タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第40章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

(多田税理士は、小石川夫妻と一緒に沖山税理士の事務所に謝罪に向うところであった。ところが、訪問直前に沖山税理士が多田税理士一行の前に現れたのだ。)

 

「あっ。先生どうされたんですか。」と、これから面会に向おうと思った矢先に、多田税理士一行の前に沖山税理士がニコニコ微笑ながらゆっくりと歩いて来たのだった。

 

「事務所からあなた達の姿が見えたからね。迷っているのかなと思って下りてきたんよ。迷ってたんじゃなかったのね。」と、沖山税理士。

 

「いやあ、先生。これから向うところでした。お伺いする前に小石川さんとタバコ吸ってから行きましょうということになりまして、イップクしてたんです。わざわざ先生に迎えに出ていただいたようで恐縮です。」と、これから謝罪せねばならない沖山税理士に心配してもらい余計に恐縮しまくる多田税理士であった。

 

「いやいや。いいんよ。じゃあ行きますか。」と、一人先頭に歩き事務所に向う沖山税理士。多田税理士と小石川夫妻も後に続いて歩く。

 

 1階から階段で2階に上がり、左側が沖山税理士の事務所だ。先に入って事務所の会議用と思われる大きな机に案内する沖山税理士。

 

「こんにちは。」明るい女性事務員の声。

 

「こんにちは。おじゃましま〜す。」と、明るく笑顔で応える多田税理士。小石川夫妻も会釈して事務所に入った。椅子に座って間もなく多田税理士が話しを切り出した。

 

「先生。今日は謝罪とお願いに上がりました。先生、本当に申し訳ありません。あれだけ先生に『他に申告洩れ財産はないね』と、念を押されていたのですが。有りました。申告洩れ財産が。親戚名義の預金を解約して現金で保管してたそうです。ねえそうですよね小石川さん。」と、昭夫を見る多田税理士。

 

「はい、どうもすみませんでした。」と、頭をペコリと下げる小石川夫婦であった。

 

「あ、いや先生分かっております。これから先の調査は私一人で立ち会います。先生には本当に申し訳ないことをしたと思っています。で、厚かましいのですが、お願いと申しますのは、これからの調査の方針について私の考えを聞いて頂きたいのですがいかがでしょうか。」と、懇願する多田税理士にゆっくりと頭を下げて頷く沖山税理士であった。

 

「申告洩れの財産については、即修正申告書を作成して提出します。次回の調査の時に持参しようと思います。あっ郵便局の振替口座の預金も加えて修正申告します。で、その後なんですけれども・・」と、一息ついてゆっくり自分の考えを整理して話す多田税理士。

 

「あと、郵便局の定額貯金の件ですが、これは従来の打ち合わせの通り、小石川昭夫さん、つまり息子さんですね。昭夫さんと彩子さんの名義の定額貯金はそれぞれ証書も自分達で管理しており、自分達のものなので父親の相続財産には加えない。そして、親夫婦名義の貯金については母親のものである。」

 

「従って、これも父親の申告財産には加えない。つまり、同じく親夫婦のそれぞれの名義の預金は、吉野ヶ里銀行は父親の預金なので家族名義の預金も申告財産に加えた。しかし、郵便局の親夫婦それぞれの名義の定額貯金は母親が貯蓄していたものであり、父親の申告財産ではない。」

 

「つまり、父親は民間銀行に家族名義で預金をしていたし、母親は郵便局に夫婦名義で貯金をしていた。こういう小石川さんの主張になりますが、これで進めてよろしいですよね。先生。」と、多田税理士。

 

「うん。それはね、前回も打ち合わせした通りでね。それでいいと思うよ。息子が郵便局の貯金は母親の貯金だと認識しているんだから、そう主張すればいいじゃないね。」と、さらりと返事する沖山税理士。

 

「あ〜、良かった。やっぱりそうですよね。それで行っていいんですよね。いや〜、最期にしっかりと確認をとっておきたかったものですから、本日お伺いしました。すっきりしました。ありがとうございました。先生。助かりました。」と、がっくりを肩を落として見せてホットしたことを大袈裟に表現して一同の笑いを誘う多田税理士。

 

「ハハハ、ワハハ、ワハハ。」

 

 沖山税理士の事務所を出た3人は、ゆっっくりと天神に向って歩いていた。ホッとした多田税理士は穏やかな表情で小石川夫妻と雑談を楽しんだ。待ち合わせをした駅の改札口の前に到着した。

 

「先生。今日はどうもありがとうございました。私達はこれから久しぶりにデパートを回ってきます。女房がねだるんでしょうがないですよ。」と、笑顔の昭夫。

 

「あら、あたしねだってなんかいませんよ。ただ、最近ルイビトンのウィンドウショッピングしてないなってつぶやいただけじゃない。もう。」と、膨れっ面になる彩子。しかし、表情はすぐに笑顔に変わる。

 

「まあ、まあ。たまのお休みだと思って楽しんでください。税務署から次回の調査の電話が入りましたらご連絡しますので。それじゃあ。」と、会釈をして小石川夫妻と多田税理士は別れた。

 

 多田税理士にとって、今日沖山税理士から今後の税務調査に当っての確認が取れたことは、精神的に非常に有意義なことであった。何分、金額も大きいし、ホームページでの実名報道もしているので、この調査の結論に関心を持っている税理士や納税者も多いことを考えると、多額の申告洩れ財産が存在していたとは、何とも情けない話しである。

 

 従って、郵便局の定額貯金についても、父親名義の定額貯金くらいは修正申告に加えて、調査を終結させる方向に持って行った方が気持ちの上では楽になるのだが、それでは納税者が損をしてしまうことになる。

 

 今後、一人で所得税と相続税の税務調査の対応をせねばならなくなった多田税理士は、少々心細くなっていたのだった。しかし、今日の沖山税理士のアドバイスで腹は決まったのだ。

 

「よし、郵便局の定額貯金は守るぞー。」と、多田税理士は気持ちを強く持ちだしたのだった。

 

 翌日、尾戸巣税務署の野中統括官より税務調査の連絡が入る。前回同様、所得税と相続税の両方の調査で訪問したいそうだ、前回のように、両税目の同時の調査では、話しが混乱してしまうことが予想される。

 

 従って、午前中は相続税の調査、その後、午後は所得税の調査に別々に分けて行なうようになった。

 

 多田税理士は、小石川宅に電話をかけた。

 

「もしもし、多田ですけども。税務署から連絡がありまして、次回の調査は212日水曜日の朝10時から一日となりましたがご都合はいかがでしょうか。場所は、そちらの応接室ではいかがでしょうか。」

 

「はい。あそうですか。大丈夫そうですか。はい、ではご主人の都合が悪いようでしたら、本日中にお電話頂けますか。本日、お電話がなければ明日税務署に12日でOKだと返事をしますので。はい、ではよろしくお願いします。」

 

 多田税理士は、相続税の修正申告書をパソコンで作成していた。しかし、解約した時の資料を吉野ヶ里銀行に依頼してもらっているのだが、まだ銀行から返事がきていないので、次回の調査では概算額で計算した修正申告書を見せて、親戚名義の貯金については、即、修正申告することをアピールするつもりなのだ。

 

 不安な気持ちで212日の調査を待つ多田税理士であった。

  次号をお楽しみに。


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