タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』33

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(緊張した空気の中、税務署員4名、税理士2名、納税者夫婦2名の税務調査は続く。いよいよ郵便局の定額貯金の解明が始まった。)

 

「それで、母親は倉庫や工場でも一緒になって働いていたそうで、経理も担当していたようです。そりゃあ、働き者で有名だったそうです。それで、えーっと何を言えばいいんだっけかな・・・。」と、落ちつかない様子の昭夫であった。

 

「あっ、そうそう。私達二人の名義の定額貯金のことですけど、あれは、母親から証書をもらったんですね。それで、これはあんた達のもんだから自分で持ってなさいっというような感じの事を言ってもらって、それで、自分達で管理するようになったんです。」と、昭夫は相当緊張している。すると・・・。

 

「ああ〜もう。昭夫さん。もっとハッキリ話したらいいじゃないですか。昨日私達に話したように話せばいいんですよ。」と、沖山税理士がすかさず助け舟を出す。

 

「ははは・・。緊張しますよね。やっぱし。」と、昭夫。

 

「では、私から説明します。」と、沖山税理士。

 

「まず、昭夫さん名義の貯金は、お二人の結婚式の祝儀と、それまで昭夫さんが稼いだ給料を母親が管理していたものを定額貯金にしていたんです。」と、沖山。

 

「それで、平成12年に解約した金額が約2,000万円ですが、当時の金利からして10年で倍になってもおかしくない時代だから、平成2年当時の元本は約半分の1,000万円だとすると、結婚までの7年間分の給料を貯金したと考えると月10万円貯金したとしても約800万円近く貯まる訳だし、結婚式の祝儀も加えると、昭夫さんが平成2年当時に約1,000万円程度の預金を持っていたとしてもなんら不思議はありませんね。」と、少しも途切れることなく説明する沖山税理士であった。

 

「次に、彩子さんの定額貯金ですが、昭夫さんと同様に平成2年当時の元金を半分の約500万円とします。奥さんは22才で結婚されましたが、結婚のおよそ2年前からここで働いていたんです。そうですよね、彩子さん。」と、沖山税理士は彩子の方を見た。

 

「はい。」キッパリとした返事が彩子から帰ってきた。

 

「はい。それで、その時の給料と結婚式の祝儀を合わせて定額貯金にしたんですね。金額的にいっても決して不自然な金額ではありませんね。そして、貯金をもらったのではなくて、お二人ともご自分の貯金を定額貯金の証書にしてもらって、その証書をもらったんですね。つまり、このお二人の定額貯金についてはご自身のものであったということです。それでいいですね。昭夫さん。」と、沖山税理士。

 

「はい。その通りです。」と、大きくうなずく昭夫。

 

 多田税理士は、急に話し出した沖山税理士の方を横目で見ながら税務署員の反応を眺めていた。

 

 郵便局の定額貯金の説明を求めた山口調査官は、いつの間にか、メモを書く方に回っていた。

 

 相続税担当のもう一人の調査官である唐巻調査官が沖山税理士の話を聞いていた。

 

「では、後の父親名義と母親名義の定額貯金ですが、これも平成2年当時の元本を約半分と見て、各々約1,000万円ずつの預け入れがされていますが、これは、母親が自分で貯金していたものだと母親が説明しています。父親の事業は昭和45年頃創業しており、創業当時より母親も事業に従事しておりました。ですので、平成2年までの約20年間に貯蓄したものと考えても不自然な金額でもありませんし、当時のそのまた以前の貯金もあるでしょうし、複利計算だと元本はもっと少なくなるかもしれませんね。それで、父親は頑固で気難しい性格なので、事業資金に困った時に、自分名義の貯金だと遠慮せずに使ってくれるだろうと思いやって、母親は自分の名義と父親の名義にしていたと息子達に説明したんですね。」と、沖山税理士。

 

「また、母親は自分の貯金は郵便局を利用していたし、父親は事業資金について民間の金融機関の吉野ヶ里銀行を利用していたんですね。それで、吉野ヶ里銀行の家族名義の預金は、全額父親の事業資金から出来たものなので全額相続財産として申告しているんです。」と、唐巻調査官に向って話す沖山税理士であった。

 

「なるほど、そう言うことだったんですか。昭夫さん、今沖山先生がおっしゃったことに間違いはありませんか。あっ、そうですか。間違いないんですね。はい、分かりました。」と、話した後考えこんでいる様子の唐巻調査官は、天井を見上げて腕組みになった。

 

「え〜、奥さん。話しが違うじゃないですか。」と、声を荒げた初永調査官が彩子に向って問いただしてきたのだった。目が吊り上っている。脅しているつもりか、追求しているつもりか、いつもこうなのか・・・。

 

「私達が初めて調査に来て手提げ金庫を見せてもらった時に、奥さん名義の貯金通帳もあって、見せてくれたじゃないですか。吉野ヶ里銀行の普通預金の通帳と郵便局の普通貯金の通帳と、生命保険の証書だったですよね。その時、『少なかけんはずかしか。私の財産はこれだけなんですよ』って言われたじゃないですか。」と、一気にまくしたてる初永調査官。

 

「そんな。以前にどんなことをしゃべったかは覚えてませんし、手提げ金庫の中の財産はこれだけですって言ったんじゃないですか。だって、私の全財産を全て報告する義務があるんですか。」と、やり返す彩子。

 

「だって、あの時奥さんの財産はこれだけだって言ったじゃないですか。郵便局の定額貯金もあるって言わなかったじゃないですか。」と、しつこく追求する初永調査官であった。

 

語気を荒げた初永調査官の発言にたまりかねたのか、昭夫が力なく言った。

 

「妻の財産のことまで話さなくちゃいけないんですか・・。」

 

「いえ。奥さんは専従者だから専従者給与はいくらもらっているとか、事業に関する質問にだけ答えればいいんですよ。奥さんの個人的な財産について、今回の調査では話す必要はありませんし、奥さんの個人的な財産を検査することもできないんですよ。」

 

「奥さんは反面調査対象者であるので、納税者である昭夫さんの事業についての質問には答える義務があります。そして、反面調査対象者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査できるのであって、奥さんの個人的な財産は、検査の対象になりません。」

 

「所得税法234条の質問検査権の条文にハッキリ書いてあるでしょう。」と、初永調査官をはるかにしのぐ大声で反論する沖山税理士であった。

 

 多田税理士は、あんな痩せて細い体のどこからあんな大きな声がでるんだろう、と驚くと共に税務署員の発言に即座に反応して反論する頭の回転の早さに感心しきりの多田税理士であった。

 

 初永調査官は、所得税の担当である。そこで、所得税の調査では、納税義務者である昭夫は当然に質問対象者となる。そして、その納税義務者から金銭の給付を受けた者は反面調査対象者となり、彩子も青色事業専従者給与をもらっているので質問の対象者になる。そして、質問対象者や反面調査対象者の事業に関する帳簿書類その他を検査することができる、ということが所得税法234条に規定してある。

 

 つまり、質問にしろ検査にしろ事業に関係するもののみに絞られるのであり、この質問や検査も質問対象者や反面調査対象者の「承諾」を前提にしているのである。従って、昭夫の所得税の調査に来ている税務署員に、彩子の個人の財産について質問する権利も検査する権利もないのである。彩子についても義務はない。

 

 しかし、初永調査官は、この後どんでもない暴言を吐くのであった。

 

 


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