タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』25

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、沖山税理士にも税務調査に同席してもらうことにした。税務調査の日程も決まったが肝心なことを忘れてしまっていた。)

 

 多田税理士は、ホームページの書き込みに集中していたので、今回の相続税の税務調査の重要な部分の情報を手に入れていなかったのだ。

 

 つまり、家族全員の名義を使った郵便局の定額貯金の事である。小石川昭夫からは、「もらった」としか聞いていなかったのだ。しかも、この定額貯金については、多田税理士は何も聞かされておらず、相続税の税務調査の初日に資料を提示され、驚いてメモをしていたのだが、いったいどのようにして形成された預金なのか、そして、本来は誰のものなのかハッキリと小石川昭夫から聞いていなかったのだ。

 

「おお〜、いかんいかん。沖山先生にも調査に参加してもらうのに郵便局の定額貯金のことは詳しく聞いていなかったなぁ〜。よし小石川さんに電話して会いにいかんとね。」

 

 多田税理士は小石川宅に電話した。125日の土曜日に小石川宅を訪問することになった。

 

「小石川さん、郵便局の定額貯金のことなんですけど、今までハッキリ状況をお伺いしていなかったものですから、今日はそこのところをお尋ねしたいのですが。」

 

「はい、私達夫婦も今までずーと思い出そうと思って話し合ってきたんですけど、大分状況が分かってきたんです。」と、小石川昭夫は言う。

 

「ほー。それは良かった。私は『もらったんでしょうけど・・・』としか聞いていなかったので、実のところはどうなんだろうかと思っていたんです。」

 

「はい、私と妻の彩子名義の定額貯金についてなんですが、これは母が私達の為に預金してくれていたものなんです。一部結婚式のお祝い金も一緒にして定額貯金にしたものだと思います。実は、平成2年頃母が骨折で入院しなければならなくなった時に、母親から定額貯金の証書をもらったんです。」と、昭夫。

 

「ほー。そうしますと。『もらった』と言われたのは、お二人の名義の定額貯金だったのですね。はぁ〜そうですか。」と、郵便局の定額貯金のメモに目を落とす多田税理士であった。

 

 そのメモには、父親の明名義のもの3口で約2,000万円、母親の美代子名義のもの3口で約2,000万円、息子の昭夫名義のもの2口で約2,000万円、そして息子の嫁の彩子名義のもの1口で1,000万円となっていた。全て平成2年の預入だ。

 

 これらの定額貯金は、すべて相続発生後に解約されており、父親と母親名義のものは母親名義の預金として銀行や農協など4ヶ所の金融機関に分散して預金されていたのだった。息子と息子の嫁名義のものは、各人の名義にて民間金融機関の預金となっていた。

 

「お二人のご結婚はいつ頃なんですか?」

 

「確か、平成元年でした。」と、昭夫。

 

「そうすれば、結婚式の費用はご両親が負担されて祝い金はお二方にくれた訳ですね。う〜ん、そんなこともあるでしょうね。でも、昭夫さん名義の定額貯金は2,000万円ですから少し多くないですか。」と、多田税理士は率直な疑問をぶつける。

 

「え〜。家内より多いのは、私の給料の分を母親に管理してもらっていた分が入っていると思います。私も、高校を出てからすぐに家業を手伝いましたし、給料を全額もらうことはしなくて、母親に管理してもらってましたから。」と昭夫。

 

「ほー。10年以上はここで働かれているんだから、1,000万円位たまっててもおかしくはないですよね。うん、なるほど。分かりました。」

 

「お二人名義の定額貯金については分かりました。おっしゃられた理由でよいと思いますし、仮に、贈与してもらっていたとしても贈与税の除籍期間(課税処分ができる期限)の5年【H161/1以後の贈与は6年と改正】を過ぎていますから問題ありませんね。」と多田税理士。

 

「あ〜そうなんですか。よかったです。それに、定額貯金の証書の管理も自分達でしていましたからね。」と、彩子がニッコリ笑いながら多田税理士に話す。

 

「じゃあ、お金の管理は、全部お母さんがされていたんですか。その入院されるまでの話しですけど。」と、多田税理士は定額貯金の解明に神経を配っていた。

 

「はい、母親は今の事業の創業の時から父親と二人三脚で一緒に働いていましたから。入院するまでは、母親が郵便局に行ったり手続きしたりしていましたよ。そりゃあもう近所でも評判の働きもんでしたよ。うちの母親は。」と、自慢げに話す昭夫であった。

 

「あっ、それにですね。父親名義の定額貯金ですけどね。母親が証書を私達に預ける時に話したことを思い出したんです。これは、私が貯めてきた貯金だ。自分名義と父親名義と半々にして預けてたんだと。それは、父親の事業に万一の時があったら、その時に気兼ねなく使ってもらおうと思って父親名義にしてたと言うんですね。夫婦ってそんなもんなのかな〜って思ったことを憶えていますよ。」と、昭夫は彩子と時々顔を見合わせながら、彩子に話しの内容を確認しながら多田に話すのであった。

 

「ほー。なるほど。家族だからそんなことで名義を使うこともあるでしょうねえ。でも、解約時点での金額ですけど、お母さんはどうやって約4,000万円もの貯金を貯めることができたんでしょうかねえ〜。」と、金額の多さにまだ納得しない多田税理士であった。

 

「さあ〜、いつどうやって作ったのかは私も分かりませんが、30年以上は父親の事業を手伝っていましたから、それくらいは貯めれるんじゃないですか。なあ、おい。」と彩子の同意を求める昭夫だった。

 

 彩子は、首をかしげながら「多分そうだ」と言いたい表情であった。

 

「お母さんは、最近は専従者給与をもらわれていないようですが、以前はどうだったか分かりますか。」と、貯金形成の合理的な理由を探す多田税理士。

 

「いや〜。それは、分からないですね。でも、母親は着物を買うのが好きだったようで、自分のお金で買ってたと思いますよ。父親に買ってもらったとは言っていませんでしたからねぇ〜。」と、腕組をして天井を見ながら話す昭夫であった。

 

 多田税理士は、何か思い出したようだ。

 

 カバンから、小石川明の相続税の申告書を取り出し、財産の明細を確かめた。多田税理士も腕組だ。

 

「昭夫さん。この申告財産の中にも家族4人の名義の預金がありますよね。吉野ヶ里銀行の定期預金で約6,000万円程ありますよね。全部同じ預入日のものですよ。平成7年の同じ日に預入したものですけど、これは自分達も覚えがないので、お父さんが家族の名義を使っていたんだろうということで、全部を申告財産に加えたじゃないですか。」と、多田税理士。

 

「そうですね。吉野ヶ里銀行の定期は、私達は知りませんでしたから。」と昭夫。

 

「すると〜。お話をうかがっていて思ったんですが、お父さんは自分の預金を吉野ヶ里銀行に家族全員の名義を使って預けていた。そして、お母さんは自分のお金を郵便局に家族全員の名義で預けていた。そうすると、話しに一貫性が出てきますよね。」と、多田税理士。

 

「あっ、そうそう。そうなんです。イヤー私が言おうと思ってたことをバッチリ言われるんでびっくりしましたよ。正にそうなんですよ。」と、満面の笑顔になった昭夫であった。

 

 小石川昭夫と話す多田税理士の携帯電話が振動した。

沖山税理士からだ。次回に続く。


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