タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第42

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

(午前中の相続税の調査は終了した。親戚名義の定期預金の申告洩れを納税者自ら認めたので、終始穏やかな空気が漂う税務調査となった。)

 

「いや〜、多田先生。午前中の調査は前回と比べると比較にならないくらい穏やかでしたね〜。沖山先生がいらっしゃる時は、もう空気がピリピリしてましたよねぇ。私も相当緊張してたんですが、今回は気分的に楽でしたねぇ。」と、昭夫。

 

「まあ、結構な金額の申告洩れ財産を自ら出した訳ですから、先方としても修正申告の材料が出てきてホットしたんでしょうね。それに、調査の日程が大幅に遅れた原因は、所得税の方だったんで、相続税については何も構える必要はなかったはずなんですよね。そして、郵便局の定額貯金については、何の議論もしなかったからですね。」と、多田税理士。

 

「はあ、そんなものですか。まあ、多田先生食事にしましょう。」

 

「恐縮です。お世話になります。」

 

多田税理士は、一人で食事をしながら午後の所得税の調査のことを考えていた。多田税理士が、今回の税務調査で税務署員のことを実名で報道するきっかけとなったのは、小石川夫妻が所得税の調査で税務署の会議室に呼ばれて、黒石統括官に怒鳴られたことが判明したからであった。

 

「午後から所得税の調査かあ〜。結局、調査がこんなに伸びたのは、黒石統括官が密室で納税者を怒鳴りつけたからなんだよなあ。午後の調査に黒石統括官が出てくれば、なんで怒鳴ったんだって、こっちからも怒鳴ってやるんだけど、本人は来る訳ないし。調査の担当も野中統括官に変わったしなあ。」

 

「調査を受ける義務はある訳だから、調査を断る訳にもいかないし。まあ、所得税の調査も普通の調査にならざるを得んし、その方が緊張もしなくて済むのかもしれないなあ。」

 

「まあ、所得税は俺が申告した訳ではないし、小石川さんもゴマカシていたことを認めているし、どんな展開になるのかは分からんが、怒鳴り合いになることはないと思うけどなあ。」

 

「税務署員が何をどこまで調査しているのか聞いてみないとなんとも言えんし、税理士が立ち会っているんだから、まあ、証拠もなしに修正申告を迫ることはないだろうし、明らかな申告洩れだったらすんなり修正申告するしかないしなあ。」

 

 多田税理士は、午後からの所得税の調査にどう対応しようかと思いを巡らせていた。午前中の相続税の調査が穏やかな雰囲気であったので、少々安心している多田税理士であった。

 

 午後1時になり、小石川宅のチャイムがなり、尾戸巣税務署の所得税の調査官がやってきたのだった。初永調査官と村野調査官だ。

 

 前回同様、多田税理士と小石川昭夫の待つ応接室に二人を案内する小石川彩子であった。襖を開け二人の調査官が応接室に入ってきた。

 

「どうも、失礼します。おじゃまします。」と、初永調査官。二人とも応接机に向かって正座して座った。

 

「どうも、こんにちは。ご苦労様です。まだまだ寒いですね〜」と、多田税理士は、なごやかに話し相手の出方を伺っていた。

 

「ええ。まだまだ寒いですね〜。先生もこれから確定申告が始まるんで大変でしょう。我々も早く終わりたいと思っておりますので、よろしくご協力をお願いします。」と、にこやかに話す初永調査官であった。

 

 今更、黒石統括官が怒鳴ったことを言っても調査はなくならないことは明白なのであり、調査を進めるより他はないと考えた多田税理士は、率直に所得税の調査について尋ねたのだった。

 

「はい、私も早く終わりたいと思ってます。ですので、率直にお伺いしますけど、小石川さんも平成13年分の160万円の売上洩れは認めているのですけど、他に何かあるんでしょうかね。」と、多田税理士。

 

「はい、私達の調査では、平成13年分の売上の洩れは344万円程で平成12年分は79万円程になります。」と、村野調査官が答えた。

 

「う〜んと、私が申告した訳ではないので、何ともよく分からんのですが、何がどうして売上げの洩れになるんでしょうかね。そこんところを教えてもらわないと何とも言いようがないんですけどねえ。」

 

「そうですよね。実は、日計表と振替伝票の金額が違う取引を集計すると今言った金額になるんですね。日計表の金額が多いんですね。ですから、実際の売上の方が多かったことになると思うんですね。」

 

「なる程、日計表の金額が正しくて、振替伝票に売上として記録した金額が少ない訳なんですね。どうなんです、小石川さん。」

 

 村野調査官の説明を受けた多田税理士は、小石川昭夫に状況の確認を求めた。

 

「確かに、振替伝票を書き直しさせたんですけど、そんな年間340万円なんてならないと思いますよ。確か160万円位だったんですけどねえ。」と、昭夫。

 

「じゃあ、日計表と振替伝票をチェックされてみてください。多田先生。それに、平成12年分は日計表が書き直されているんですね。日計表の売上金額が振替伝票の金額より少ないことがあるんですね。で、元帳には振替伝票の金額が売上げになっているんですよ。日計表については、事務員さんは書き直しを認めていますよ。」と、初永調査官。

 

「じゃあ、日計表の売上が少ない日は、実際の売上が振替伝票の売上より少なかったということじゃないんですか。」と、多田税理士。

 

「いえ、日計表は書き直されていますし、その安く書き直した金額がその日の売上金額になっているのではなく、日計表の金額より高く記録された振替伝票の

金額がその日の売上金額として元帳に記録されているんです。つまり、日記帳は書き直したけれど、経理ソフトの入力の変更をしなかったんじゃないですか。私達は、日計表の売上金額より少なく元帳に記録された取引だけを集計したんです。」と、売上洩れの集計結果の説明をする初永調査官であった。

 

「おかしいなあ。確かに平成13年分は書き直しをさせたけど、平成12年分は何もしていないけどなあ。」

 

 腕組して考え込む昭夫であった。

 

「つまりこうですか。平成12年分も13年分も、日計表より少ない振替伝票について売上が過少に記録してあるので売上洩れである。そして、平成12年分については、日計表の金額が振替伝票より少ない日はあるが、そもそも日計表自体が書き換えられており、振替伝票の金額が売上として元帳に記録されているので、日計表の金額が少ない日は実際の売上が少なかったとは到底認められないということなんですね。」と、多田税理士は小石川昭夫にも理解できるように税務署サイドの主張を説明したのであった。

 

「小石川さん。日々の売上は、掛けですかそれとも現金ですか。」と、多田税理士。

 

「それが、両方混在しているんですよ。」と、昭夫。

 

「じゃあ、一日一日の本当の売上を把握するって、日計表を書き直している現状では確かめることは相当時間がかかりますよね。12年は79万円ですか・・。」と、昭夫の顔を覗き込む多田税理士。

 

「そうですね〜」と、言い考え込む昭夫。

 

 まだまだ、所得税の調査は続く。

 


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