タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』第1章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

(今回は、税務調査の実話を詳しく再現しています。)

 多田税理士は、新幹線の中にいた。京都で開催される「右脳開発セミナー」に参加するためだ。多田税理士は、もっと能力アップしたいと考えていたのだ。

 もうすぐ京都駅に着くと思っていたら、携帯電話が鳴った。事務所からだった。

 携帯電話のメールも入っていたのだが、多田は気づいていなかったので、事務員が携帯電話にかけてきたのだ。緊急の要件に違いない。

 多田税理士は、急いで新幹線のデッキに走った。

「もしもし、事務所からです。実は、小石川商店さんのご主人さんから連絡が入ったんですけど、今朝、税務署員が自宅にいきなり4人も来たそうなんですよ。それで、ご主人は、用事で出かけられたんですけど、どうしたらいいんでしょうということなんですけど。」

 多田税理士は、事務所の職員から、事前通知なしの調査があったことを告げられ驚いたのだった。

「なんで!相続税で事前通知もしないで調査に来たんだろう。もうすぐ京都だし、セミナーは抜けられないから、税務署員と直接電話することもできないなぁ。」

「分かった、京都駅に着いたら小石川さんにはこっちから電話するんで、待ってて下さい、と伝えてくれないか。」と事務員に電話する多田税理士であった。

「あーもう時間がない。直接税務署員と話せたら帰ってもらうんだけどなぁ」と一人気をもむ多田税理士は、京都駅の改札を出て、小石川の携帯電話に電話した。

「もしもし、税理士の多田ですけど。小石川さんですか。どうもお久しぶりです。で、税務署員がいきなり4人も来たんですか?」

「ええ、そうなんです。どうしたらいいんでしょうか」

小石川とは、約1年半ほど前に相続税の申告書に印鑑を押印してもらうために会ったのが最後であった。平成13年の年末に、坂県の尾戸巣税務署の個人課税第二部門の山上調査官より、税務調査の連絡が入っていたのだが、多田税理士が多忙のため、翌年の平成14年の4月に税務調査に来ることになっていたのだが、その後、山上調査官からは何の連絡もなく、平成14年の9月になっていたのだった。

「相続税の調査で、事前通知もしないで4人も来るなんて普通は考えられないんですけどね」と多田税理士。

「急に来られるもんだから、びっくりしましたよ。そう言えば所得税と相続税の調査と言ってましたね」と小石川が説明する。

「ああ、そうですか。先代から米の小売をやっていたからなんでしょうね。わかりました。でしたら、相続税の調査官に伝えて下さい。相続税の税務調査は多田税理士の立会いのもとで受けるから、今日は帰って下さいってね。所得税はウチは担当してないですから。」

 多田税理士の伝言を聞いた小石川は、その様に税務署員に伝えると言って電話を切った。

 多田税理士は、セミナー会場に走った。遅れそうだ。

 右脳開発セミナーは、その道の権威である七田真先生の直接指導なので、是非一度参加したいと多田税理士は考えていたのだが、税務調査の件が気になって集中して講義を聞くことができなかったのだ。

 セミナーの休憩時間に、気になって小石川に電話して様子を聞くと・・。

「それがですね。相続税の担当の方に多田先生がおっしゃるように伝えたんですが、車1台で来たので帰れない、ということで、まだいるんです。調査は、多田税理士の立会いのもとで行う予定だそうです。」

「そうですか、一台で来ましたか。じゃあ、相続税については何も話さないで下さいね。それじゃあ。」

多田税理士は、憤慨していた。「4月に来ると言っておきながら何の連絡もせずにすっぽかしておいて、今度はいきなり調査に来るなんて、俺の委任状は無視かよ。クソーバカにしやがって。」

 右脳セミナーでは、心を落ちつかせて、ゆったりした気持ちで「イメージ」することを重要視するのだが、多田税理士の心はイライラしており、セミナーが終了するまで落ちつきがなかったのだった。

 セミナーから帰った多田税理士は、尾戸巣税務署の個人課税二部門の山上調査官と税務調査の日程を調整し、10月2日に小石川宅にて臨宅調査に立ち会うことになった。

 さて、小石川宅での調査立会いのため、座敷に通された多田税理士は、相続税の調査で事前通知なしで訪問したことに抗議するつもりであった。

 午前9時20分ごろ、小石川宅のチャイムがなった。尾戸巣税務署の調査官である。彼らは、かならずと言って良い程、約束の時間の10分から20分前にやってくるのだ。税理士抜きで話したいことがあるのかもしれない。

 多田税理士は、30分前の午前9時に小石川宅に到着していた。

尾戸巣税務署個人課税二部門の上席調査官の山口と調査官の山上が座敷にやって来た。

「黙ってきたね。」と多田税理士。

「はい、今回は総合調査なんで所得税と一緒に訪問させて頂きました。ご主人から、相続税の調査は多田先生の立会いまでお待ちするように言われましたので、今回が始めての調査です。」と山口上席が答えた。

「総合調査だろうがなんだろうが、それはあんた達の勝手だろう。納税者は、税理士が立ち会ってくれると思っているんだよ。だから、委任状出しているじゃないか。それを、黙って来るなんて、納税者と税理士の信頼関係を壊してから調査するつもりですか。それならそれで、こちらも最初から敵対的に対応するからね。いいね。」と語気が荒い多田税理士。

「いやーそんな信頼関係を壊すつもりはありませんよ。ただ、何回もおじゃましてはご迷惑だろうと思って所得税と一緒に来たんです。二重のお手間をとらせてはいけないと配慮したんです。」

「あなた達税務署員は、普通に訪問してるつもりか知りませんが、納税者は国家権力がやって来て、申告に誤りがあればお金を持っていかれるかも知れないと不安に思っているんですよ。精神的に動揺させるのが目的ですか。」

「それに、あなたですね。去年一度税務調査に来ると連絡しておきながら、何の連絡もなしに来なかったじゃないですか。それなのに、今回は連絡なしで来るんですか。」

 山上調査官は、自分が電話していたものだから、何も言えず下を向いていた。そして、山口上席は、税理士に連絡しないで納税者宅を訪問したことを謝った。

 午前中は、そんなやりとりの後なんなく終了し、午後の調査でのこと、いきなり7,000万もの郵便局の定額貯金が出てきたのだ。

  小石川夫妻もビックリしている。

 いったいどうなっているのだろうか・・。

次回をお楽しみに。


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