タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』3

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(相続税の調査初日の午後、山口上席調査官は郵便局の定額貯金の資料を見せ、被相続人を含め家族名義の定額貯金7,000万円の内容について質問した。多田税理士は、郵便局の定額貯金の話など全く聞いていなかったので驚いた。しかし、小石川夫婦も驚いた様子である。そして、多田税理士は、税務署からの電話で、「定額貯金はもらったと言っている」と返答したところ、山口調査官は多田税理士の事務所を訪問したいと言ったのだった。)

 

 平成14117日に、山口上席調査官と山上調査官が多田税理士の事務所にやって来た。

 

「いやー、定額貯金を貰ったと言われるから、びっくりして飛んで来たんですよ。」と山口調査官。

 

「だって、本人達がそう言ってるから、そのまま伝えたんじゃないですか。それに、もう除斥期間はとうに過ぎているんだし。いんじゃないの。」と多田税理士。

 

 この段階では、定額貯金のうち誰の名義の定額貯金を対象に話しをしているのかがハッキリしない。ただ、家族名義の預金についての話しだとお互い了解しているようである。

 

「私は、相続税の申告書を作り上げるまでに、除斥期間のことは必ず話しているからね。」

 

「それで、郵便局の定額貯金は関係無いと思ったんじゃないですか。我々は、納税者の証言を信頼するしかないんですよ。貰ったと言うんだったらそうじゃないですか。そして、贈与税の無申告は5年で除斥期間が来るから、とうに過ぎてるので、今更贈与税の申告もできないでしょう。」

 

(平成15年より、贈与税の除斥期間は6年と改正されました)

 

「しかしですね、多田先生。」と山口調査官が反論しようとすると、多田税理士は静止した。

 

「私達が、ここで議論しても平行線のままなんだから、あとは本人から直接聞けばいいじゃないですか。」

 

「分かりました。では、そうしましょう。ところで、多田先生。今日は、調べていただきたいことがあるのですが・・・。」

 

 山口調査官は、話しをしながらカバンから1枚の資料を取り出した。その資料には、日付・金融機関名・種類・口座番号・名義・摘要・入金・備考と書かれた一覧表であった。

 

 そして、その一覧表には、被相続人とその妻、そして息子と息子の嫁の名義の預金の入金状況が書かれてあった。

 

「この一覧表の入金状況の原資を調べてもらいたいのですが、よろしいでしょうか」

 

「ああ、これですか。入金の原資だから、どこからどうやって入金したのかを、小石川さんに聞けばいいんですね。分かりました。この資料は貰っていいですか。」

 

 多田税理士は、山口調査官から資料を受取り、11行確かめていた。

 

 

「では、内容が分かりましたら連絡して下さい。それで、次回の調査の日程を決めましょう。」と山口調査官が話してからは、雑談となった。

 

 その雑談の中で、彼ら税務署員は、年末に向けて「稼がねばいけない」と言っていたのである。税務調査は、納税者にしてみれば、命の次に大事なお金を取られるものだが、税務署員にとっては、売上を稼いでくるものらしい。

 

 税金とは、納税者にとってはお金でも、税務署員にとっては単なる「数字」なのだ。真実を追究するのが税務署員の仕事だと単純に思ってはいけない。税務署員は「税金という名の売上」がほしいのである。

 

 多田税理士は、何気なく受取った一枚の資料が、後に、税務署員の違法調査の証拠となることに、まだ気づいてはいなかった。

 

 雑談の折、多田税理士は、「税務署に対しては言うべきことはハッキリ言う」と主張していた、そして、税理士に事前通知をしないで、納税者宅をいきなり訪問することに抗議もしていた。

 

 山口調査官は、余程腹に据えかねたのだろう。帰り際に、穏やかな脅し文句ともとれる発言をした。

 

「多田先生。あんまり貰ったとか言わん方がいいですよ。もし、そう言うんなら、最近の2〜3年の間の預金の動きで贈与があれば、みんな贈与税がかかってきますよ。それで、贈与税率は高いですからね。重加算税やら延滞税で大変なことになりますよ。」

 

何の根拠も示さず「高額な税金がかかるぞ」と脅してきたのだ。多田税理士も黙ってはいない。

 

「贈与があったかどうかは、個別に検討することじゃないか。片方が貰っていないと言えば贈与契約は成立する訳がないやろ。そんなに贈与だと言いたいんなら、決定でも更正でもすればいいじゃないですか。」

 

「そんな更正処分なんて、難しいことができますか」と山口調査官達は言い残し帰って行った。

 

 決定処分とは、納税者が申告をすべきなのにしていない場合に、税務署が税額を計算して「これだけの税金を払いなさい」と一方的に通知してくる行政処分のことである。

 

 更正処分とは、納税者が提出した申告書に誤りがある場合、「これだけ税金が少なく申告されていますので、不足の税金を払いなさい」と通知してくる行政処分のことである。

 

 決定とは、納税者が申告書を提出しない場合の行政処分で、更正とは、提出された申告書の誤りを指摘する処分である。

 

 決定や更正などの行政処分をした場合、納税者は税務署に対し「異議申立」という反論をすることができるのであり、「異議申立」が却下されても、国税不服審判所に「審査請求」をして、更に反論することができるのである。

 

 だから、行政処分をするには事務量も増えるし、面倒なので、税務署は「修正申告」をすすめるのである。

 

 修正申告とは、納税者が自ら誤りを認めることになるので、一旦、「修正申告」したら、「異議申立」や「審査請求」などの反論のチャンスを放棄することになってしまうのだ。

 

税務署は、後日、何の反論もできない「修正申告」の方が楽なのである。

 

 多田税理士は、山口調査官から受取った資料を小石川の妻彩子にFAXして回答を依頼したのだった。

 

 山口調査官が多田税理士の事務所を訪問してから、数週間したある日、小石川昭夫から多田税理士の携帯電話に連絡が入った。

 

昭夫の声がいつもと違う。明らかに興奮していた。

 

多田先生!税務署はヒドイですね。あんなこと許されるんですかね。

 

「どうしたんですか。そんなに大きい声で話さなくても聞こえますよ」と多田税理士は小石川昭夫の只ならぬ声に驚いた。

 

「いったい何があったんですか。落ちついて順番に話してください。ハイハイ。エー。そんなことがあったんですか。とんでもないですねそれは!」

 

いったい、小石川昭夫の身に何が起こったというのか〜。

 

つづく。次回はものスゴイ展開となります


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