タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』37章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、小石川彩子から相続税について脱税をしていた事実が伝えられた。もはや、沖山税理士の援助も受けられない状況。親戚の名義を借りた定期預金の解約日は・・。)

 

「その親戚名義の定期預金を解約したのは、平成12年の4月18日です。」と、彩子。

 

「えっ、ということはお父さんが亡くなった日に解約したんですか。」と、驚いた様子の多田税理士であった。

 

「はい、父は明け方近くに亡くなったものですから、その日の午前中に解約してきました。私達ふたりで銀行にいきました。近くなので、そんなに時間もかかりませんし、主人がせかすものですから私もついて行ったんです。」と、彩子は申し訳なさそうに話す。

 

多田税理士は、自分の親が亡くなった日に定期預金の解約など発想できるだろうか、と考え込んでしまった。いやしかし、現実に親戚名義の定期預金の解約は行なわれたのだった。そして、その現金は、当初の相続税の申告財産に加えられることなく放置されていたのだった。明らかに脱税行為なのだ。しかも、約2,600万円と金額もデカイ。間違いなく重加算税の対象になることは確実であった。

 

 うっかりミスとか単純な勘違いなどの事実で、相続財産が増加する場合でも、当然に相続税は増額する。

 

 そして、その増加した相続税に対して過少申告加算税という罰則的な税金が別途かかるのである。さらに、財産が少なかった原因が、仮装又は隠ぺいによる場合には、この過少申告加算税に代えて重加算税が課せられるのだ。

 

 過少申告加算税は、通常の税率は10%であり、税務署から発見される前に自主的に修正申告した場合には課せられることはない。そして、重加算税の税率は、当初期限内に申告している場合には35%ということになり、もし無申告であったなら40%の重加算税が課せられることになる。

 

 また、この過少申告加算税も重加算税も修正申告した場合でも、税務署から「払いなさい」という行政処分を受けた場合であっても、その金額に変更がある訳ではない。そして、増差本税に対する延滞税も課税されるのである。ただし、加算税に対してその納税が遅れたからといって延滞税を重ねて課税されることはないのだ。

 

 もし、税務署や国税庁の課税処分に不服がある場合、増差本税や加算税や延滞税は待ってもらえるのだろうか。いや、待ってはくれないのだ。税務署自身や国税不服審判所や裁判所が課税処分を取り消さない限り法的には有効なのだ。

 

 従って、課税庁と争う場合には、どんなに不服があったとしても、まず、納税をしなければならないのだ。もし納税しないと、滞納処分を受けてしまうことになりかねないのだ。つまり、財産の差押や財産の処分の可能性まで出てくるのだ。税金訴訟となった場合に、課税処分の執行停止を申し立てることも可能であるが、裁判所がそう簡単に認めてくれる訳ではないと思った方が良いだろう。国とのケンカは結構大変なのだ。

 

「ご主人の相続税の申告ですから、ご主人から直接お話を聞かせて下さい。明日の日曜日でもいいですから。こちらにおじゃましますので。」

 

「あっ、あ明日は用事が入っていますので、月曜日の夕方なら配達も終わっていますので大丈夫です。」

 

「分かりました。では、来週の月曜日の午後4時頃おうかがいしますので、よろしくお願いします。日時の変更があれば連絡して下さいね。」

 

 多田税理士の足取りは重い。そして、心も重く沈んだ状態だ。完璧に小石川は脱税していたのだ。しかも、父親が亡くなったその日に親戚名義の定期預金を隠すつもりで解約し、現金を自宅に持ちかえっていたのだ。全くもって隠ぺい工作なのだ。また、愚行なのだ。

 

「あーなんでキチンとみんな出してくれなかったんだぁ〜。あ〜あ。沖山先生にも手伝ってもらったのになんて言えばいんだろう。怒られるかもしれないかな〜。破門されてしまうなんてことはないんだろうけど、もしそんなことにでもなったら、今後の税務調査は俺一人か・・。どういう展開になるのか想像もできないしなぁ。あ〜あ〜なんで言わんかったんだよお〜。」

 

 多田税理士は、帰りの車中で嘆くほかなかった。しかし、今後の対策も考えねばならなかった。正直、税務代理人を下りようかとも考えたのだが、今回の税務調査はただの税務調査ではなかった。なにせインターネットでの税務署員の実名報道の真っ最中なのだ。いくら脱税していたからといって自分まで税務代理人を辞めてしまったら、もう小石川の税務代理人を引き受ける税理士はいないだろうことは容易に想像がつく。

 

 多田税理士は、心を決めた。一人でやる。

 

しかし、今後の展開も予想はつかず、対処法も考えることはできない。取りあえずは、来週の月曜日に小石川昭夫に会って脱税の事実を確かめて、しっかり修正申告する意志を確認しておかねばならなかった。

 

翌日曜日の朝、多田税理士は自宅のテレビで手錠腰紐で連行されている被疑者の姿を放映するニュースを見ていた。

 

「脱税」「2,600万円」「実名報道」「事件」「権力」「報復」「冤罪」「逮捕」「取り調べ」「拘置所」等々の言葉が多田税理士の頭で泳いでいた。

 

「まさかなー。うん。そんなことはないに決まっている。そりゃあそうだ。でもなあ・・・。権力者が一田舎の税理士を葬り去ることなんか簡単だもんなぁ、実際。小石川さんなんで脱税なんかしたんだよ。俺の立場ないじゃん。えーオイ。ヤツが脱税したのは俺には関係ないんだから、別に悲観的にならなくてもいいんだけど・・。」

 

「うーん。小石川さんが、『多田税理士は金庫の現金を知ってた』なんて言ったら大変なことになるよな。でも、そんなことは考えられないし、また、事実じゃないし。変なこと考えなくていいのに・・。でも、もし。もし、冤罪で俺を葬り去ろうとすれば・・そうするつもりで小石川さんに働きかけて『多田税理士は脱税の事実を知っていた』と言わせることがまったくないとは言えないよなあ〜。冤罪かぁ・・。うわあ、そうなったら知らなかったことを証明することなんてできないんじゃないか・・。知っていたとウソをつかれて、知らなかったことを証明するなんかできないよなあ〜。悪魔の証明かぁ。ないことを証明することなんてできないもんなあ〜。」と、多田税理士は、悲観の海に沈み込んでしまった。

 

「うーん。被害妄想気味だと分かっていても、もしかして強引に脱税の共犯に仕立て上げられるかも知れないよな〜。まさか、小石川さんにウソをつかせる見返りに、課税を止める約束なんかしないよなあ。いやいや有り得ない話だ。いかんいかん。気弱になってはいかんな。」

 

 多田税理士は、落ち込む時は結構まっすぐに落ちこむのだ。いろいろと妄想してしまって、悲観の海の底にたどり着くと、妄想に気付くのであった。

 

「今後、沖山先生の援助はないんだから、最後に脱税の件を謝りに行く口実で今後の対応の基本路線の確認をさせてもらおう。それしか、今できることはないんだし。精一杯、依頼者の意向に応えてあげよう。それが、税理士の仕事なんだし、脱税してても修正申告するんならまだまだ支援できる範囲内だからな。」

 

 落ち込むだけ落ち込んだ多田税理士だが、やっと浮上してきたようだ。修正申告した場合の増差税額の試算を始めたのだった。

 

 そして、月曜日の午後4時。多田税理士は、小石川宅にいた。昭夫は修正申告を受け入れるだろうか。

 

  次号をお楽しみに。

 


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