タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第39章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

(多田税理士は、小石川宅から沖山税理士に面会を申し込む電話をかけた。つまり、あれほど申告洩れ財産がないのか税務署員や沖山税理士に尋ねられて、「ない」と昭夫は返事をしていたが、実は申告漏れ財産はあったのだ。)

 

「はい、沖山です。」と、いつもの渋い声だ。

 

「あっ、税理士の多田です。いつもお世話になっております。実は、急で申し訳ないんですけども、ご相談にのっていただきたいことがありますので、明日の午後とかは事務所にいらっしゃいますか。あの、小石川さんご夫婦も一緒にお伺いするつもりなのですが、先生のご都合はいかがでしょうか。」と、多田税理士。

 

「うん。明日ね。うん、大丈夫よ。」

 

「じゃあ、午後130分に事務所にお伺いしますので、よろしくお願いします。あっ、あのぉ時間はそんなにかからないと思いますのでよろしくお願いします。」と、携帯電話を手に持って大きく頭を下げる多田税理士であった。

 

「ふー。明日の午後130分に沖山先生のアポが取れましたので、明日午後ご一緒できますね?」と、昭夫に向って話す多田税理士。

 

「はい、もう配達も終わってますから。で何処で待ち合わせしますか。」と、軽やかに返事する昭夫。

 

 多田税理士は、財産を洩らしていたことを謝罪に行くのに、なんとも軽く返事をして、少しも重たく捉えていない昭夫に、『この人はいったいどんな神経しているんだろうか』と、不思議に思っていたのだった。

 

「じゃあ、天神にある西鉄福岡駅の一番端っこの福岡三越のある改札口の前ではいかがでしょうか。歩いて沖山先生の事務所に行くのに丁度いいと思いますのでね。」と、多田税理士。

 

 多田税理士が、沖山税理士との面会を急ぐにのには訳があった。結局、郵便局の定額貯金については母親のものであると主張を通すことに変わりはないが、親戚名義の定期預金を解約して現金で隠し持っていた2,600万円については、修正申告をせねばならないし、昭夫も修正申告については同意していた。

 

 修正申告は、申告書の提出と同時にその納付期限が到来してしまうことになっており、修正申告書を提出しても納税が遅れると、修正申告書を提出した日から実際の納税の日までの延滞税がかかるのだ。

 

 もちろん、当初申告の法定申告期限から修正申告書提出の日までの延滞税がかかることは言うまでもない。なので、一日も早い申告と納税が延滞税の軽減になるのである。

 

 通常の「見解の相違や単純ミス」による修正申告の場合で、その法定納期限から1年以上経過してから修正申告した場合には、1年間の延滞税だけを納税すれば、後の1年を超える期間については延滞税の計算期間から控除されることになっている。

 

 しかし、この制度は、今回の修正申告のように重加算税の対象となる部分には適用はない。

 

 従って、親戚名義の定期預金を解約して現金で保管し申告財産に加えていなかったことは、明かに隠ぺい工作を行なっており、重加算税の対象になるので、修正申告書を提出するまでは延滞税が毎日加算されることとなる。なので、出費を少しでも少なくするには、一日も早い修正申告書の提出と納税が必要なのだ。

 

 小石川昭夫は、最悪の場合の納税資金も十分に保有しており、母親名義の預金も十分なので、金銭的な余裕が気持ちの余裕に繋がっているようだ。

 

 一方、多田税理士は、自身のホームページで尾戸巣税務署の調査官の実名報道を連載中であり、正に、実況中継真っ最中なのであって、精神的な負担感を抱え込んでおり、今回の小石川の脱税行為により、強力な支援を受けていた沖山税理士の協力を失うことは、更に、精神的に追い詰められることになる。

 

 しかし、最期の協力を得られることを期待して、沖山税理士との面会に臨むしかない多田税理士なのだ。『今後の税務調査の対応についての確認さえできれば、後は、一人で頑張れる覚悟が決まる』と、多田税理士は考えていた。

 

 小石川の脱税行為を謝罪した後、沖山税理士は相談に乗ってくれるのであろうか。多田税理士の心には不安が残る・・。

 

 翌日の午後110分。待ち合わせの西鉄福岡駅の改札口近くに小石川夫妻が並んで立っていた。多田税理士は、一瞬、『ん、人違いかな』と思ってしまった。目の前にいる二人は、正に紳士と淑女であった。

 

「いや〜、一瞬人違いかな〜って思いましたよ。お二人とも決まってますね〜」と、多田税理士。

 

「やぁ、多田先生。久しぶりに天神のデパートを見て回りました。家内にアクセサリーでも買ってやろうかって言ったら、じゃあ早く福岡に行きましょうってことになって、いろいろ見て回ったんですよ。」と、小石川夫妻は、いかにも楽しそうに笑顔で歩み寄ってきた。

 

 昭夫は、カシミヤの黒のロングコートでそのエリを立て、靴は見るからにブランド品であろうピカピカの靴で、腕にはゴールドのローレックスが光っていた。彩子も普段の洋服とは全く赴きの違う高級そうな淡いピンクのコートを着ていた。

 

『やはり、この人達は使うことは使っているんだな〜。質素にしてますよ〜なんて言ってたのにな〜、バッチリ派手じゃんか。う〜ん、この人達の支援をせんといかんのかな〜。まあ、服装はともかく、こちらの要請に応えて一緒に謝りに来てくれたんだし、いいじゃん派手な服着てたって。』と、気楽に構えている小石川夫妻に呆れる多田税理士であった。多田自身は、不安な気持ちで一杯であったのだ。

 

「じゃあ、これから沖山先生の事務所に行きましょう。歩いてで申し訳ないんですけど、だいたい15分くらいだと思います。」と、多田税理士。

 

「いえいえ、なんともないですよ、多田先生。なあ、おい。」と、昭夫は答え、彩子は微笑んだ。

 

 多田税理士と昭夫が並んで前を歩き、彩子は一人後ろからついてくる。

 

「お〜、この店はおしゃれですね。いや〜、もっと頻繁に福岡にも出てこんといかんなぁ〜。なあ、彩子お前もそう思うだろう。」と、キョロキョロと道中落ちつきがない昭夫であった。

 

 3人は、沖山税理士の事務所のあるビルの隣のセブンイレブンの駐車場まで来ていた。時刻は、125分であった。

 

 多田税理士は、昭夫に話しかけた。

 

「小石川さん、ちょっと時間があるので軽く打ち合わせをしましょうか。」と、多田税理士。

 

「まず、私が沖山先生に申告財産の洩れがあったことを話しますから、その時一緒に頭を下げてくださいね。沖山先生は怒らないと思いますけど、やはり、そこはキチンと謝罪をしてもらわないと、その後の今後の方針についての相談もありますからよろしくお願いしますね。」と、昭夫の正面に立つ多田税理士。

 

「はい。分かりました。まず多田先生がお話されてから頭を下げるんですね。はい。」と、やっと緊張した表情になる昭夫であった。

 

「はい、よろしくお願いしますね。じゃあ、行きましょうか。」と、多田税理士達は歩き出した途端のことである。何と、沖山税理士が歩いて来るではないか。いったいどうしたというのだ・・。 

 

  次号をお楽しみに。

 


38章に戻る
40章へ