タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第47章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(尾戸巣税務署の調査官達は、まだまだ反面調査を実行中であった。そして、やっとのこと相続税の調査の連絡がはいった。

 

 平成1548日午後150分、多田税理士は小石川宅の玄関を開けた。

 

「こんにちは。」と、多田税理士。

 

 小石川彩子が台所から出てきた。

 

「あ、多田先生。今日もご苦労様です。実は、いつもの座敷なんですけど、ちょっと散らかってまして、今日は、別の場所でいいですか。」

 

「いえ、別にどこでもいいですよ。税務署員も家の中も見ていることですし、問題ないでしょう。」

 

「じゃあ、倉庫の上が昔の事務所なんで、そこでいいでしょうか。今からご案内しますので。」

 

彩子は、サンダル履きで表に出てきた。今現在の事務所の横に倉庫がある。その倉庫の階段の前まで多田税理士を案内した。

 

「先生、2階の応接セットでお待ちください。主人に先生が見えたことを伝えてきますね。」と、彩子は言い残し倉庫を出て行った。

 

 多田税理士は、急勾配の階段を昇って2階に入った。

 

 2階には、事務机が二つと応接セットが置かれてあり、がらんとした殺風景な部屋であった。多田税理士は、応接セットの一人用のソファーに座って待った。

 

 待つこと数分、小石川夫妻が2階事務所に上がってきた。

 

「いや〜、先生お待たせしました。今日は場所を変えてしまってすみませんね。」と、昭夫は軽く会釈をした。

 

「いえ、いえ。どこでも構いませんよ。税務署員も文句はないと思いますよ。」

 

「先生、今日はどんな風に座りましょうか。先生はそこで、私が隣に座りまして、お前は俺の横に事務用の椅子を持って来て座ったらどうだ。ね、先生いいですよね。」と、3人掛用のソファーに税務署員を座らせ、彼らと対峙するように座りたいようだ。

 

「ええ、それでいいでしょう。丁度向かい合う方がいいでしょうね。」と、多田税理士。

 

 程なく、尾戸巣税務署の資産税担当の調査官の唐巻調査官と山口調査官の二人が倉庫にやってきた。1階から声が聞こえてきた。

 

「尾戸巣税務署の山口ですが、おじゃましてよろしいでしょうか。」

 

「はい。どうぞ、どうぞ」と、昭夫。

 

二人の調査官が、長椅子のソファーに座った。

 

「今日は、こんなところですみませんね。応接間はちょっと散らかってましてね。」と、昭夫。

 

「いえいえ。ご主人、私達は構いませんので。」と、唐巻調査官。

 

「今日まで随分時間が空きましたね。前回の調査が212日でしょう。こっちは、確定申告期間中でも調査立会いがあると思ってたんですがね。」と、多田税理士は、今回の調査までの期間が長かったことに文句を言いたかったのだ。

 

「あ〜、私達も確定申告で対応しないといけなかったものでして。」と、唐巻調査官。

 

「こちらとしては、延滞税の問題もあるのでなるべく早く終わらせたいのですけどねえ。連絡がないと待つしかないですが・・。で、今日はどういった内容なんでしょうか。」と、多田税理士。

 

「はい、では始めさせていただきます。実は、吉野ヶ里銀行にまだ相続財産と思われる昭夫さん名義の定期預金があるんです。お父さん名義の定期預金を解約されて借入金1,000万円を返済されているんですが、その残金がそっくりそのまま昭夫さん名義の定期預金になっているんです。金額は348,440円です。昭夫さんご存知でしたか。」と、山口調査官はコピー用紙を昭夫に見せる。

 

「う〜ん。34万円ですか。いや憶えていないですね。そうでしたか、そんなのがありましたか。」と、不思議そうな顔の昭夫であった。

 

多田税理士は、また出たのかと一瞬ドキッとしたが金額が少ないのですぐに平常心に戻ったのだった。本人も知らないか、気づいていないことだったのだろう。昭夫もさして動揺している風ではなかった。腕組をして考え込んでるが、表情は穏やかである。

 

「それにですね、郵便局にお父さん名義の郵便振替口座がありますね。相続発生時点で約51万円程度の残高になっていますね。」と、山口調査官。

 

「あっ、それは私達もついうっかり忘れていたんですよ。多田先生にもお話しまして、この件については修正申告するということで納得してました。」と、昭夫。

 

 山口調査官も唐巻調査官もさほど気にした様子はない。やはり、金額が小額であったためであろう。しかし、しっかり反面調査をしていたのである。

 

「はい。郵便局の振替口座については、単純な失念だと思いますし、先ほどの昭夫さん名義の定期預金と一緒に修正申告に加えますよ。」と、多田税理士。

 

「では、そのようにお願いします。では、郵便局の定額貯金についてですけれども、昭夫さんはそんなに多く専従者給料をもらっていなかったんじゃないですか。平成2年に預け入れた昭夫さん名義の定額貯金は、相続財産だったとは思いませんか。それに、お母さん名義の定額貯金も実際にはお父さんのものだったんじゃないんですか。どうです。」と、唐巻調査官は指摘した。

 

「いいえ、私は高校卒業してすぐに家業を手伝いましたから、結婚するまでの7年間で十分な貯金をしてきましたし、母だって創業以来ずーっと家業を手伝ってきてたんです。郵便局の定額貯金くらい十分溜まっていておかしくはないですよ。ねえ、多田先生。」と昭夫は多田税理士の方に顔を向けた。

 

 多田税理士は、郵便局の家族名義の定額貯金については、すでに、こちらの主張は伝えているし、何度も説明することではないと考えていたので、昭夫の主張に同意して、大きく頷いた。

 

「はい。郵便局の家族名義の定額貯金については、すでに沖山先生同席の調査の時に説明した通りです。そう何度も同じことを話すつもりはありません。また、何度も同じことを話させるような調査は適正な調査とは言えないんじゃないでしょうか。」と、多田税理士。

 

「・・そうですか。・・・。」と、渋い表情の唐巻調査官と山口調査官である。

 

「そちらの主張は分かりました。当方といたしましても、はいそうですかとも申せませんので、もう少々調べさせていただきます。それでは、後ほど多田先生に日程のご連絡をしますので、今日のところは失礼します。」と、唐巻調査官は言い残し帰っていった。

 

「やはり、郵便局の定額貯金については申告財産に加えたいと考えていますね、税務署は。家族名義を使った被相続人の預金だと立証することも難しいと思いますけどね〜。ま、先方の方針と真っ向からぶつかることになりますが、こちらはこちらの主張を通すしかありませんからね。」と、多田税理士。こっくり頷く小石川夫妻であった。

 

 がしかし、次回の調査まで、また、一ヶ月以上待たされることになってしまったのだ。厳しい対応をする尾戸巣税務署に、納税者を怒鳴ってしまったという負い目はまったく感じられなかった。それもまた、当然のことではあるのかも知れない。


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