タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第43章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

(午後の所得税の調査も穏やかに始まった。税務署員の指摘事項を確認する多田税理士であった。)

 

「確かに160万円だったと思うんだけどなぁ〜」と、つぶやき腕組して顔を右に向けたり左に向けたりして考え込む昭夫であった。

 

多田税理士も、昭夫と同じように腕組して、所得税の決着をどうつけようかと考えていた。

 

「344万円と79万円の売上洩れかぁ。少なくもないけど、税務署の会議室で言われた7年間で2,100万円の売上洩れだなどと言っている訳でもないし、死んだ父親の売上洩れがあるとも言っていないから、まあ、税務署の指摘事項をはっきり否定できる証拠を提示できなければ、向こうの言い分を聞き入れるしかないよなあ・・。」と、多田税理士は考えていた。

 

「小石川さん、どうです。平成13年分と12年分の正しい毎日の売上げが分かる資料はありますか。あれば、その資料と税務署の指摘事項と照合できれば売上洩れかそうでないか確かめることができるでしょう。そんな資料はありますか。」と、多田税理士。

 

「いや、そんな資料なんて・・・。日計表にまず記録するんですから・・」と、昭夫。

 

「でも、日計表も書き換えて振替伝票も書き換えているところがあるんでしょう。」と、多田税理士。

 

「そうなんです。」と、は初永調査官が口を挟む。

 

「別に、あなたと話している訳じゃないんですから。黙ってて下さい。ねえ、小石川さん、何か本当の売上げを示す資料は残っていませんか。」と、多田税理士。

 

「いや〜、そう言われても・・・」と、うつむく昭夫であった。

 

「小石川さん。真実の売上が分かる資料がないと、税務署の指摘していることが事実に反していると反論することもできないですよ。それに、税務署の指摘はもっともなところもあると思いますよ。資料を書き換えた事実もあるのだし、税務署の示す売上洩れの金額が高いとしても、反論できる証拠が何もないのでは、どうにもなりませんよ。」と、現状での小石川の不利な状況を説明する多田税理士であった。

 

「160万円なんだけどなぁ〜」と、つぶやき黙り込む昭夫であった。

 

 税務署の指摘する売上洩れの事実は、事務員の証言とも合致しており、日計表に実際に売上げを記録し、振替伝票にも転記していたが、後日、振替伝票の金額を当初より少なく書き直しパソコンの経理ソフトの入力を修正した。これは、事実であるのだが、税務署が集計した金額が小石川が主張する金額よりも多いことになっていた。今の状況のみで検討してみると、税務署と争いになった場合、小石川にとっては圧倒的に不利なのだ。

 

「多田先生、今からでも振替伝票と日計表の食い違っていることころを集計してみて下さい。私達の集計が間違っていないことが分かりますから。」と、初永調査官は多田税理士に話しかけた。自信ありげだ。

 

 多田税理士は、今さら伝票類を集計するつもりはなかったのだ。それはそうである。今回の税務調査は、インターネットで実況中継されているのである。その調査でデタラメな集計結果を税務署側が提出したとなると、益々、尾戸巣税務署の評判は悪くなる一方なのだ。すると、また抗議の電話が殺到しないとも限らないのだ。そんなにいい加減な自滅するようなヘマを今さらする訳がないことを多田税理士は十分知っていた。

 

「分かりました。その必要はないと思います。確かに集計された金額は正しいのだと思います。」と、多田税理士。

 

「小石川さん。これから真実の売上に関する資料を探すといっても不可能なようですし、売上除外の事実はある訳ですから、税務署の指摘する伝票類を集計されませんか。どうしても160万円の売上除外であったとお考えなんでしょう。」

 

「それに、小石川さんは平成12年分については売上除外はないとおっしゃっていますが、こちらも資料の書き換えの事実があるようですので、平成12年の売上除外の指摘箇所を確認されてみてはいかがですか。かなりの量で、面倒でしょうけど。」

 

 多田税理士は、昭夫に税務署の指摘事項の確認を勧めたのだ。

 

「そうですねえ・・・」困った表情になる昭夫。

 

「まあ、集計結果は間違いないと思いますよ。私は、真実の売上を示す証拠が提示できないのであれば、売上除外の事実がハッキリしている以上金額に多少の不満はあっても、もう認めざるを得ない状況だと思いますよ。もう仕方ないところですよ。」と、多田税理士。

 

 しばらく考え込んでいた昭夫は、決心したようだ。

 

「分かりました。多田先生のおっしゃるように税務署さんのおっしゃることを認めることにします。金額は違うような気がしますけど、売上除外をしていたのは事実ですから。」と、昭夫。

 

 多田税理士は、昭夫を見てゆっくりうなずいた。

 

「小石川さんも認められたので、当方としてはそちらのご指摘に従って修正申告をしたいと思います。」と、多田税理士。

 

すると、ニッコリ微笑む初永調査官と村野調査官であった。そして、村野調査官は、カバンから新たに資料を取り出し多田税理士に見せた。

 

「多田先生。実はですね、保険の経理処理も間違っておられまして、保険料を全額必要経費として経理されているんですが、実は、積立型の保険だったんですね。それで、平成12年と平成13年の各損害保険会社の積立部分の金額の明細と金額はこのようになります。」

 

「ほお」と、税務署員が手書きした資料のコピーを見入る多田税理士。

 

「それにですね。補助金をもらっていたのですが、これが雑収入に計上されていなかったんです。それにですね、今回小石川さんも認めていらっしゃいます伝票類を改ざんされておりますので、正しい複式簿記ではありませんので、青色申告控除額も55万円ではなく10万円となります。それに、売上洩れにかかる消費税もあります。」と、ここまでは村野調査官が話す。

 

 資料を確認する多田税理士は、昭夫に向かって。

 

「いいですか。しょうがないですよね。」

 

「はい、分かりました。しょうがないです。」

 

「で、所得金額の移動とか、増差税額とかはどうなるんですか。そちらで計算はされているんですか。」と多田税理士。

 

「はい。計算しております。消費税の方も計算しておりますので、先生にお伝えしましょうか。」と、初永調査官。

 

「はい。じゃあ所得税の方からお願いします。」

 

しばし、初永調査官と多田税理士の数字の確認作業が続く。

 

「はい、分かりました。では、いまの資料で当方も計算して確認しますので。それで、変更がなければ修正申告書をそちらにお送りすることにしますので。それでよろしいでしょうか。」と、多田税理士。

 

「はい、よろしくお願いします。」と、言い残し税務署員は帰っていった。

 

 次号へ続く。


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