タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第45章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(所得税の修正申告について、小石川昭夫の了解をとりつけた多田税理士であった。

 

 「ああ、昨日の調査はやっぱり疲れたなあ〜。何の洩れもない調査だったら気が楽なんだけどなあ。まあ、いつもいつも楽な調査ばっかりという訳にもいかんしなあ。今日は、小石川さんの修正申告の準備をしとかないとなあ。明日は坂税務署に行かんといけないしね。還付申告の受付事務なんか、税務職員がやればいいのにね。税理士が還付申告だけをするなんてなんかもったいないなあ。」などと思いつつ、多田税理士は事務所で小石川氏の修正申告の準備をしていた。

 

 明日2月14日は、多田税理士が所属する坂税務署に年金受給者などの所得税の還付申告の受付事務の当番の日なのだ。確定申告は2月16日から始まるのだが、所得税を戻してもらう還付申告は、翌年の1月からでもよいことになっているのである。

 

そして、税理士会の活動として「税務援助」というものがあって、確定申告の時に税務署に応援に行くことになっているのだ。必ず、税務署に行かねばならない訳ではないのだが、多くの税理士会の支部は、各税務署単位に設置してあるので、ほぼ税務署に出向いて税務職員のように確定申告の受付をしているのが実情である。

 

本年の多田税理士は、確定申告期間中3回坂税務署に出向いて行かねばならないのだ。

 

 確定申告期という、1年の中でも超多忙な時期に修正申告書の作成に時間を取られることは、苦痛以外の何者でもないのだが、所得税だけに限らず、相続税の修正申告のことを考えると、日一日と延滞税はかかっているので、納税者のことを考えると一日も早く修正申告も調査も終わらせるべきなのだ。

 

 3月4日。多田税理士は、小石川宅にいた。所得税と消費税の修正申告書に印鑑を押印してもらうためだ。

 

「いや〜、多田先生。今は確定申告でお忙しいでしょう。わざわざすみませんねえ、うちの為に大切な時間を使わせてもらって。」と、微笑む昭夫。

 

「いえいえ。修正申告が決まればもう、後は早い方が良いですからね。延滞税の関係もあるので、なるべく早くお伺いしようと思ってたんですけで、今日になってしまいました。すみません。」と、恐縮する多田税理士であった。

 

「修正申告書の中身は、前回、調査の後にお話したことと変わりません。税務署もきっちり計算してきておりました。前回の数字に変更はありません。これが、今回の納税の一覧表です。」

 

小石川夫妻の前に、1枚の紙が差し出された。

 

「ほ〜。なるほど2年分の所得税と消費税ですね。合計で約101万円の税金になるんですね。まっ、仕方ないですね。で、いつまでに納税すればいいんですか。」

 

「はい、修正申告書は申告した時が期限ですから、修正申告書の提出日と納税日を合わせましょう。それに、納税だけを先に済ませてしまっても、税務署は何の納税か分からなくて困るそうなんですよ。」

 

「つまり、納税を先に済ませても、修正申告書の提出までは、何の税金の納税なのか税務署では分からないので管理に困るそうなんですよ。まあ、納税するんだから、そんなこと知ったこっちゃありませんが、まあ、申告と納税の期日を合わせていきましょう。今回は。」

 

なるほど、と二人同時に頷く小石川夫妻であった。

 

「はい、ではこれが納付書ですので、これを持って金融機関に行ってください。申告書はあしたの3月5日に郵送で提出しますので。納税も明日ということでお願いします。」

 

「はい」

 

「あっ、それと・・重加算税と延滞税のことはお話しましたが、修正申告書を提出しますと、他にも税金が上がることになります。県民税、市民税、事業税、国民健康保険税ですね。これらは、役場の方から通知してきますので、その時点で納税ということになります。」

 

「え〜、まだあるんですか〜。」しかめっ面の昭夫。

 

「ええ、逆に言えば、県市民税や事業税の修正申告書は提出しなくてもいいということにもなります。通常の所得税の申告の場合と同じということです。」

 

「はあ〜、そうですねえ。所得税の申告の後に、役場から税金の通知書がきてましたね。ん、そうすると、その県民税とか市民税とか事業税についても、その重加算税とか延滞税とかがあるんですか。所得税と同じように・・・」と、多田税理士の顔を覗き込む昭夫。

 

「はい、そういうことになります。」

 

「地方税の場合は、重加算金とか延滞金といいますが内容的には同じ意味合いです。役場が計算して通知書を送って来ますので・・地方税については、自ら申告する訳ではないので、税理士はあまり詳しくないんですよ。すみませんね。」と、軽く頭を下げる多田税理士であった。

 

「あ、いえいえ。別に気にしないでください。」と、満面の笑みで応える昭夫であった。

 

 和やかな雰囲気につつまれた。多田税理士と小石川夫妻の信頼関係はしっかりしたものとなっていた。欲を言えば、当初の相続税の申告の際に、今のような信頼関係が構築されておれば、申告洩れなどということもなかったのかも知れない。

 

 しかし、相続税の申告の場合もそうだが、納税者が財産を隠してしまったら、税理士には把握のしようがないのも事実なのだ。そして、そのことが後日多大な税金の支払いを招くとは納税者は考えていないのだ。特に、重加算税や延滞税などはまったくの無駄な税金なのだ。多田税理士は、本税以外の罰金的な税金を支払わせないようにと、しつこい程申告洩れのないようにと、納税者に伝えるのだが、今回は失敗に終わってしまったのだった。

 

 3月5日事務所の女性職員に小石川氏の修正申告書の郵送を依頼して、今年2度目の税務援助の為に多田税理士は坂税務署に向かった。

 

 平成15年は、確定申告終了日の3月15日が土曜日のため、最終日は3月17日月曜日となっていた。

 

 その確定申告最終日、多田税理士は確定申告書の控えの整理をしながら考え込んでいた。

 

「相続税の調査の連絡はこなかったなあ。確定申告だからなんだろうけど。早く終わった方が延滞税もその分少なくなるのになあ。」と、小石川の相続税の調査の日程が決まっていないことが気になっていた。

 

 多田税理士の事務所の電話が鳴った。女性職員が電話に出る。小石川昭夫からの電話だった。

 

「多田先生。以前うちに勤めていた元従業員から電話があったんで、そのことをお伝えしておこうと思ってお電話しました。」

 

「はい、どのような内容なんでしょうか。」

 

「実は、突然、尾戸巣税務署から電話があって、直接聞きたいことがあるというので、自宅に尋ねてこられた税務署員の方と会ったそうなんですね。それで、元従業員のご主人名義の定期預金が吉野ヶ里銀行にありますが、これは本当にご主人の定期でしょうかって、聞かれたって言うんですよ。なんで、税務署の方が元従業員の定期預金のことを調べているんでしょうねえ。」と、不思議に思った昭夫からの電話であった。

 

「え〜、元従業員のご主人の定期を調べているんですか。ん〜、やっぱり他にも他人名義の預金がないか調べているんでしょうねえ。まだしっかり調べているんですね彼らは。」と、多田税理士。

 次号へ続く。


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