タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』36章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、沖山税理士の税務調査での対応に感心したのだった。そして、沖山税理士の納税者との信頼関係の判断基準についても納得したのだった。)

 

 税務署員のホームページでの実名報道以来、最初の税務調査は終わった。体調不良の沖山税理士も思いの他元気だったことに多田税理士はホットしていた。

 

 税務調査の翌日、多田税理士の事務所の電話が鳴った。小石川彩子からであった。

 

「多田先生、昨日はありがとうございました。心強かったです。」

 

『何を今更、礼を言うためにわざわざ電話をかけてくるなんて、へんだなぁ〜』と、彩子からの電話に戸惑いを感じた多田税理士であった。

 

「あ、いえいえ。いいんですよ、わざわざお礼など言われなくても。仕事ですから。それにまだ調査は終わっていませんし、今後の展開がどうなるのかまだ分かりませんよ。」

 

「あのう〜、実は折り入って多田先生にお話があるんですが、よろしいでしょうか。」

 

 

「はい、今回の税務調査の件ですよね。いいですよ。じゃあ明後日の21日の土曜日ではどうですか。」

 

「はい、では朝9時半ということではいかがでしょうか。いえいえ私の方がおじゃましますので。はいはい分かりました。」

 

 電話を切ってしばし考えこむ多田税理士。『何の話しがあるんだろう。う〜ん。分からんなあ。ま、じっくり話しを聞いてみるしかないか。』と、改めて話しがあるという彩子の電話に、多田税理士は不安感をおぼえたのだった。

 

 21日の土曜日午前9時30分に小石川宅に到着した多田税理士は、彩子の出迎えを受けた。昭夫は留守のようである。いつものように応接間に通される。

 

「多田先生、わざわざすみません。呼びつけたみたいで申し訳ないです。」

 

「いえいえ、いいですよ。それにしてもいったいお話とはなんのことなんでしょうか。ん。今日はご主人はいらっしゃらないんですか。」

 

「はい、主人は留守なんです。主人に『お前から話しておけっ』て言われたんですけど・・・。」

 

「はい、なんでしょう。」

 

「実は、こないだの調査の日に沖山先生にも聞かれたんですけど、実はまだ申告していない財産があるんです。」と、彩子は申し訳なさそうに話す。

 

「えー、どういうことなんですか、奥さん。」

 

「あのう、多田先生や沖山先生が毅然とした態度でハッキリと税務署にもの申すお姿を拝見してて、私達もチャンとしようよ、ということになったんです。」

 

「すべて税理士さんにお話ししなきゃって二人で話し合ったんです。」

 

「あ〜そうなんですか〜」と、力ない返答の多田税理士であった。

 

「で、何があるんですか。」

 

「実は、父が親戚の名義を借りていた定期預金が二口あったんです。約2,600万円程なんですけど。あっ、解約した時の金額なんですけどね。」

 

「え〜、そんなにあるんですか。なんで申告の時に話してくれなかったんですかぁ〜。ハア〜。今から言っても始まらんですね〜。」

 

「すみません。私はちゃんとしましょうよって言ったんですけど、主人が親戚名義の定期預金なんて分からんから解約して現金で持ってればバレないって言うもんですし、私も先生にお話できなかったんです。でも、やっぱりキチンとお話しして、申告しなくちゃいけないようだったら申告しようよって話し合ったんです。」

 

「申告しなきゃいけないに決まっているでしょう。そんなほったらかしになんかできませんよ。あっ、もしかしてもう親戚名義の定期預金のことを知っているんじゃないでしょうかね税務署員達は。それで、何度も他に財産はありませんかって聞いていたのかもしれませんね。」

 

 多田税理士は、『とんでもないことになった』と、心中かなり動揺していた。修正申告をすることは当然としても、今後の税務調査の進展を考えると頭が痛い。明かな脱税が行なわれていたのだから強気の対応をしてきた多田税理士達にとってバツの悪い話であった。

 

 また、『沖山税理士の今後の援助も諦めざるを得ないかも知れない』と、多田税理士は考えていた。それは、沖山税理士にとっても無理もない話しであった。

 

『申告財産の洩れはない』と、キッパリ言っておきながら「いや実はありました。でも、税務調査はなんとかしてください。」では、信頼関係も崩壊した中で、この後また何か出てくるようであれば、税務調査の対応を考えることなどできないからだ。

 

 しかし、多田税理士は、今後一人で調査に対応することにも大きな不安があるのだ。何せ、前代未聞と言ってもいい税務署員の実名報道を自身のホームページで行なったばかりである。沖山税理士の援助なしで対応できるのか見当もつかないのだ。

 

 理論派でめっぽう強気の沖山税理士がいなくなって、多田税理士一人になった場合、もしかしたら、税務署サイドは、強硬な態度に一変するのかもしれないのだ。

 

 一度不安な気持ちになってしまうと、どんどん悲観的に考えてしまう多田税理士であったが、何とか今後の対応を考えることにしたのだった。

 

「奥さん、まず沖山先生にウソをついてしまったのだから、ご主人と私と三人で先生の福岡の事務所に謝りに行きましょう。ね、それまでに今後の対応を私が考えておきますので、その時沖山先生に相談にのってもらいましょう。つまり、今回の場合ね、先生がお尋ねになってから申告洩れ財産が出てきたでしょう。こんな状況になったら先生は税務調査を止められるんですよ。そりゃあ信頼関係を裏切ってしまったんだから、仕方ないですよ。僕の方からもとても調査立会いを継続して下さいなんて言えませんよ。まず、謝罪に行って、先生に最後の相談をお願いしましょう。」

 

「はい、分かりました。主人にも伝えます。」

 

「じゃあ、沖山先生の都合を聞いて、訪問日を決めますので、決まったらこちらからご連絡します。ご都合を聞かせて下さい。」

 

 多田税理士の表情は険しく、口の中がからからに乾燥してしまっていた。緊張感と不安感のせいである。

 

「ところで、親戚の方名義の定期預金は解約したんですか。では、現金でどこかにあるんですか。」

 

「はい、家の金庫にあります。」

 

「えっ、じゃあ最初の調査の時に税務署員は発見したんですか。」

 

「いいえ、あの時は金庫の底の方は見られなかったので分からなかったと思います。」

 

「へー、そんなこともあるんですねぇ〜。で、定期はいつ解約されたんですか。」と、多田税理士は質問した。

 

「それがですね・・」との、彩子の回答に、多田税理士は唖然としてしまった。

 

  次号をお楽しみに。


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