タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第46章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(所得税の修正申告を済ませ、次の相続税の調査を待っている多田税理士に、小石川から元従業員の夫の預金を税務署員が調べているとの電話連絡が入った。

 

「あのー、でもどうして元従業員さんが電話してきたんでしょうね。」と、多田税理士は不思議に思った。

 

「はい、それがですね。女房に電話があったんですがね。あなたが以前働いていた小石川さんに名義を貸したことがありますか、とか聞かれたんでうちのことだと分かったそうなんですよ。」

 

「税務署員の名前は分かりますか。」

 

「はい、山口と言ったそうです。それで、税務署とかかわりたくないから奥さんの耳にだけ入れときますけど、旦那さんには言わないでって言ってたそうですよ。しっかり話してますけどね。」と、昭夫は笑う。

 

「ふーん。じゃあ税務署は、他人名義の預金が出てきたことで終わりにする気はまったくないようですね。いや、むしろもっと隠しているとふんで調査しまくっているみたいですね。」

 

 多田税理士は、相続税の調査の連絡が入らない理由がはっきりと分かったのだった。

 

「でも、小石川さんと元従業員さんやそのご主人とはまったく関係がないでしょう。」

 

「はい。元従業員とは親戚でもなんでもありません。」

 

「だったら小石川さんの相続税の反面調査の対象者にはなり得ないんですよ。」

 

「だったら税務署に文句言えないんですか。多田先生が電話でガツンと言うとかできないんですか。」

 

「いや、恐らくそんなこと言っても、小石川さんの調査ではなく、別人の調査であって誰の調査かとかは、守秘義務の関係で言えない、とはぐらかすんでしょうねえ。結局勝手に人の財産を調べまくっているのが現状でしょうねえ。」

 

「ふーん。そんなもんですか。で、私は何かすることはありますか多田先生。」

 

「いえ、現段階では何もありませんよ。また、そちらで何か変化があれば教えてください。こっちには何も材料がないんで相手の動きを知って、何か守りを固めることができるか考えるしかありませんね。」

 

 多田税理士は、税務署員の動きの意味が分からず不安になっていた。また、隠し財産が出てくるのかも不安であった。小石川は、もうウソはついていないと信じている多田税理士であったが、どこか不信感をぬぐいきれないでいたのだった。

 

1週間ほど経過して、昭夫からの電話だ。

 

「もしもし、多田先生ですか。税務署員はまだ調べていますね。今度は、元郵便局員のとこまで行って調べたみたいですよ。大分さんって言うんですけど。ご主人も奥さんも郵便局員でね、うちの担当だったんですよ。奥さんはもう辞めているんですけどね。」

 

「そうですか。で、なんて聞かれたんでしょうね。」

 

「それが、大分さんの奥さんが電話で説明してくれたんですけど、何て言ってるのか私らでは分からないんですよ。それで、多田先生さえ良ければ大分さんの奥さんの話を一緒に聞いてくれませんか。どうでしょうか。」と、昭夫は頼み込む口調で言った。

 

「わかりました。直接お話が聞けるなら、その方が私も参考になりますので、出てきますよ。」

 

「じゃあ、明日の午前10時ではいかがでしょうか。大分さんの奥さんに我が家に来てもらいますので、多田先生にもお願いできますか。」

 

「はい、分かりました。明日の午前10時ですね。はい、大丈夫です。」

 

 多田税理士は、元郵便局員の話を期待していた。いったいどんな質問をされたのか。また、どんな風に郵便局を利用していたのか知りたいのだった。

 

 翌日の午前10時、小石川宅。

 

「はじめまして。税理士の多田です。本日はすみませんね。わざわざおいでいただいて。」

 

「いえいえ。小石川さんの為だったらお伺いすることなんかなんでもありません。」

 

「大分さん。私からもお礼を言いますよ。」と、昭夫。

 

「で、大分さん。税務署員とどこで会って、どんなことを聞いたんですか。何人できましたか。あ、名前とか分かりますか。」と、多田税理士。

 

「ええっ、そんなにいっぺんに聞かれても・・名前はですね山口とかいってましたね。二人できましたよ。

郵便局で会いました。だって家に来られるの嫌ですからねえ。で、適当に答えましたよ。憶えてませんねえとか。」

 

「ええ、適当に答えたと言われましても、何とも状況が分からないんですけど。具体的にどんな話をしたのか教えてくれませんか。」と、困惑顔の多田税理士。

 

「えーそうですね。お母さんの美代子さんが窓口に来てたのかとか、それもと大分さんが小石川さん宅に訪問してたのかとか聞かれましたから、半々くらいですって答えたんです。だって、郵便局に来られることもあるし、お宅におじゃますることもありますからね。」

 

「で、他にはなんて・・」と、多田税理士。

 

「あっ、そうそう定額貯金の2,000万円の出所が分からないけどっ、て聞かれて入金伝票のコピーを見せられたけど、さあ分からないから分からないって答えたんです。どうも私が入金伝票を代書してたらしいんですね。それで聞かれたんでしょうけどね。」

 

「他にもいろいろと聞かれましたけど、記憶にありませんとか、憶えてませんとか答えておきましたよ。ですから、何も心配することないですよ。」

 

「はあ、そうですか。」と、多田税理士はその場の状況がまったく掴めずがっかりしてしまったのだった。また、税務署も何か新しい情報を掴んだ風にも聞こえなかったのだった。つまり、昭夫の母である美代子が郵便局を主に蓄財の場として利用していたと主張しているのであるから、美代子が郵便局をほとんど利用していなかったりすると小石川サイドは苦しくなるのだ。

 

 つまり、小石川サイドでは、美代子は家族名義を使って郵便局の定額貯金を持っていたのであり、たとえ亡くなった被相続人である父名義の預金であってもその実質的所有者は母美代子だと認識し主張しているからだ。

 

 元郵便局員の話は、何も新しい情報をもたらさなかったが、税務署員が詳しく調査をしている後姿を垣間見ることができたのだった。

 

 多田税理士は、相続税の調査の日程が決まらないことに不安感を感じていた。もしかしたら、何か隠し財産があったのか、期間が延びれば延滞税も多くなることも気になっていた。いっそ、親戚名義の定期預金だけでも早めに修正申告をしようかとも考えていた。しかし、前回の穏やかな調査の後、いきなり修正申告書を提出するのもはばかられた。

 

 平成15331日、多田税理士事務所の電話がなった。尾戸巣税務署の唐巻調査官からの電話であった。次回調査の連絡だ。遂に、相続税の調査の最終段階に入るのだ。日程は、48日と決まった。

 

 緊張感に包まれた多田税理士は、分厚い相続税の資料を眺めなおすのであった。果たして、親戚名義の定期預金の修正申告のみで終了するのか、はたまた、郵便局の定額貯金が問題になるのか。それとも新しい問題がでてくるのか・・。


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