タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第50章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(尾戸巣税務署の方針が分かった。被相続人である父親名義の定額貯金については相続財産とみて課税することが伝えられた。税務署の方針に従った修正申告にするのか、あくまで当初からの主張に従う修正申告にするのか・・

 

 目をつむり、腕組して考え込む昭夫。妻の彩子も何もしゃべらず、昭夫が話しだすのをじっと待っていた。2〜3分程黙りこくっていた昭夫は、多田に向かって一礼をした。

 

「多田先生のおっしゃるようにしてください。」

 

「あっ、そうですか。そうですよね。当初からの主張の通り、郵便局の定額貯金については、母親名義と父親名義の定額貯金の本来の所有者は、両方とも母親自身だと主張してきた訳ですし、税務署が本当にお父さん名義の定額貯金を相続財産に加えたところで更正処分してくるのかは、本当に通知書が来てみない事には分かりませんものね。もしかしたら、口先だけなのかも知れませんしね。」

 

「ここまで多田先生や沖山先生にお世話になった訳ですし、心強い先生方がいらっしゃるので、もう怒鳴られることもないでしょうしね。多田先生と行けるところまでいきますよ。」と、元気な笑顔を見せる昭夫であった。

 

 彩子もホットしたのか、柔和な顔になっていた。

 

「そうですよ、小石川さん。それに、基本的に、修正申告の場合も更正処分の場合にも納税する税額は変わらないんですから。だったら、まずは、親戚名義の定期預金分2,600万円と2件の預金の洩れについて修正申告書を提出することにしましょうよ。そして、それから税務署がどの程度の更正処分をしてくるのか待っても良いと思いますよ。」

 

「そうですね。なんか処分って言われると罰を言い渡されるような感じに聞こえますけど、税額が変わらなくて、税理士さんから『それでいいよ』って言ってもらえると、なんかこう気持ちが落ち着きますよね。」と、昭夫は彩子にも目配せをしたのだった。

 

「それに、もうご存知のことですが、修正申告したら、もうその修正申告した内容については、何の救済手段も残されていませんからね。ですから、お父さん名義の郵便局の定額貯金分の約2,000万円分について本当に更正処分までしてくるのか確認しましょう。そして、更正処分してきたら、その時は、税務署に対して異議申し立てをしましょうよ。そして、その異議申し立ても棄却された場合には、次は、国税不服審判所に審査請求できることになっています。そして、国税不服審判所でも納税者の主張が通らないと、初めて地方裁判所に課税処分が違法であるとして訴訟をできることになっているんです。まあ、訴訟しましょうとまでは言いませんが、せめて、異議申し立て程度は頑張ってみたいですよね。」

 

「いや〜、難しいことはよく分かりませんが、先生について行きますから、今後とも、よろしくお願いします。」と、昭夫は笑顔で話す。

 

「はい。私も精一杯頑張らせて頂きますので、これからもご協力よろしくお願いします。」

 

「あっ、そうそう。これは、伝えておかなければならないんですが、親戚名義の定期預金分につきましては、仮装隠蔽(かそういんぺい)行為があった、つまり、隠して申告を故意に偽ったことになります。すると、当初の遺産分割協議書には、万が一将来この分割協議書に記載していない財産が発見された場合には、お母さんが相続すると書いてあるんですね。」

 

「なんか、そんな文章を入れることが多いと、多田先生がおっしゃってたと思います。」

 

「はい。通常の場合ですと、お母さんの相続財産が増加しても、配偶者の相続財産が、遺産総額の半分までか、1億6千万円までかいずれか多い金額までは、配偶者には税額の割引制度があって、実質無税になるんですね。配偶者の税額軽減という制度なんです。」

 

 難しい話に眉間に縦シワを作り、真剣に聞き入る昭夫であった。

 

「その配偶者の税額軽減の制度なんですが、仮装隠蔽行為があった場合には適用されないことになっているんですね。なので、今回の親戚名義を使ってあった定期預金分については適用できないことになっていますので、ご理解下さい。」

 

「はあ、適用されないのなら仕方ないのですね。今更なんともなりませんよね。」

 

「つまりですね、親戚名義の定期預金分をお母さんが相続しても、お母さんの相続財産の総額は約1億900万円程度になりますので、通常のうっかりミスや勘違いでの修正申告だったら、お母さんの相続財産が1億6千万円以下なので、納税額は出ないのですが、今回は、修正申告で納税額が出てしまうんです。」

 

「へ〜そうなんですか。そんなの知らなかったなあ〜。ちゃんと当初から多田先生に親戚名義の定期預金のことをお話しておけば良かったんですね。他人名義だと分からないだろうと変なスケベ根性出しちゃいましたからねえ〜。自業自得ですなハッツハッツハ。」

 

昭夫の笑いにつられて笑顔になる多田税理士であったが、心中は面白くないのであった。『ちゃんと最初から言えよなー』と、多田税理士の声なき声だ。

 

「すると、大体で良いですから、母親の税額はいかほどになるんでしょうか。あ、そうそう私は、相続財産が増えた訳ではないので、今回の修正申告で納税はありませんよね。多田先生。」

 

「まず、お母さんの税額ですが、最終確認をしてませんが概算で申しますと、今回の修正申告では約310万円程度になると思います。最終確認はカッチリとやりますけれども、だいたいそんなもんです。」

 

「で、昭夫さんにも今回の修正申告で納税額は出ます。つまり、相続財産が増加した訳ですから、その財産に対する相続税も増加したことになるんですね。そして、その全体としての相続税をその財産を取得した割合に応じて相続税を負担する仕組みになっているんですね。それで、相続財産を取得した割合は、昭夫さんの場合には低下して、お母さんは増加することになるんですね。しかし、相続税は超過累進税なので、相続財産が増加すればその課税される税率も増加するようになっているんですね。つまり、当初の申告の時の税率よりも今回の修正申告の税率が上がることになりますから、相続財産を取得した割合が減ったとしても、全体としての相続税が当初より増加するので、結果として、昭夫さんも納税額が約170万円程でることになりますね。これは、本来納税すべきであった税額ですね。」

 

「え〜、そうなんですか。なんか、へんな気起こさないで最初から多田先生にお話していた方が良かったんですね。」と、ため息をつく昭夫。

 

「私も、相続税の申告をお引きお受けしてから、配偶者の税額軽減のお話やら、いわゆる時効のことやら、何度もお話していたんですけどね。まだ、話たりなかったのかなあと思ってますよ。どうもすみません。」

 

「いえいえい。多田先生にそこまで言ってもらうことはありませんよ。この件については、悪いのはこっちの方ですから。すっかりお手数をお掛けしてしまって申し訳ありませんね。」

 

「それでは、修正申告書の方を早めに作成しまして、納付書と一緒に持って来ますね。しっかり、確認を取りたいと思いますので、少々お時間を下さい。遅くとも5月末までにはお伺いしたいと思っています。」

 

「はい、よろしくお願いします。お前からもお願いしなさい。」と、彩子にも会釈を催促する昭夫であった。

 

さあ、相続税の調査の方も終盤にさしかかった模様である。相続税の修正申告後は、それで完結してしまうのか、それとも、新たなる展開が始まるのであろうか。多田税理士は、不安な気持ちを抱きながらも、自ら闘志を駆り立て、修正申告の作成に取り掛かるのであった。


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