タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』26

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、税務調査の再開に備えるべく、小石川夫婦に確認しなければならないことを思い出し、小石川宅を訪問して打ち合わせをしていた。すると、沖山税理士からの電話がかかってきたのだった。)

 

「あー、沖山ですが、今電話大丈夫ね。」

 

「もしもし、沖山先生ですか。はい、大丈夫です。今丁度、小石川さんのお宅にお邪魔しているんです。今打ち合わせの最中なんですよ。」と、多田税理士は、いつもの元気な沖山税理士の声に大きな安心感を感じていたのだった。

 

「あ〜そうね。実はね、今度の税務調査の打ち合わせをした方がいいと思うんよ。直接納税者の方からも事情を聞いておきたいしね。で、調査はいつやったかね。」

と、沖山税理士。

 

「お気を遣って頂いてありがとうございます。調査は、129日の水曜日です。来週の水曜日です。」

 

「そうね、じゃあ調査の前日の午後からでも小石川さんのお宅に行こうかね。その時に、今回の問題点や詳しい状況を確認しておきたいからね。JRの駅はどこね。駅からタクシーで行くつもりだから、駅についたら小石川さんに電話すればいいね。」と、沖山税理士は、自分から動くつもりでいるらしい。しかも、自費で移動しようというのだ。

 

 これには、多田税理士は驚いた。自分が税務調査の応援を頼んだのに、沖山税理士は自費で小石川宅に来ることを当然のように言っているのだ。

 

「あ〜、先生そんな。私が事務所まで迎えに行きますから。そんな、駅から電話だなんて・・・。先生じゃあ、28日火曜日の午後1時に先生の事務所に行きますので、よろしくお願いします。」と、多田税理士は恐縮しまくっていたのだった。

 

「あっそうね。じゃあそうしましょうかね。」と、あっさりした返事の沖山税理士であった。

 

「いや〜。先生は自分からこちらに来るつもりでいたんですよ。びっくりしましたよ。」と、多田税理士は携帯電話をカバンに戻しながら小石川夫妻に話しかけた。

 

「へー、そうなんですか。」と、小石川昭夫は状況をつかめないでいるようだ。ポカーンとした表情だ。

 

「そうなんですよ。実は、先生が調査の前にこちらの状況を詳しく知りたいから、先生自らこちらを訪問したいから、っていう内容の電話だったんです。あ〜、びっくりした。こっちから迎えに行きますからって応えましたんで、28日火曜日の午後3時頃こちらにお伺いしてもよろしいですか。」と、多田税理士。

 

「え〜、もちろんですとも。こちらは構いませんよ。なんか、多田先生の先生が一緒に立会ってくださるなんて、なんかこう頼もしいですね。ありがとうございます。」と、ニッコリ顔の昭夫であった。

 

「ええ〜、僕の先生ですから。そりゃあもうスゴイですよ。税法の条文が生きて歩いているような人ですから。それと真が通って太くて強いんです。」

 

「あんな税理士は、日本中捜してもそうはいませんよ。ただ税法や判例なんかに詳しい偉い税理士さんは多いですけど、沖山先生みたいに実務的なことに強い税理士ってホントにいないんです。私も目からウロコが何枚落ちたか知れませんよ。まだまだ、ウロコはいっぱいありますけどね・・。」と、多田税理士は沖山税理士の希少価値を分かってほしくて熱く語ったのだった。

 

「へー、そんなスゴイ先生が来てくれたら私達も勇気百倍ですよ〜。あ〜ホットするなー。」と、昭夫は満面の笑顔になった。

 

「いや、でも事実を替えることはできませんからね。あくまで、納税者としての当然の権利を主張する訳ですから。黒を白にできる訳ではありませんからね。」と、子供のように喜ぶ昭夫に対し、過大な期待を持たないように釘をさしておきたかったのだ。

 

 今回、小石川宅を訪問して、郵便局の定額貯金について一応の説明がついたのだったが、やはり、何が出てくるのか分からないのが税務調査である。多田税理士は、郵便局の家族全員分の名義の定額貯金は母親が形成したのであり、一方、吉野ヶ里銀行の家族全員名義の定期預金は父親が形成したものであるということについて、その可能性と整合性に一応の納得をしていたのだが、沖山税理士の見解を聞きたかったのだ。

 

 郵便局の定額貯金の預け入れは、平成2年であったのだ。今でこそ超低金利だが、以前は6%とか7%とかの金利が常識だったので、平成2年に預け入れられた貯金についても、それ以前の預け入れで年利7%であれば10年で倍に増えていても何の不思議もないのだから、母親の貯金の形成については有り得る話しだが、そんな以前の貯金の動きなど分かる資料はなく、昭夫の証言だけではなんとも頼りないのだ。

 

 税務調査の経験の少ない多田税理士にとって、今回の小石川昭夫の証言は、一応納得の行くものではあるが、沖山税理士に尋ねてみないと安心できない多田税理士であった。

 

 128日火曜日の午後1時になった。多田税理士は、沖山税理士の事務所を尋ねた。福岡市の中心の中央区薬院にあるマンションの2階が沖山税理士の事務所である。多田税理士は、沖山税理士の事務所を訪問するのは初めてなので少々緊張気味である。

 

 ドアをノックして中に入る多田税理士。明るい笑顔の若い女性事務員が微笑んでくれホット落ちついた多田税理士であった。そして、沖山税理士がもう身支度をして待っていたのだった。

 

 さっそく二人は車に乗りこみ、小石川宅に向かうのであった。車中では、今回の所得税と相続税の問題点について話し合われていた。多田税理士は、前回小石川宅を訪問し、郵便局の定額貯金の形成について概略を沖山税理士に話したのだった。

 

「あ〜、そうね。お母さんも働いていたんやね。ほー30年以上もお父さんの事業を手伝ってた訳だね。う〜ん。それだったら、郵便局にそれくらい貯金があっても財政的には問題ないよね。それで、その定額貯金の管理を任せてもらっていたんで、もらったと言ってた訳なんだね。そう言えば、亡くなった父親も民間の金融機関に家族名義の定期預金があったんだよね。それは、全部申告財産に入れたんね。」と、沖山税理士。

 

「はい。吉野ヶ里銀行の定期預金ですけど、本人達は知らないと言いますし、父親が管理していたそうなので、こっちの方は全額申告財産に入れました。それはそれでいいんですよね。」と、多田税理士。

 

「うん、それはそれでいいんよ。じゃあ、あんたに郵便局の定額貯金のことを言わんかった理由とその財産形成については説明がつくことになるんだね。」

 

「はい。ただ確たる証拠と言えるものはないんですよ。小石川昭夫さんの証言だけなんですね。」

 

「いや。それはそれでいいんじゃないかな。だって、郵便局の定額貯金について主張・説明した訳だから、その主張・説明が間違っていたという資料や証拠がないことには税務署は否認できないでしょう。証拠もなしに課税処分できますか。それに、何年も何十年も前に作られた貯金でしょう。具体的な資料なんかないのが普通でしょう。」と、沖山税理士の見解に安心する多田税理士であった。

 

また、小石川夫婦名義の定額貯金は、一部自分達のもので一部は結婚式の祝儀から形成されたものであり、自分達で管理していたことも沖山税理士に説明されたのであった。

 

 そうこう車中で話し合っている内に、小石川宅に多田税理士の運転する車は到着したのだった。そして、打ち合わせが始まったのだが、多田税理士は驚いてしまったのだ。それは、何故か・・

次回に続く。


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