タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第48章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(応接間から倉庫二階の旧事務所での相続税の調査であったが、まだまだ調査終結とはいかなかった。

 

 平成155月上旬に、尾戸巣税務署の唐巻調査官から多田税理士の事務所に電話が入った。

 

「おはようございます。尾戸巣税務署の唐巻でございます。小石川さんの調査ですが、521日午後2時ではいかがでしょうか。」

 

「ああ、そうですか、21日ですか。ちょっと待ってください。」と、手帳をめくる多田税理士であった。

 

「あっ、はい私は大丈夫です。では、小石川さんに日程を伝えますので、もし都合が悪いようでしたら、私の方からそちらに連絡します。1〜2日しても当方からの連絡がなければ21日で了解したということでよろしいでしょうか。」

 

「はい、それで結構です。当日は、私と山口と野中統括官の3人でお伺いしますので。よろしくお願いします。」と言って、唐巻調査官の電話は終わった。

 

 今度は、野中統括官もやって来ることに、今までにない調査になるのではないかと多田税理士は考えていた。恐らく、調査の結論がでるのではないかと思われた。平成14102日の初調査から7ヶ月の長期間に渡る異例税務調査となってしまったが、いよいよ終結なのか。いやまだ分からない。

 

 4月の調査以降も、唐巻・山口の両調査官は郵便局や吉野ヶ里銀行に反面調査に行っているようであった。まだ、申告洩れ財産がないのか調査しているのであろうことは十分予想できるのであった。

 

 多田税理士も、更なる、大きな申告洩れ財産が発見されるかもしれないと不安な気持ちもあるが、事ここまで来ているのだから、小石川夫妻を信用するしかないのであった。

 

 多田税理士は、小石川宅に電話をかけて、21日の調査の日程の確認をした。小石川夫妻は快諾した。

 

 521日午後2時。多田税理士と小石川夫妻は、前回同様倉庫2階のソファーに座っていた。

 

「多田先生。前回から今回の調査まで、1ヶ月以上間が空きましたよねえ。やっぱり、調べまくっているんでしょうね。」と、昭夫。

 

「そうでしょうねえ。まあ、それが彼らの仕事ですからねえ。納得いくまで調べるんでしょうね。まあ、もう大声をあげたり、机を叩かれたりされることはありませんから、そういう点では安心してください。」

 

「アハハ・・。そうですよね。先生が頑張って税務署に抗議してくださったから私達も安心できるようになりました。ありがとうございます。」

 

 階段の下の方から声が聞こえた。

 

「尾戸巣税務署の山口です。おじゃましてよろしいでしょうか。」

 

「は〜い。どうぞ」と、彩子が返事をした。

 

 階段を上る足音がして程なく「失礼します」と、声が部屋の中に入ってきた。多田税理士と小石川昭夫の向かいの3人掛用のソファーに山口、唐巻、野中の順に腰掛けたのであった。

 

 山口調査官が、小石川昭夫に質問を始めた。

 

「前回お話しました、お父さんが借入金を返済された残金をそのまま昭夫さん名義の定期預金にされていましたが、小石川さんは借入金の返済を知っていたのではないですか。」

 

「いいえ、知りませんよ。」

 

「では、親戚の方の名義を使った定期預金についてですが、ご主人はご存知だったのではありませんか。」

 

「いえ、知りませんよ。そんなことは。」

 

「吉野ヶ里銀行の本店には、貸金庫が二つ借りてあったんですが、それはどうしてなんでしょうか。お父さんが亡くなる10日前に一つ解約されていますが、その貸金庫の中に何が入っていたかご存知じゃないですか。何が入ってたんですか。」と、矢継ぎ早の山口調査官の質問が続く。

 

「知りませんよ。そんな貸金庫の中身なんて。何で二つ借りてたかなんて亡くなった父親に聞いてくださいよ。私は、車で父親を銀行まで連れて行くことはしましたけど、いつも車で待っていましたから、そんな解約された貸金庫の中身なんて知りませんよ。」と、昭夫は腕組をして顔を横にそむけてしまった。山口調査官の質問の口調が追及型になったので不愉快な気分なってしまったのだった。そして、対立する空気が漂い始めたのだった。

 

「お使いとかで貸金庫に行ったことはないですか。」

 

「だから、貸金庫なんて見に行ったことなんてないって言ったでしょう。」と、語気が荒くなった昭夫。

 

「そういえば、平成10年に吉野ヶ里銀行のお父さん名義の定期預金200万円が解約されていますけど、奥さんご存知ありませんか。」と、山口調査官の質問は彩子に向かった。

 

「いいえ、知りまっせん。」と、キッパリ。

 

「そですか。伝票の筆跡を見ると彩子さんの字と似ているんですよ。代筆みたいですが、分かりませんか。」

 

「知りません。」

 

「あっ、そうですか。では、郵便局の定額貯金のことですけれど、始めからまた話してもらえませんか。」

 

「それは、ですからもうお話しましたように、母が預金していたもので・・」と、彩子がここまでしゃべると多田税理士が彩子の前に手を延ばして話すこと止めるように促した。

 

「郵便局の家族名義の定額貯金については、沖山先生が同席された調査の時も、そして、前回の調査でも当方の出張は十分お話しているはずです。同じことを何度も話させる必要はないでしょう。」と、多田税理士は山口調査官に向かってしかめっ面で話すのであった。すると、山口調査官は、すぐに話すのを止め下を向いてしまった。

 

「その郵便局の定額貯金ですが、解約されてますよね。」と、唐巻調査官が質問した。

 

 

「お父さん名義の定額貯金は、お母さん名義の預金にされていますよね。」

 

「はい、そうです。母のものだから母親の名義にしたんです。」と、彩子が答える。

 

「そうですか。では、解約した郵便局の定額貯金は、お母さん名義で複数の普通預金をされたと思うんですが、その通帳を見せてもらえますか。」と、唐巻調査官。

 

彩子が多田税理士の顔を覗き込むと、多田税理士はゆっくり頷いてみせた。了解のサインである。程なくして、3冊の普通預金通帳をもって彩子は戻ってきた。

 

「奥さんすみませんね。お手数をかけました。」と言い、唐巻調査官は3冊の預金通帳を開くのであった。

 

「この郵便局のお母さん名義の普通貯金に預け入れされてますが、その入金記録の所に小石川明 定額貯金 相続分って書いてありますよね。これって、お父さんの相続財産だと分かっていたから書かれたんじゃないですか。」と、唐巻調査官は質問してきた。

 

 多田税理士は、母親の普通預金のことなど何も知らないのであった。いったい何のことだかまったく分からない多田税理士であった。しかし、この後の税務調査では、普通預金の通帳をめぐって「証拠隠滅だ!」と、騒がれてしまうのであった。いったい、何が起こったというのであろうか。


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