タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第41章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、今後の税務調査の立会いを一人でしなければならにことに不安を感じていた。沖山税理士に相談して少しは安心したようだ。次回の税務調査の日程は決まった。)

 

 平成15212日午前950分、小石川宅の応接室。多田税理士と小石川夫妻は雑談を交わしていた。

 

「いや〜、多田先生。沖山先生の所に行った日ですけどね、やっぱり女房に買ってやりましたよ。ビトンのバッグ。前からほしかったそうなんですけどね。女は何であんなにいっぱいバッグを持ってるんでしょうねえ。」と、穏やかな表情の昭夫。満面の笑みの彩子。

 

「まあ夫婦円満ということで、よろしいですなぁ。うらやましい限りです。ハハハ。」と、多田税理士もリラックスしているようだ。

 

「もすぐ10時ですので、税務署員もやって来るでしょう。今日は、午前中が相続税の調査で、午後1時からは所得税の調査ということになります。まぁ、一度に両方の調査じゃあ混乱しますからね。」

 

「そうですね。でも、我々は多田先生にお任せして、おんぶにだっこで行くしかありませんから、一緒でも別でもどっちでもいいんですけどね。」と、昭夫。

 

「いやいや、我々の方が混乱してしまうんですよ。別々の方が問題点も整理しやすいですから。」

 

「守る我々税理士からすれば、別々の方がいいんですよ。」と、多田税理士。

 

「ピンポン」

 

「おっ、10時ジャストにおでましですか。彼らもキッチリしてますね。おい、税務署員の方々だ。お出迎えしてこちらにお通ししろ。」と、彩子に催促する昭夫であった。

 

相続税担当の唐巻調査官と山口調査官が応接室に入ってきた。

 

「おはようございます。」と、税務署員達。

 

「おはようございます。」と、多田税理士と昭夫。

 

「まだまだ寒いですね〜」と、唐巻調査官。

 

「ほんとですね。寒い日が続きますねぇ。私は、寒いのが大の苦手なんですよ。こちらの応接室は暖かくて助かってます。」と、なごやかにこたえる多田税理士であった。

 

 多田税理士としては、親戚名義の定期預金の件についてはスンナリ自主的に修正申告に応じるつもりだし、その意思を伝えるタイミングを計っていたのだった。一通りの時候の挨拶程度の会話の後、多田税理士が切り出した。

 

「あの〜、実は。前回申告洩れ財産はありませんね、と言われてたんですが、本人に改めて聞いてみましたら、実は、あったんです。申告洩れ財産が。親戚名義の定期預金がありまして、それを、相続発生の日に解約して現金で持っていたそうです。」

 

「それで、親戚名義の定期預金だし、分からないだろうと思って私にも話さなかったということなんです。」と、多田税理士は二人の税務署員の顔を交互に見ながら話すのであった。

 

「あのう、どうもすみませんでした。」と、昭夫。

 

「いえいえ、私達にそのようなことはおっしゃらなくていいんですよ。」と、唐巻調査官は昭夫の謝罪を拒む。

 

「この件につきましては、すぐにでも修正申告する予定です。概算での修正申告書はここに作ってきているのですが、正確な資料を銀行さんからもらってから正式に修正申告書を提出する予定です。で、申告洩れの内容ですけど、大口さん名義と鹿内さん名義のものがありまして、解約時点での金額が約2,600万円となっています。吉野ヶ里銀行ですので、調べられればすぐに姓名まで分かると思います。」と、多田税理士。

 

「はい、あそうですか。分かりました、詳しくは私たちも銀行で調べますので。大口さんと鹿内さんですね。」と、冷静で無表情の唐巻調査官。そして、山口調査官とヒソヒソ話を始めた。手帳を開いているので、お互いの日程調整でもしているのだろう。

 

 税務署員達が正面を向くのを待つ多田税理士。手帳を閉めた税務署員が正面を向いた。

 

「それで、この親戚名義の預金については、重加算税の対象になることも認めます。隠蔽していた訳ですから当然だと考えます。ですので、正確な資料が手に入り次第修正申告します。そして、当方の見解ですが、郵便局の定額貯金については、父親名義のものがあったとしても、それは母親のものと息子・息子の嫁のものですので修正申告の対象には入れません。」

 

「そして、前回の沖山先生の説明の通り、吉野ヶ里銀行の家族全員の名義の預金は、父親のものなので全部申告財産に入れています。つまり、家族は名義に拘らずそれぞれ金融機関ごとに自分の預金を所有していたことになります。」と、修正申告の対象にするものとしないものの理由を説明する多田税理士であった。

 

「分かりました。前回の沖山先生のお話されていた内容に変わりないということですね。そして、前回から変化のあった事項として、親戚名義の定期預金を解約して現金で所有していたんですね。」と、唐巻調査官。

 

「はい、そうです。あと、郵便局の郵便振替口座に残高が残ってまして、これはまったくの失念です。その存在を忘れていたそうです。これも、残高証明書をとりますので、親戚名義の預金分と一緒に修正申告します。」と、多田税理士。

 

 多田税理士の話をゆっくり頷きながら話を聞いていた唐巻調査官は、多田税理士の話が終わると、今度は、唐巻調査官の方が多田税理士が話した内容を彼の言葉で復唱して、その内容を正確に確認したのだった。

 

「なるほど。多田先生のお話は分かりました。私達も親戚名義の定期預金については調査して確認しますので、もう少し調査の日程が延びてしまいますけれどもよろしいでしょうか。ご不便をおかけして申し訳ないのですが。」と、唐巻調査官の口調は柔らかい。

 

「で、その現金2,600万円はどこに保管していたんですか。」と、唐巻調査官。

 

「はい、家の金庫に入れてました。」と、昭夫。

 

「今もあるのでしたら見せてもらえますか。」

 

「はい。いいですよ。」と、軽い返事の昭夫は、彩子に現金を持ってくるように指示した。

 

 彩子が応接室に2,600万円の現金を持ってきた。

 

「金庫の中の下の方に置いていたので、最初の調査の時に見つからなかったんですよ。」と、彩子。

 

多田税理士は、目の前の現金に圧倒されたのだった。

 

「分かりました。確認できましたので、もう現金はしまってください。」と、唐巻調査官。

 

相続税担当の唐巻調査官達は、正午前に帰っていった。午前中の相続税の調査は、終始穏やかな雰囲気であった。多田税理士は、郵便局の定額貯金について唐巻調査官達の反論や質問がなかったので、案外スムーズに昭夫達の主張が通るかもしれないと感じていた。調査官達も重加算税対象の申告洩れ財産が出てきたので喜んでいることは間違いのないことであった。事は、今回の修正申告の内容で相続税の調査が終了するかどうかだ。まったく予想はつかない状況だ。

 

 さあ、午後は、所得税の調査だ。

 

  次号をお楽しみに。


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