タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』27

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、沖山税理士を連れて小石川宅に向った。そして、多田税理士は、沖山税理士が小石川夫妻と打合せをする模様をそばで見ていて驚いてしまったのだ。)

 

 小石川宅を訪問した多田税理士達は、さっそく一番奥の応接間に通された。応接間に入った途端、部屋の温かさが伝わってきて多田税理士は驚いた。

 

「あ〜、私が寒いのは苦手だと言ったのを憶えていてくれたんですか。あ〜暖かいですね〜。」と、ホットした表情になる多田税理士。

 

「え〜、まあ。私達も少しは気を遣わないといけないねって、女房と話してたんですよ。」と、昭夫は彩子の顔をチラッとみて多田税理士に微笑んだ。

 

「あ〜、では紹介します。こちらが、私の先生の沖山先生です。」

 

「沖山です。よろしくお願いします。」と、正座して深々を頭を下げる沖山税理士。

 

「私の先生です。と紹介されて、後ろにそっくり返る人もいるであろうに、なんとそこまで深々と頭を下げなくてもいいのに・・・。軽く会釈するくらいでいいのに・・。」沖山税理士の挨拶の姿を見て、心中恐縮しまくりの多田税理士であった。

 

「いえ。こちらこそよろしくお願いします。」と、終始笑顔の昭夫であった。彩子も一緒に微笑んでいる。

 

「え〜。大体の状況は多田さんから聞いています。調査は明日ですから、いろいろと確認しておきたいこともありますので、これから質問させてもらっていいですか。つまりですね、私が税務署員になったつもりでいろいろ質問しますのでね、それに答えると言う事で状況を確認して行きましょうね。」と、やさしく小石川夫妻に語りかける沖山税理士であった。

 

 多田税理士は、沖山税理士の税務調査に対する事前の準備に驚いた。多田税理士は、クライアントと事前に税務調査の想定問答をするなどとは、今までまったく思いつかなかったことだったのだ。

 

 多田税理士は、「これは使える」と直感した。つまり、納税者は、税務署員の質問に何をどう答えれば良いのか分からないし、質問の真意を分からないで、トンチンカンな回答をすることも考えられるので、事前に質問されることに慣れておくことは納税者の心理的な不安を軽減できるし、問題点の整理や自分達の主張内容を明確にできることがメリットだと感じたのだ。

 

 沖山税理士は、いきなり質問するのではなく、小石川夫妻の両親が家業をどのように営んでいたのか、資金の管理は誰がしていたのか、亡くなった昭夫の父親に趣味はなかったのか、昭夫自身の給料はどのようにしてもらっていたのか等々、多田税理士から聞いていた情報を確かめることも含めて様々なことを小石川夫妻に尋ねていた。

 

「う〜ん。そうすると、今回の相続の問題は、やはり、郵便局の定額貯金のことになる訳やねぇ〜。じゃあ小石川さん、私が質問しますから答えてみて下さい。」

 

「あ、はい。分かりました。なんかドキドキしますね。」と、昭夫。

 

「ははは・・・。そんなに緊張しなくてもいいですよ。一応、税務署が聞くであろうことを質問しますから、確認の意味も込めて気軽に答えてください。」と、微笑む沖山税理士。

 

「では、郵便局の定額貯金について多田先生に話していなかったそうですが、それは何故ですか。」

 

「はい、郵便局の定額貯金は私達のもので、管理も私達がしていましたので父親の相続とは関係ないものですから多田先生には話しませんでした。」

 

「では、お父さんとお母さん名義の定額貯金はなぜ話さなかったんですか。」

 

「はい、それは。以前母親が骨折で入院する時に管理をまかせてくれたんです。そして、その時の母の説明では、母親が自分で貯めたものだと説明していたことを思い出したんです。定額貯金は解約していましたし、もう私達にとっては済んだことですから、すっかり忘れていたんです。ですので、母親の財産は父親の相続とは関係ないと思って、敢えて、多田先生にお知らせする必要もないと思ったんです。」

 

「はい。よくできました。ちゃんと説明できましたね。」と、微笑みながら話す沖山税理士。

 

「あ〜、そうですか。よかった。ドキドキしますね〜なんか。おい、彩子。ちゃんと話したぞ。」と、得意満面の表情になる昭夫であった。

 

 彩子は、困惑した表情になった。

 

「はしゃがないで!」とでも言いたそうな顔つきの彩子であった。

 

「では、吉野ヶ里銀行の定期預金もご家族全員の名義でしたが、こちらはどうして相続財産に加えたんですか。」と、沖山税理士の質問は続く。

 

「あっ、はい・・・。えーっと。どう言えばいいんだっけ。おい。」と、昭夫は彩子の顔を見つめた。すっかり考え込んでしまった昭夫であった。

 

「あら、だからぁ〜。お父さんが私達の名義を使って貯めていたんでしょう。多田先生からも聞かれたじゃない。私達も吉野ヶ里銀行の定期預金なんか知らなかったんだから。」と、助け舟を出す彩子。

 

「あっそうそう。です、です。そうです。だから、名義は私達のものもありましたけど、吉野ヶ里銀行の定期預金は父親の財産なので相続財産に入れました。ふ〜う・・。疲れるなあ〜。」と昭夫。

 

「何言ってるんですか。疲れるのはこっちの方ですよ。しっかり、返事して下さいよ〜。あなたの相続なんですからね。」と、しかめっ面で話す彩子であった。

 

「まあ、まあ。あくまで練習ですから。奥さん。当日チャンと説明できればいいですから。納税者自身の口から説明する方が税務署員も納得しますからね。本当の事を話せばいいんですから、気楽に考えてもらって結構ですよ。」と、多田税理士は彰子に話す。

 

「まあ、ご本人が少しは話してもらわないといけませんが、うまく言えない時は、私達が説明しますから。大丈夫ですよ。」と、沖山税理士も彩子をなだめるのであった。

 

「では、最後にお聞きしますがご主人。お父さんの相続財産について私達に話しておくことはもうないですね。よろしいですね。何かあると今の内に話してもらわないといけませんが・・。」と沖山税理士。

 

「何を今更、聞かれるんだろう」と目をパチクリさせて沖山税理士の顔を見る多田税理士であった。沖山税理士の表情は真剣なものだった。

 

しばらく考えこんだ昭夫だったが、思いきった表情で話し出すのであった。

 

「いや〜。聞いて頂いて良かったです。実は、あるんです。まだ郵便局に・・・。」と、申し訳なさそうな表情で話す昭夫。彩子もうつむいたまま視線を下に落としたまま黙っていた。

 

「え〜。なんかあんのかよ〜。なんだよ〜。また、俺に言ってない財産があるのかよ〜。」と、心の中で叫んでしまった多田税理士であった。

 

 沖山税理士は、冷静であった。表情を変えることもなく昭夫の返事を静かに待っていた。

 

 いったい、どんな財産が隠されていたのであろうか。

次回に続く。


26章に戻る
28章へ