タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第38章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、小石川宅を訪問する前日の日曜日、脱税の事実を知らされて気分的に滅入っていた。少々被害妄想気味であった。沖山税理士の支援を受けられなくなってしまうと、その後の対応が心配でならなかったのだ。月曜午後4時、小石川宅。)

 

「小石川さん。親戚名義の預金のことは、奥さんから聞きましたけど、実際に、ご本人にお会いして確かめたいと思っておじゃましたんですけど。奥さんのお話で間違いありませんか。」と、多田税理士。

 

「はい、女房の話しに間違いありません。親戚の名義の定期預金を解約して、キャッシュで自宅の金庫に保管していました。親戚名義でしたし、解約してしまえば分からないだろうと思って、多田先生にも言いませんでした。すみませんでした。」と、頭を下げる昭夫であった。

 

「まあ、今更何を言っても仕方ないですから、今後のことを考えましょう。でも、どうしてまた親戚の方の名義の定期預金があったんでしょうねぇ。何か聞かれていませんか。」と、首をかしげる多田税理士。

 

「いやー。私も父から何も聞いていないんですよ。いつ頃からあったものかは分かりませんね。昔は、商売も相当儲かったみたいだし、金貸しでもしてたんじゃないですかね。ハハハ・・。」と、笑う昭夫。

 

「えっ。金貸しですか。申告してたんですか。最近はそんな所得はありませんよね。」と、またもや所得を隠していたのか、と心配になって尋ねる多田税理士。

 

「いやいや。父親は、最近は金貸しなんかしてませんよ。そんなに余裕もありませんし。私の想像ですよ。とにかく親戚名義の定期預金ですから、この先このまま持っていてもどうなるのか不安だったんで、いっそのこと現金に替えておこうと二人で話し合って解約を決めたんです。銀行の人もスムーズに対応してくれてたんで、親父の定期預金だってこと知ってたんでしょうね。」と、解約当時のことを語る昭夫であった。

 

「いつ頃から預けられたものか分かりますか。」

 

「いや、もう証書もありませんので分かりませんね。何年前からだろう。結構昔だったんですけどね。自動更新を繰り返してのは分かるんですけど。いつからだったかなー。」と、腕組みしながら考えこむ昭夫。

 

「そしたら、その親戚名義の定期預金の資料を銀行さんに出してもらって下さい。なんというお名前なんですか。その親戚の方のお名前は。」

 

「はい。一人は大口さんで、もう一人は鹿内さんだったと思います。さっそく銀行さんに電話で依頼しますね。うちの担当の方に電話してみます。なあ、おい。電話しとけよ。」と、彩子に指示する昭夫。

 

黙ってうなずく彩子であった。

 

「よろしくお願いします。では、こないだ奥さんから親戚名義の定期預金が約2,600万円あるということでしたので、いろいろと修正申告の税額を試算してみたんですけど、今、話してよろしいですか。」

 

「あ、はい。お願いします。」と、昭夫。

 

「あっ、その前に、今回の親戚の方名義の定期預金は修正申告するということでよろしいですね。次回の税務調査では、開口一番今回の修正申告のことを話しますからね。いいですね。」と、多田税理士の表情は険しいものになっていた。

 

 多田税理士は、もし、修正申告を拒むようであれば、小石川の税務代理人を辞めようと考えていたのだった。

 

「はい。分かりました。そのつもりで家内に電話をさせましたので。お手数をおかけします。いや〜、調査の内容はよく分からないんですが、先生達が一生懸命にやってくださっていることが私達にもビンビン伝わりましてね。やはり、キチンとしなきゃなあって思ったんですよ。」と、昭夫。

 

「分かりました。では、小石川さんの分割協議書には、新に財産が発見された場合には、お母さんが相続されることになっていました。まあ、通常、申告洩れや申告忘れ財産が発見された場合でも、その財産を配偶者が相続するということにしていれば、配偶者の税額軽減という割引制度を使えるので、分割に相続人間で文句がない場合によく使う手なのです。」

 

「ただし、申告洩れ財産が、仮装隠ぺいの場合には、配偶者の税額軽減の適用はなくなるんです。今回のこの親戚名義の定期預金を申告財産に加えなかった行為は、まさに隠ぺいですから軽減の対象にはなりません。ここまではいいですか。」

 

 多田税理士は、小石川夫妻の顔を交互に眺めながら話し、小石川夫妻は、同時にうなずく。タイミングがしっかり合っている。やはり、夫婦だからなのか。

 

「仮にですが、郵便局の定額貯金の件が全額課税対象外であることが認められたら、修正申告の対象は、今回の親戚名義の定期預金の洩れだけですから増差税額は約479万円で重加算税が約162万円、合計約641万円程になります。」

 

多田税理士は、予め、修正申告による各種の前提条件を変更した場合の税額の一覧表を作成していたのだった。

 

「これは、最悪の場合のことなんですけどね、郵便局の定額貯金の全額約7,000万円全部と親戚名義の定期預金の約2,600万円の全てが重加算税の対象になった場合の増差税額は、約2,211万円で重加算税は約774万円になり、合計で約2,985万円になります。これに延滞税がかかるのでもう少しかかることになるでしょうか。」

 

黙って聞き入る小石川夫妻。

 

「あくまで最悪の場合ですから。気にしなくてもいいと思います。で、郵便局ですが、お父さん名義の約2,000万円のみが追加課税の対象になったと仮定した場合ですが、これも親戚名義の定期預金を加えてのことですが、増差税額は約933万円で、両方とも重加算税の対象と仮定すれば重加算税は約320万円で合計約1,253万円程度になります。」

 

「ずいぶん税額が違ってくるんですね。目が回りそうになりますよ。」と、少々おどけてみせる昭夫であった。

 

 いずれの税額で修正申告するのか、それともいかほど更正処分で払うことになるのかは、まだ未定だが、既に納税可能な現金は手元にあるからなのか、余裕の表情の昭夫であった。

 

 一方、多田税理士は、最悪の状況になった場合の税額まで計算してみせて、修正申告の税額に慣れてもらい、スムーズに修正申告の了承をもらいたかったのだが、昭夫はさほど驚いた様子も見せなかった。

 

「ま、最悪と最善の税額の差は、約2,344万円位ありますから、ほんと目が回りますし、我々税理士もドキドキしますよ。ハハハ。」と、修正申告の了承がスムーズにもらえ、ホットした多田の表情も緩み、笑顔を見せる余裕もでたようだ。

 

「では、後は、沖山先生に親戚の定期預金のことを話して、申告漏れ財産があったことを謝りに行きましょう。そして、その時に今後の方針の相談に乗ってもらいましょう。打ち合わせをした後から、申告洩れ財産が出てきたりすると、沖山先生は以後税務代理人を辞任されるんです。それは、仕方ないですよね、信頼関係が崩れてしまったのだし、理論武装も崩れてしまいますからね。」と、一緒に沖山税理士に謝罪に行くよう促す多田税理士に、小石川夫妻も同意した。

 

 多田税理士は、昭夫が沖山税理士を騙していたことを伝えねばならないことに、申し訳無さ一杯であった。しかし、最期の相談が頼りの多田税理士は、沖山税理士の携帯に電話をかけた。テュルルルル・・。

 

  次号をお楽しみに。


37章へ戻る
39章へ