タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第35章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士による税務署員の実名報道後の初の税務調査が平成15129日に行なわれた。やはり、挑発的な態度の調査官にカミナリを落とした沖山税理士であった。税務署員が帰った後の小石川宅の応接室。)

 

「いや〜、お疲れ様でした沖山先生。」と、多田税理士。

 

「いやいや私しゃなんともないよ。あんたこそ疲れたんやない。ハハハ。」と、沖山税理士。

 

「いや〜、疲れましたね〜。いやでも両先生ご苦労様でした。本当に心強かったですよ〜。沖山先生は、ハッキリとおっしゃるんですねー。声も大きいし。頼もしいったらありゃしない。なあおい。」と、昭夫。

 

「ホントありがとうございました。」と、彩子。

 

 兎も角、今日の税務調査は終了したのだから、ホットするのも当然である。さすが沖山税理士は、余裕綽々といったところでろうか、まだまだ十分な気力がありそうである。病み上がりとは思えない気迫であった。

 

「昭夫さん。昨日あれだけ練習したのに、本番になるとしゃべれなかったですね。」と、多田税理士。

 

「いや〜、お恥ずかしい。頭では分かっているつもりだったんですけど、うまくしゃべれるかなあって考えたら言葉がでないんですね〜。」と、昭夫。

 

「まあ、今回は緊張されるのも無理ないでしょうね。相手は4人だし、実名報道の後でもあるし、相手の出方も分かりませんからねえ。でも、沖山先生の助け船はグッドタイミングでしたね。」と、多田税理士は沖山税理士に微笑みながら話す。

 

「うんまあね。税理士は税務代理人なんだから本人と同じなんよ。だから、最初から終わりまで税理士が話してもいいんよ。まあでも、事情や状況の説明は納税者本人がした方が信憑性は高まるよね。かと言って、全部納税者に説明してもらわなきゃいかんてことも無いからね。適当なところでこっちにもらうんよ。」と、沖山税理士。

 

「あ〜そうなんですか。そうやって納税者に助け舟をだす為にも、調査の前に事情や状況なんかを予め聞いておくんですね。それで、昨日事前にこちらにお邪魔したんですね。ああ〜、そうですか。いや〜深いですねえ。でもその方が納税者は助かりますよね。いや〜勉強になりました。」と、多田税理士は応接机にふかぶか頭をさげておどけてみせた。

 

「わっはっはっ、わっはっはっ」応接間に全員の笑い声が弾んだ。ホットした瞬間である。

 

「多田先生や沖山先生のようなベテランの先生に立会って頂き、ありがたいです。私ら何にも分からないですから。いや、頑張って対応して頂いていることは十分に分かっています。いや〜、でも弁護士的な税理士さんっているんですねえ。」と、感心しきりの昭夫。

 

「あ〜そう言えば、あの唐巻調査官だったか。相続税の調査官だけど、何度も『本当に他に申告財産はありませんか』って聞いてたけど、その点大丈夫なんでしょうねご主人」と、沖山税理士。

 

「はい、それはもう大丈夫です。先日お話しました、郵便振替口座の50万円はまったく忘れていましたけど他にはもうありませんから。はい。」と、いつになく素早く返答する昭夫であった。

 

「じゃあいいです。どうも、何度も聞いてきたのが気になっていたんですが。そうですか。郵便振替口座は少額だしその分の修正申告はしてもいいしねえ。」と、沖山税理士はもう先のことを考えていた。

 

多田税理士も昭夫同様相当緊張していた。税務調査で、真っ向から言い合うことなど今まで考えたこともなかったからだ。ホームページの実名報道は、沖山税理士の応援でなんとか実現させたものの、多田税理士は税務調査の経験も少なく自分がどう対応していいのやら困惑していたのだ。今日の税務調査でだいたいの要領も分かってきたし、今後は、沖山税理士と役割分担もできるだろうと考えていた多田税理士であった。

 

「まあ、分かりきった話ですが、我々も強気で出れるのは、こっちに何の落ち度もないと分かっているからなんですね。」と、昭夫に話す沖山税理士であった。

 

「はぁ、そうなんですか。」と、気の抜けた返答の昭夫。沖山税理士が説明したことを飲み込んでいない様子でった。

 

 多田税理士は、今の沖山税理士と昭夫の話しを聞きながら、なんで唐巻調査官は「何度も申告洩れ財産はないか」と、しつこく聞いてきたのか考えてみたが、皆目検討もつかないでいた。沖山先生がいらっしゃるから大丈夫だろう、と軽く考えていた。

 

 実際、本日の税務調査は、全てにおいて沖山税理士が主導権を握っていたのだった。

 

「それじゃあここらへんで失礼しましょうか。沖山先生。」と、多田税理士。

 

「うんそうだね。失礼しますかね。」と、沖山税理士。

 

 二人は帰り支度を済ませ立ちあがった。

 

「税務署から私の方に日程の連絡があり次第ご連絡しますので。その時ご都合を教えて下さい。都合が悪い日だったら言って下さいね。」と、多田税理士。

 

「はい、なるべく先生達の都合に合わせるつもりです。今後とも、よろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました。」と、昭夫と彩子は深々とお辞儀をしたのだった。

 

沖山税理士と多田税理士もお辞儀を返して、玄関に向った。見送りを断り、二人は小石川宅を出た。雪は止んだとはいえ、道端には雪が残っていた。底冷えのする夜だった。

 

二人は、車に乗りこみ帰路についた。もう交通渋滞は解消したようで、福岡までの道のりはスムーズであった。

 

「先生、今日はどうもありがとうございました。本当に助かりました。それに、いい勉強になりました。」と、多田税理士。

 

「うん、そうね。」と、気にしない様子の沖山税理士。

 

「いや〜ほんとです。勉強になりました〜。税理士は納税者の代理人なんですね。事情や状況の説明も事前に聞いておけば替わりに説明してあげることができたんですね。」と、多田税理士。

 

「うん。事前に納税者から事情を聞いておくと便利だよね。私の場合、税務調査だけお付き合いすることもあるからね。でもね、税務代理を引き受けてから、今までの説明と違う事実が出てきたら、これはもういかんね。信頼関係が成り立たないし、そういうことが分かった時点で税務代理もお断りしているんだよ。」と、沖山税理士。

 

「は〜あ。それはそうでしょうね。信頼関係を作れないとしょうがないですよね。単に、強気の態度を利用しているだけになってしまいますよね。」と、もっともだと感じ何度もうなずく多田税理士であった。

 

「どうも、しつこく申告洩れ財産がないか聞いていたのがちょっと気にはなるんだよ。」と、考えこむ沖山税理士であった。

 

「はあ。」としか返事が出来ない多田税理士であった。

 

 沖山税理士を無事自宅近くまで送り届け、多田税理士もそうそうに帰宅した。緊張の一日であった。

 

 しかし、この後、多田税理士は眠れぬ夜を過ごすことになってしまうのだった。それは・・・

 

  次号をお楽しみに。


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