タックスエンターテイメント小説〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第34章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(家族4人全員の名義の定額貯金の説明を聞いて天井を見上げる唐巻超調査官。そのあと、彩子を責めたてる初永調査官に質問検査権の条文を説明する沖山税理士。この後、初永調査官は暴言を吐く。)

 

「私は、沖山先生の講義を聞きに来たのではありません。」と、初永調査官が叫ぶのであった。

 

 これは大変な暴言なのである。確かに、沖山税理士は、税法の勉強会を主催しており、九州中を授業で駆け回っており、九州の税理士業界では有名な税理士であり、税務署に対しても強い態度で臨む税理士として有名であった。

 

 税理士は、納税者から税務代理権限証書に署名押印してもらうことによって税務代理人となるのである。つまり、税務に関する委任状を税務署に提出することによって納税者の税務に関する代理人になっているのである。

 

 つまり、税務代理人とは、本人に替わって申告書を書いたり意見陳述をする権利を持っているのだ。税務に関しては本人と同じなのだ。にも拘わらず、初永調査官は税務代理権限証書を事前に尾戸巣税務署に提出している沖山税理士の話しを聞かないと宣言したのだ。税務代理人を無視するという暴言を吐いたのだ。法律おも無視する傍若無人ブリを発揮する初永調査官に沖山税理士の鉄槌が下る。

 

「何を言うか、キサン!ふざけるな!!税理士は、納税者本人と同じじゃないか。その税理士の話しを聞きに来ていないとはどういうことだ。税理士の意見陳述をさえぎるとは何事だ。調査立会いを妨げるとは税理士法違反になるぞ。分かっているのかキサン!」と、沖山税理士の声が応接室中に響き渡る。

 

 沖山税理士が怒鳴りつけ睨みつけると、初永調査官は黙ってしまいうつむいてしまった。シーンとした時間がしばし流れ、多田税理士が話し出す。

 

 「えー、相続税に関しては先ほど沖山先生と小石川さんの話しでお分かりになったと思いますし、所得税のことについてなんですが、小石川さんのお父さんは、小石川さんの知る限りでは売上をごまかしたりしていないと思うということです。また、亡くなる以前は、お父さんが事業を仕切っていたので、息子の小石川さんは帳簿のことなどは全く関与していなかったんです。」と、多田税理士。

 

「ただですね。平成13年の160万円については売上洩れを認めています。そして、平成12年についても80万円の売上洩れがあったことも認めていますので、この件に関してはすぐにでも修正申告書を提出するつもりでいます。」と、小石川昭夫自身の所得税の修正申告について提出する意思があることを、多田税理士は税務署サイドに示したのであった。

 

 尾戸巣税務署の4人の調査官は、お互いにメモした書類を見せ合いながら、何か話し合いを始めたようだ。そして、書類のやり取りをしている。そして、山口調査官が他の調査官のメモを受け取り、書類を書き出したのだった。恐らく今までの会話の内容を文書にしているのであろう。他の調査官達は、書類などをカバンに収納し帰り支度を始めた。

 

 沖山税理士が多田税理士に耳打ちをする。

 

「あれはね、きっと調書のつもりだよ。最初からしゃべっている奴以外はみんなメモをとってたよね。だから、始めっから調書をとるつもりだったんだよ。恐らく署名押印って言ってくるからね。従っちゃだめだよ。」と、沖山税理士は言う。

 

「エッ」、とい驚いた表情で沖山税理士の方を振り向く多田税理士であった。深く頷く沖山税理士。

 

 今度は、多田税理士が小石川に耳打ちをする番だ。

 

「小石川さん、今、山口調査官が書類を書いているでしょう。あれはね、証書のつもりなんですよ。署名押印って言ってきても、そんな義務はありませんから、しませんからね。いいですね。」と、多田税理士。

 

 昭夫はゆっくり頷いた。沖山税理士が、多田税理士の膝をつっついた。机の下で初永調査官を指差してささやいたのだった。

 

「あいつは徹底的に攻撃せんといかんね。あいつは。いいね、多田さん。」と、厳しい口調と眼光鋭い沖山税理士は言った。頷く多田税理士であった。

 

 しばしの沈黙の時間が流れた後、山口調査官の書いた書類を唐巻調査官が受け取り、ひと通り目を通してから話し出した。

 

「お待たせして申し訳ありません。こちらも整理をしておりました。それではですね、本日のお話をまとめてみましたので間違いがないか確認をしていただけませんでしょうか。よろしいでしょうか。」と、唐巻調査官は礼儀正しい口調で話す。

 

「はいはい、どうぞ。」と、沖山税理士。

 

「では・・」と、母親の入院の話しなど、今日話題になったことを書類を見ながら話し、そして、郵便局の定額貯金について話し出した。

 

「郵便局の家族全員名義の定額貯金についてですが、昭夫さんと彩子さん名義の定額貯金は、ご本人のものでお母さんが管理をされていたんだけど、お母さんが入院された時に証書を渡してくれて、以後はご本人が保管されていた。そして、お母さんとお父さん名義の定額貯金については、お母さんが貯蓄されていたものであり、お父さん名義にしていたのは、お父さんが事業で困った時に気楽に使ってもらえるようにしていたということですね。」と、ゆっくりと柔らかい口調で途中つまることもなく話す唐巻調査官。

 

「そして、お父さんは吉野ヶ里銀行に家族全員の名前で預金していて、これはお父さんの事業資金だから全て申告財産に加えられていたんですね。」と、唐巻調査官。内容的に、ほぼ当日の会話の内容を忠実に再現しており、沖山税理士も目をつぶって黙って聞いていた。

 

「それで、小石川昭夫さんの所得税についてですが、平成12年と平成13年の売上洩れがあることを認められている。12年が80万円で13年が160万円でしたね。」と、昭夫を見る唐巻調査官。

 

ゆっくり頷く昭夫。

 

「それでは、本日のお話の内容に間違いがなければ、この書類に署名押印して下さい。」と、さも署名押印することが当然のような口ぶりで話す唐巻調査官であったが、間髪入れず沖山税理士の反論が応接室に響き渡ったのであった。

 

「あんた達、始めから調書をとるつもりで来たんやろ。私達はね、一方的に書かれた書類に署名したり押印したりする気はないからね。だって、そんな調書に署名押印する義務なんかないんだから。それだったら、こっちもこっちで今日の会話の内容を書類にまとめるからあんた達もその書類に署名押印しなさいよ。それで、平等になるやないね。」と、一気にまくし上げる沖山税理士。

 

 唐巻調査官は、書類を持ったまま呆然となった。諦めたのか、書類を自分のカバンにしまい込んでしまった。そして、腕時計を見た。4時30分になっていた。

 

「それでは、本日はもうこんな時間ですので、そろそろ失礼します。まだ調査は残っておりますので、次の日程は多田先生にご連絡すればよろしいですか。」と、唐巻調査官。

 

「はい、結構です。そうして下さい。」と、多田税理士は返事した。

 

 尾戸巣税務署の4人の調査官は、帰った。応接室では、沖山税理士が多田税理士に税務調査対応の秘策を話していたのだった。

 

 その秘策とは・・。

 

次号をお楽しみに。


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