タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』29

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士と沖山税理士は、小石川宅に出向いて翌日の税務調査の打合せを行なった。翌日の朝、九州にはめずらしく大雪の天気模様となってしまった。)

 

「うわ〜、大雪情報か。どうしよう、沖山先生との約束の時間は830分に先生の事務所の横にあるセブンイレブンの駐車場で待ち合わせをしてたけど、こりゃあ少し早目に出た方がいいけどな〜」と、多田税理士は1/29の税務調査の当日の朝、午前6時のテレビの天気予報を見ていたのだった。

 

 九州の北部地方でも、雪のために年に1〜2回程は高速道路が通行止めになったり、幹線道路が大渋滞になることはある。本日の大雪は、突然にやって来たのだった。

 

「よし、電話しよう。」と、多田税理士は沖山税理士の携帯電話にかけてみた。すぐに応答があった。

 

「はい、沖山です。」

 

「あ、先生。おはようございます。朝早くにすみません。どうもこの天気ですと大雪になりそうで、なるべく早めに出発しようと思うんですが、よろしいでしょうか。」と、恐縮気味の多田税理士であった。

 

「うん、そうね。早目に出た方がいいやろね。で、何時にでるね。うん、7時やね。いいんねそれで。」

 

「はい。では7時にセブンイレブンの駐車場でお待ちしています。」と、多田税税理士。

 

 多田税理士の住むマンションから、沖山税理士の事務所までは、平日の早朝であれば車で10分程度であろうが、今日は大雪だ。多田税理士は、早々に着替えを済ませて自分の駐車場に向った。途中、道路の様子を見ると、3cm程雪が積もっており、まだタイヤの跡もそれほどついていなかった。冷え込んでいるので、何台か車が通っても雪は解けそうにもない状況だった。

 

多田税理士の運転する車は、30分程かけて目的のセブンイレブンの駐車場に着いた。650分である。少々時間があるので、タバコを買いに店舗の中に入って店員と話しをする多田税理士であった。

 

「何時頃からこんなに降ったんでしょうね。」と、多田税理士。

 

「いや、午前2時頃からメチャクチャ大粒の雪が降ってきましたね。あっという間に一面雪化粧ですよ。さっき、車が止まりきれずに事故を起こしてましたよ。急にブレーキを踏んだんでしょうね。クルクルって回ってガシャーンんて感じで、ガードレールにぶつかってましたね。ついさっきまでそこに止まってたんですけどね。」と、店員は得意げに話す。

 

 セブンイレブンの前の道路は、雪の上を通ったタイヤの跡がついていたが、雪はまったく解けてはいなかった。タイヤで雪を踏み固めている状況だった。このまま凍ってしまうと、車はノロノロ運転になってしまって大渋滞になることが容易に予想された。

 

「このまま冷え込むと道路が凍ってしまって大渋滞になってしまうなぁ〜。」と、しかめっ面の多田税理士。

 

 7時になると、沖山税理士が駐車場に向って歩いてくるのが見えた。慎重な足取りである。

 

「いや〜。スゴイ雪になったもんだね〜。ここまで来るのにどうだったね。大丈夫だったね。」と、沖山税理士は多田税理士の車に近づきながら話しかける。

 

「先生。こんな寒い日に朝早くすみません。ささ、寒いですから車に乗って下さい。」

 

 沖山税理士は助手席に座り、多田税理士は運転席に座った。エンジンがかかり車はゆっくり動き出す。

 

「先生、高速道路が通行止めかも知れませんが、方角が同じなので、取りあえず大宰府インターを目指しますね。」と、多田税理士。

 

「うん、そうね。」と、うなずく沖山税理士であった。

 

そろそろと多田税理士の運転する車は、スピードは遅いもののまだ走行している車も少ないので比較的スムーズに進行できていたが、そんな状態もそう長くは続かなかった。福岡空港に近づくにつれ、車の渋滞が激しくなってきたのだった。

 

「なかなか先に進みませんね〜。もう8時ですか〜。こりゃあ間に合わないかもしれませんね〜。税務調査は10時からですが、まだなんとも言えませんね〜。ハァ〜。」と、溜め息まじりの多田税理士。

 

「そうやね。なんともならんね〜。」と、辺りを見回す沖山税理士。

 

 大宰府インタチェンジ付近まで車は進むことができたが、やはり、高速道路は通行止めであった。

 

「はぁ〜。やっぱり通行止めでしたかぁ。高速は諦めてこの幹線道路を行くしかないですね。道路の雪はぜんぜん解けていないですね〜。こりゃあタイヤチェーンなしだとかなり怖いですね〜。」と、ブレーキを慎重に踏む多田税理士であった。

 

 時刻は刻々と過ぎ9時を回っていた。

 

「あっ、そう言えば税務署員もこんな日はまともに出勤はできないでしょうねえ。一応、尾戸巣税務署に電話して遅れることを連絡しておきますね。」と、手帳を取りだし尾戸巣税務署の電話番号を調べる多田税理士。

 

「あああった。よしかけてみるか。」と、携帯電話を取り出してダイヤルのボタンを押す多田税理士。

 

「あ〜、もしもし。税理士の多田といいますが、個人課税二部門をお願いしたいんですが。」

 

「はい、少々お待ち下さい。」

 

「はい、二部門です。」

 

「税理士の多田と言いますが・・」

 

「ああ、多田先生ですか。統括官の野中です。」

 

「ああ、あのー今車の中なんですが、この大雪で全く身動きが取れなくて、10時の調査には間に合わないので一応連絡しているんですが・・。職員さんもまだ来られていないんじゃないですか・・・。」と、多田税理士。

 

「いえ、もう職員は出ていますよ。はい。小石川さん宅に向っています。」と、野中統括官が応えた。

 

「え〜、もう出ているんですか。いや〜そうですか。でも、こちらはどうしても間に合いませんよ。」と多田税理士。自分達が到着する前に、税務署員だけ先に小石川宅に到着してしまっては困ることになると考えた多田税理士であった。

 

「あ〜、それでは調査は午後1時からということでどうでしょうねえ。午後までには車も移動できていると思いますし、どうしても1時に間に合いそうもない時は早目に連絡を入れますんでね。それに、今時は職員の方も携帯電話を持っているでしょうから、そちらから連絡してもらえませんかねえ。」と、多田税理士。

 

「はい。分かりました。職員にはこちらから連絡しておきますので、念の為に、先生の携帯電話の番号を教えてもらえますか。」と、野中統括官。

 

 一瞬「嫌だな〜」と感じた多田税理士であったが、緊急事態なので仕方なく自分の携帯電話の番号を野中統括官に伝えて電話をきった。

 

 ノロノロ進んでは止まり進んでは止まりで、なかなか車は先に進まない。果たして、小石川宅に税務署員より先に着けるだろうかと、不安な気持ちを抑えきれない多田税理士達であった。


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