お二人合わせて833万円の課税処分について異議申立てすることができます。」と、資料を見せながら小石川夫妻に話す多田税理士であった。

 

 いつもなら、身を乗り出して多田税理士の話を聞く二人なのだが、いつもと様子が違うのだ。あまり、乗り気ではないような暗い表情の小石川夫妻であった。異議申立てに不安があるのだろうか。


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