タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第2章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士の出張中に、事前連絡もなしに、いきなり税務署員が4人、小石川宅に訪れた。所得税と相続税の総合調査なのだった。多田税理士の伝言で、相続税の調査は行われなかったが、所得税の調査は進行していたのだった。相続税の調査の1日目、多田税理士は事前通知なしで訪問したことを山口上席調査官に講義し、謝罪させたのだった。)

 

多田税理士は、外で昼食を済ませ、午後1時に小石川宅に戻ってきた。

 

「いやー!!多田先生。強いですねー!!どちらが調査されているか分からないぐらいでしたよーー!!」と小石川昭夫が多田税理士に話しかけた。

 

「いや、そんなことはないですよ。ただ、委任状を出して私が担当税理士だと分かっているのに、事前通知もしないで来るもんだから、キチンと抗議しないとイカンのですよ。抗議したからと言って、事前通知なしでの調査を止めることはないでしょうけど。多田税理士は、文句を言うことを知らせておく必要があったんですよ。」

 

 多田税理士は、小石川が安心した様子なのでホットしていた。やはり、命の次に大事なお金を取りに来る税務署なのだから、一般の人は、意味無く税務署員が恐いのである。

 

 ほどなく、税務署員も戻って来た。さあ、調査再開である。

 

 税務署員は、被相続人(小石川明)の生前の趣味や仕事の話しを聞き、通常の税務調査の進め方である。

 

 雑談になり、多田税理士は自分が小説を書いてインターネットで公開していることを税務署員に話したところ、山上調査官は「見ました」と言ったのだ。

 

「あーそうね。知っとるのね。偶然見つけたのね。そう。あんた達ねぇ、変なことしたら実名報道するからね。ちゃんとしてたらそんなことはせんけどね。」

 

山下調査官は「僕達もあんな風に実名報道されるのかなーと思って来ました」と、やや元気なさそうであった。

 

「別に普通にしてれば、実名報道なんかせんよ。」と多田税理士。

 

 そうこうしている内に、尾戸巣税務署の山口上席調査官がガバンから書類を取り出し「ぶっちゃけて申し上げますと、郵便局にご家族名義の定額貯金が約7,000万円ほどあるんですが、これはどうされたんですか」と切り出してきた。

 

 多田税理士は、驚いてしまった。

 

「えー、7,000万円ですか。私は聞いていないけど、昭夫さん、これは本当ですか。どうしたんですか。」と小石川に尋ねる多田税理士であった。

 

 一方、小石川昭夫と妻の彩子もビックリしている様子なのだった。

 

「えー7,000万円ですか。そんなにあるんですか。へぇーー。驚きですね。」と小石川昭夫は考え込んだ。

 

「あらー、そうなんですか。うーーん。」と妻の彩子。

 

「えー、みなさん知らないんですか。」と多田税理士は、税務署員が見せた、定額貯金の証書のコピーを見ながら、預入れ日・名義人・解約金額・解約日等の内容をメモしていた。

 

「あっ、お父さん名義の定額貯金がありますね。お母さん名義と昭夫さんと彩子さん名義の預金もありますねー」と言いながら、小石川夫婦の顔を見ていたのだった。

 

 定額貯金の内訳は、被相続人である父親の明名義が2,000万円と母親の美代子名義が2,000万円。そして、息子の昭夫名義が2,000万円と昭夫の妻の彩子名義が1,000万円で合計7,000万円の定額貯金の解約が行われていたのだった。

 

 多田税理士は、父親名義の預金は、相続税の申告洩れだと考えていた。そして、家族名義の定額貯金は父親からの贈与によって、家族名義に名義変更されたのだと考えた。

 

「父親名義の預金は仕方ないんだろうな。家族名義の預金はどうしたんだろう。そうか、やはり生前に贈与されたんだろう」と考えた多田税理士は、小石川夫婦に話しかけた。

 

「昭夫さん、彩子さん。相続の時に除斥期間の話しをしましたよね。それで、贈与税の除斥期間を過ぎているから安心して私に話さなかったんじゃないですか。」

 多田税理士は、小石川夫婦の顔をジット見た。

 

 やはり、小石川夫妻は怪訝な顔をしている。

 

「いやー父がこんなに貯金をしてたなんて。そんなはずはないと思うんですが・・・。そのお金はどこにあるんでしょうかねー」と昭夫は言った。

 

 多田税理士は、本当に考え込んでしまった小石川夫婦の顔を見て、ウソを言っているようには見えなかったので、益々不思議に思っていたのだった。

 

「払わなければいけないんだったら払いますよ。ただ、私達もそんなお金はどこにあるのか知りませんし、よく調べてみますので」と昭夫は税務署員に言った。

 

「そうですか、では、よく調べてからご連絡して下さい。」と山口上席調査官達は言い残し、帰っていった。

 驚いているのは、多田税理士であった。目の前には、平成12年に解約された郵便局の定額貯金のメモがある。預入日が同じ日付のものが複数あるのだった。

 

 除斥期間とは、税務署が課税して税金を徴収することができる期間のことである。つまり、贈与税の場合、申告期限から5年(平成15年の改正で6年となりました)の除斥期間を経過すると、もはや、贈与税の申告をすることはできないし、税金を払うことが出来なくなってしまうのだ。

 

 除斥期間とは、時効と違い、期間が経過したら、その利益は享受しなければならないのだ。国税通則法の規定である。

 

 郵便局の定額貯金は、いずれも平成2年に預けられ、平成12年に解約されていたのだった。つまり、平成2年に贈与をしてもらっていたら、平成8年3月15日で除斥期間が経過したことになるのだ。

 

 多田税理士は、この時点では、家族名義の定額貯金は、平成2年当時贈与されたものだろうと考えていた。そして、父親の明名義の預金2,000万円は修正申告をすることになるだろうと、一人考えていた。

 

 しかし、事実は違ったのだった!

 

小石川夫妻は、「もらったんでしょうけど・・・。ただ、はっきりしないですねぇーーー。そんなお金はありませんからねぇーーー」とまったくハッキリしないのであった。

 

「もらったんならもらったで良いんですよ。家族名義の預金は除斥期間がきてるんだし。ただ、お父さん名義の預金はねえ。どうしたんでしょうね」と、考え込んでいる小石川夫妻の顔を見る多田税理士であったが、二人はやはり真剣に悩んでおり、内容が分かり次第連絡をもらうことで、その日は小石川宅を後にしたのだった。

 

 数日後、尾戸巣税務署の山上調査官から、問い合わせの電話が多田税理士に入り、「小石川夫妻はもらったと言ってるよ」と税務署員に伝えたのだった。

 

 すると、税務署員は、多田税理士に面会を要請してきたのだった。そして、この面会で山口調査官はとんでもない発言をするのであった。
つづく。


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