タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』28

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、沖山税理士と一緒に小石川夫婦と税務調査の打ち合わせをしていたが、小石川昭夫は相続税の申告洩れの財産があると言い出した。)

 

「実は、私達も気付いていなかったんですが、郵便局に振替入金用の口座があるんです。遠方からの個人のお客さんから注文があった時に、郵便振替で支払ってもらう口座があったんですね。父の時代からあったんですが、通帳もないし、残高も引き出さないでいたものですし、最近まで遠方のお客さんに商品を送ることもなかったんで、申告の時も忘れていたんです。すみません。悪気はなくって本当に忘れていたんです。」

 

「で、いくらぐらいの金額になっているんですか。」と、多田税理士が聞く。

 

「はい、確か50万円くらいだったと思います。なあ、おい。」昭夫は、彩子の同意を求めた。

 

「はい、確か50万円位だったと思います。」と、彩子。

 

「50万円くらいですか〜。ふーん。確か、郵便局の預金の残高証明書もとってもらいましたよね〜。それに書いてなかったのかな〜。」と、多田税理士は資料をめくった。

 

「あ〜、郵便局の預金の残高証明書はありますけど、振替口座のことはなにも書いてありませんね〜。」

 

 多田税理士は、資料のバインダーを開いて沖山税理士に見せた。

 

「郷土を離れた方が懐かしがって注文されてくるんですね。」と、沖山税理士はサラリと言う。

 

「そうなんです。めったに引き出さないものですから、私も頭に全然なかったんです。すみません。で、どうしたらいいでしょうか。多田先生。」と、昭夫。

 

「うーん、そうですね。申告洩れは洩れだから、修正申告することになるでしょうね。ねえ、沖山先生。」

 

「うん、そうね。修正申告はできる規定だからね。ま、今のところ修正申告に加えると言うことで解釈しておきましょうか。まだ、大きい問題が残ってますからね。」と、沖山税理士は郵便局の家族名義の定額貯金の問題に比べれば大したことはないと考えたようだ。

 

「分かりました。では、小石川さん。その郵便振替口座の残高証明書をとっておいて下さい。いいですか。」

 

「はい、分かりました。やはり、父が亡くなった日現在の残高証明書ですよね。」と、昭夫。

 

「はいそうです。お父さんの亡くなった日現在での残高ということになります。でも、通常貯金の残高証明書はあるのに、なんで振替口座の残高が書いてないんでしょうね。」と、首をかしげる多田税理士。

 

「さあ・・」と、昭夫も首をかしげた。

 

「では、小石川さん。今回の振替口座以外には、申告洩れの財産はないですね。いいですね。」と、念を押して尋ねる多田税理士であった。

 

「はい、ありません。」と、キッパリ話す昭夫。

 

『おいおい大丈夫か。今度は本当なんだろうな。もう、出てこないだろうな〜。』と、心の中ではまだ心配な様子の多田税理士であった。

 

「分かりました。小石川さんも税務署員から聞かれて回答する内容の確認もできましたし、今日のところはこれで失礼しましょうか。」と話し、多田税理士は、沖山税理士の顔を見る。

 

「うん、そうだね。そろそろ引き上げましょうかね。明日は雪が降るらしいから、今日はこの辺で失礼しましょうか。」と、沖山税理士。

 

 九州でも冬場に2〜3度ドカ雪が降ることがある。それでも、1日中車が通れない程雪が残ることはない。午後になれば、主要な幹線道路は車が通れるようになることが多い。

 

「おお〜寒い!かなり冷え込んできましたね。」と、小石川宅の玄関の扉を開け、振り帰りながら、見送りにでようとしている小石川夫妻に話す多田税理士。

 

「あ〜、外は寒いですから中にいて下さい。では、また明日ということで失礼します。」と、多田税理士は頭を下げながら玄関の扉を閉めた。

 

 小石川宅の敷地内に止めていた車に乗り込む多田税理士は、寒さにガタガタ震えていた。沖山税理士は、平然と落ちついた様子で、車の助手席に座っていた。

 

「先生、遅くまですみませんでした。これからお送りしますので。もう少ししたら暖かくなりますので、もう少々ご辛抱下さい。」と、多田税理士。

 

「多田さん。あんた相当の寒がりやね。私は、そんなに寒くはないよ。」と、ニッコリ笑いながら話す沖山税理士であった。

 

「あ〜、先生は寒さに強いんですね〜。スゴイですね。私はなんとも寒いのは苦手でして。あっ、それはそうと今日はありがとうございました。昭夫さんも何とか返答できそうですし。少しは安心して調査に臨むことができます。ああ、それと郵便振替口座なんぞが出てきまして、すみませんでした。」と、多田税理士。

 

「うっかりしてたんやろね。問題は、家族全員の名義の定額貯金の方やね。でも、主張すべきことがハッキリしているし、吉野ヶ里銀行は父親が管理して、郵便局は母親が管理していたんだから、一貫性はあることになるよね。」と、調査のこととなると真剣な表情になる沖山税理士であった。

 

「でも先生。小石川さんのお母さんが管理していたとか、その預金を形成していった経緯なんて証明する資料なんて残ってないでしょうね。郵便局の記録もどうなっているんでしょうね。」と、不安げな表情の多田税理士。

 

「あの定額貯金は平成2年当時に預け入れられたものでしょう。その時の元金はそれ以前から作られたものだろうし、郵便局も10年以上の記録なんかは残っていないのが現状だよ。」と沖山税理士。

 

「それに、当方は父親名義と母親名義の定額貯金は母親のもので、息子と嫁名義の定額貯金はそれぞれのものだと主張する訳だし、吉野ヶ里銀行の定期預金は家族名義のもの全部相続財産に入れて申告してる訳だから、小石川さんの主張にもひとつの一貫性があることになるね。これはこれでいけると思うよ。」

 

 沖山税理士の説明にホットした多田税理士。

 

「じゃあ。税務署が小石川さんの主張を認める可能性もある訳なんですね。あっ、そうか。もし小石川さんの主張を認めないなら、認められない理由は税務署が立証しなければならない訳ですね。でも、その預金の形成なんかは相当以前の話だし、郵便局にもそんな古い資料など残っていないだろうし。こちらの民間金融機関と郵便局との使い分けの一貫性を崩す材料はなかなか見つけられないことになるんですね。」と、自分で話しながらうなずく多田税理士。

 

「まあ、そういうことだね。ハッキリとこうだとは言えないが、小石川さんの主張も有り得る話しだからね。まあ、この線で頑張ってみましょうよ。」と沖山税理士。

 

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。ところで、先生。明日なんですが、このままの天気ですと8時半にお迎えに来て十分間に合うと思いますし、もし雪が積もっていたらもうすこし早めに出ようと思いますので、その時は携帯電話に連絡していいでしょうか。」と、多田税理士。

 

「はいはい、それでいきましょう。」と、沖山税理士。

 

 H151/29調査当日は、大雪が降ってしまった。

 


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