第7話『こいつら取調室だな』30

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(北部九州地方では、大雪になっていたが、税務署員は税務調査に遅れないように出勤していた。多田税理士一行は、大雪による交通渋滞の真っ只中にいた。)

 

「いや〜、税務署員は既に出勤していたんですね。こんな大雪の中よく出てこれましたねぇ〜。気合が入っているというか、真面目というか。ある意味大したもんですね。」と、多田税理士。

 

「もう出かけた職員に連絡がついてもらわないと困りますねぇ〜。小石川夫妻だけで税務調査を始めてもらってはマズイですからね。」と多田税理士は続ける。

 

「うん、そうやね。」と、沖山税理士。取り越し苦労はしない性質なのだろう。落ち付いて、ただ前を見ているだけであった。

 

「あっ、そう言えば小石川さんにも連絡しとかないといけませんね。今から連絡します。」と、携帯電話から小石川宅に電話をする多田税理士であった。

 

「あ、もしもし、奥さんですか。税理士の多田です。今そちらに向っているんですが、交通渋滞でどうにもならないんですよ。10時には絶対に間に合いませんので、先ほど尾戸巣税務署に連絡してですね、職員には午後1時に訪問するように伝言を頼んだんですけど、もし、私達より先に税務署員が着いても、家に入れないで待たせておいてくださいね。いいですね。」

 

 一気に要件を伝える多田税理士。

 

「あ、はい分かりました。税務署員の方が先に来たら応接間で待ってもらいます。私達は、先生達が来られるまで別の部屋にいますので・・。」と、小石川彩子。

 

「ああ、それでもいいです。もし、そうなったら私達が来るまで絶対に調査に応じないで下さいね。いいですか。大事なことですからね。後で、取り返しのつかないことにでもなったらいけませんからね。」と、心配げに話す多田税理士。

 

「あの、それからご主人はいらっしゃいますか。今、大宰府インターを過ぎたとこなんですけど、これからこのまま国道を行っても午後1時に間に合うかも分からないんですよ。それで、ご主人は車で配達でしょうから、道に詳しいと思いましてね。ここからですと、筑紫野バイパスに入った方が近いと思うんですが、ご主人に聞いてもらえませんか。」と、多田税理士。

 

「あっ、はい。分かりました。主人に聞いてみます。」

と、彩子。

 

しばらく、待っていると、小石川昭夫が電話にでたのであった。

 

「もしもし、多田先生。こんな大雪の中ご苦労さまです。すみませんね〜。私達の為に、ありがとうございます。ええ、それで道路の件ですけど、先生がおっしゃるように筑紫野バイパスが通れる状態であれば、そちらの方が早いと思います。」と、昭夫。

 

「はい、分かりました。では、筑紫野バイパスの方を通ってきますね。ああ、それで、先ほど奥さんにも伝えたんですが、私達が遅れた場合なんですけどね。」

 

「はい、分かってます。先生達抜きで私達だけで対応するようなことはしません。大丈夫です。分かってます。仮に午後1時に遅れられても、別室に通して先生達をお待ちしてますから。」と、昭夫。

 

「はい、ではそのようにお願いします。では、なんとか1時には間に合うように来ますので。」と、多田税理士は返事をして携帯電話を切った。

 

「あ〜、税務署員が到着する前に連絡がついてよかったです。税理士抜きで調査を受けないようにクギをさしておきましたから。」と、安堵の表情になる多田税理士であった。

 

「大丈夫よ。ここまで来たら税務署員もいくらなんでももう乱暴なことはしないだろうからね。」と、落ちつきはらっている沖山税理士であった。

 

「はい、そうですね。でもまあ、安心の為にも小石川さんに連絡できてよかったです。」と、多田税理士。

 

 時折、大粒の雪が横殴りに降っており、道路の雪も全く解ける様子はなく、車はノロノロ運転で進んではしばらく止まり、ノロノロ進むといった感じで、時間だけがテキパキと進んでいるようであった。

 

「あっ、筑紫野バイパスの看板が見えてきましたね。え〜チェーン規制かぁ。チェーンつけてないトラックが何台かバイパスの方に向ったなぁ。え〜い、こっちも行ってみますか。」と、ひとりごとを言ったと思ったら、筑紫野バイパスに向う道路にハンドルをきった多田税理士であった。

 

 筑紫野バイパスでは、雪のワダチにタイヤを合わせてゆっくり進むことができた。

 

 しかし、ブレーキを踏むとたちまち車がスリップしてしまいそうである。多田税理士は、慎重な運転になり言葉も少なくなっていた。沖山税理士も何もしゃべらない。

 

 小石川昭夫の助言の通り、筑紫野バイパスを通行する車両はゆっくりではあったが、止まることなく前進していた。多田税理士の運転する車も、順調に進行していた。時刻は、午前11時50分になっていた。筑紫野バイパスの尾戸巣方面の出口を出ると、道路の雪もかなり解けており、小石川宅方面に向う幹線道路は、普段の走行状態に戻っているようであった。

 

「かなり道路の雪は解けてますねぇ〜。やっぱり筑紫野バイパスを選択して正解でした。この分ですとスムーズに小石川宅まで行けそうです。沖山先生もう少しの辛抱をお願いします。先生も座ってばっかりで窮屈でしょう。」と、多田税理士。

 

「いやいや、あんたこそ長時間の運転は大変だったよね。雪道は運転しずらいかんらねぇ〜。ご苦労さん、ご苦労さん。」と、沖山税理士。

 

 小石川宅近くまで来ると、幹線道路の雪は完全に解けていた。幹線道路から住宅街に入ると雪はまだ残っていたが、車が通った後の道路の雪は解けていた。やっと、小石川宅に到着した多田税理士らであった。時刻は午後12時30分である。通常であれば、小石川宅まで1時間もかからない距離であるが、降雪により5時間半の長い道のりとなってしまった。

 

 多田税理士が、小石川宅の玄関のチャイムを鳴らし、次いで玄関の引き戸を開けると、すぐに、小石川夫妻が玄関に現れた。玄関には、税務署員の靴などはなく、先方もまだ到着していないようであった。

 

「いや〜、大変でしたね。ささ、どうぞ上がって下さい。部屋もしっかり暖めていますから。ささ、どうぞどうぞ。」と、昭夫。

 

「では、おじゃまします。」と、沖山税理士。彩子が先導して歩き、応接間の障子が開けられた。

 

「うわ〜、暖かいですね。ホットしますね〜。冬はなんといっても暖かいのが最高のご馳走ですねぇ〜。」と、一人はしゃぐ多田税理士。

 

「多田先生。お食事はまだでしょう。うどんでしたらすぐに出来ますけど。いかがしますか。」と、彩子。

 

「先生、どうされますか・・」と、多田税理士は沖山税理士に尋ねてみた。沖山税理士は、最近は少しは体調が良くなったようだが、一時は食事が摂れない状態になり、数週間前まで点滴だけで過ごしていたことを多田税理士は知っていたのだった。

 

「ああ、うどんですか。いいですねぇ。量は半分くらいでいいですから。すみません、お願いします。」と、沖山税理士の元気な声に、ホットする多田税理士であった。間もなく午後1時。もうすぐ税務署員がやってくる時間だ。食事時間もあまりないようだ。

 

 次号に続く。


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