タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第52章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、修正申告書を提出する場合と更正処分の場合では、配偶者の税額軽減額の適用に大きな違いが出ることを昭夫に伝えた。当初の修正申告の方針どおりか、郵便局の父親名義の定額貯金分を含めるか最終判断の時を迎えた。

 

「う〜ん。やはり、当初の主張のとおりですね、郵便局の父親名義の定額貯金については、母親のものですので、たとえ税金上不利になっても、修正申告には加えない方向で行きたいと思います。」と、昭夫。

 

「そうですか。念のためにお伺いしただけですから、気にしないで下さい。それに、たとえ修正申告するとしても、仮装・隠蔽行為があったと判断せざるを得ませんので、基本的に、配偶者の税額軽減については適用がないことになっているんです。ただ、税額の按分計算上少しは適用額が増加するだけなんですね。まあ、更正処分では、まったく配偶者の税額軽減はありませんから、修正申告に加える方が税金上は有利になりますが、当初の主張と違うことになりますしね。」と、多田税理士。

 

「多田先生、もういいですよ。当初の方針通りに行きましょう。いろいろ心配してくださってありがとうございます。」と、昭夫はニッコリ。

 

「わかりました。じゃあこの話はここまでとしまして、それではこの修正申告書に印鑑をいただけますか。」と、微笑む多田税理士。

 

「はいはい、ここですね。じゃあ、ここが母の印鑑ですね。そして、ここが私の印鑑ですね。」と、昭夫。

 

「はい、ではこれが納付書です。やはりこないだお話していましたとおり、お母さんは310万円で昭夫さんは170万円となりました。これは、修正申告した本税ですから、納付後に重加算税と延滞税の納付書が税務署から送ってきますので、期限までに納税してください。」と、納付書を応接セットの机の上に置く多田税理士であった。

 

「はい、分かりました。この分は仕方ないっすよね。でも、郵便局の父親名義の分は守りたいですよね。」と、笑顔の昭夫であった。

 

「はい、そうですね。税務署の方針は調査で言った通り父親名義の郵便局の定額貯金については、更正処分をしてくるのでしょうが、本当に処分してくるのかどうかもまだ決まった訳ではありませんし、実際の処分を待つしかないと思います。そして、実際に、更正処分してきたら、その時は、税務署に異議申し立てをすることができますので、じっくり検討してから取り掛かりましょう。」と、今後の方針を話す多田税理士であった。

 

「じゃあ530日に修正申告書を提出しますので、納付の方も530日にお願いしますね。あっそれと、もし更正処分の通知書が来た場合には、すぐに連絡してくださいね。」

 

「あ〜、それとですね。まだ先の話ですが、異議申し立てをしてそれが却下された場合にはですね、国税不服審判所に審査請求をすることができるんですね。それで、その審査請求でも却下されてしまった場合に坂地方裁判所で裁判ができるんです。」

 

「税金の場合には、税務署の課税処分に不服があった場合には、まず、行政庁に不服の申し立てをしてからでないと、裁判できない仕組みになっているからなんですね。面倒でも、異議申し立てからやらいといけない訳ですし、まあ、逆に言えば、裁判まではしなくても、行政庁相手の審査請求までは我々税理士でできることですのでやってみる価値はあると思いますよ。」と、これからの概要を話す多田税理士であった。

 

「はい。分かりました。これからのことは多田先生にお任せするしかありませんので、よろしくお願いします。」と、頭を下げる昭夫であった。

 

 多田税理士は、530日になって、修正申告書を尾戸巣税務署に郵送したのであった。後は、小石川昭夫からの連絡を待つのみであった。

 

 6月に入って小石川家からは、なんの連絡も入らなかった。そして、7月10日に小石川昭夫から、多田税理士の事務所に電話連絡が入った。

 

「あっ、多田先生ですか。税務署からなんか通知書が送ってきました。母親宛と私宛の4枚です。どうしましょうか先生。」と、昭夫。

 

「ああ、それではその書類をFAXしてもらうかコピーして郵送してもらえませんか。書類を見てから、色々確認しておきたいこともありますし。それから、今後のことをお話にお伺いすることにしたいと思いますので、よろしくお願いします。」と、多田税理士。

 

「はい、分かりました。では、書類をコピーして郵送させますので、よろしくお願いします。私達じゃどうしていいかわからんもので、すみません。」と、恐縮する昭夫であった。

 

「やはり、更正処分してきたか。」電話を切った多田税理士は、通知書の内容を確認したくて仕方ないのだが郵送を待つ他なかったのだ。翌日、小石川昭夫からの封書が多田税理士の事務所に届いたのだった。

 

 多田税理士にとっても、税務署からの更正処分の通知書を見るのは初めてなのであった。まずは、母親宛の書類のタイトルの確認からだ。「相続税の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」とある。日付は、平成1577日。

 

その文章は、「平成12418日(相続発生の日)の相続開始に係る相続税及びその加算税について右の表のとおり更正及び加算税の賦課決定をします。したがって、この通知書により納付すべき税額は、次のとおりとなります。」「納付すべき本税の額4,943,700円・重加算税1,729,000円(35%)」納期限は、87日までとなっている。

 

更に、「なお、この処分の内容について不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して2ヶ月以内に尾戸巣税務署長に対して異議申立てをすることができます。」とある。

 

また、この通知に係る処分の理由には、「被相続人 小石川明氏名義の定額貯金(元利計20,230,000円)が申告もれであるため。」とある。

 

そして、書類の右側に納付税額の計算明細が記載してあり、530日に提出した修正申告の計算内容と更正額の計算内容が比較表の形式で記載してある。

 

多田税理士は、小石川家の修正申告書の控えを取り出し、メモ用紙を机に広げ、さっそく記載内容について計算を始めたのだった。

 

「うん、この定額貯金の計算はこれでいいだろう。以前のメモは相続発生から1ヶ月程経過した解約金額だから、相続発生日までの金利だとこんなもんだろうな。うん、確かに、父親名義の定額貯金分が修正申告した分に加算されて計算してあるな。」

 

「ん、そうすると、課税価格は19,300万円程度になって相続税の総額は2,670万円程度になるのか。ふむ、そうだな。そして、母親の相続した財産は約12,961万円になる訳だ。そうだね、父親名義の定額貯金は母親が相続することになってたからね。その分増えるわな。そして、母親の相続財産の取得割合は3.9%程増えて66.4%になって、相続税の総額の2,670万円にこの母親の割合を乗じて母親負担の相続税を計算すると、1,770万円となるわけか。」

 

「そして、更正処分だから配偶者の税額軽減が修正申告の金額966万円で変わらないことになっているなあ。それで、1,770万円―966万円で税額804万円となって、修正申告で310万円納税済だから、今回494万円の納税になった訳ね。ぴったしそうなりますねっと。」と、電卓をはじきながら計算する多田税理士であった。

 

「ん〜、修正申告の増加財産が2,684万円で今回の更正処分の増加財産が2,023万円になる訳だな。そうすると、母親の財産の取得割合は法定相続分の50%を超えているけれども、16,000万円より少なかった訳だ。そうすると・・・・」と、多田税理士は配偶者の税額軽減の確認をしていたら、突然「はっ」とあることに気付いたのだった。


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