第7話『こいつら取調室だな』19章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、大晦日のHPの書き込みを終え、正月は自宅で家族とゆっくり過ごしていた。)

 

 多田税理士の父はご機嫌であった。尾戸巣税務署の山上総務課長との電話のやり取りを、事細かに再現して話すのであった。

 

「あいつら公務員のくせして、納税者ばナメトッばい。俺が、納税者の知る権利をなんて思うとっとか〜、て言うたら、総務課長は、すみません、すみませんって繰り返しよったばい。」

 

「もう、とうちゃん分かったけん。同じ話しば何回もせんでよかよ。もう聞いたよ。」

 

「何を言うか。お前の従兄弟に話しばしよっとたい。なあ、孝。よう聞いとけよ。お前の従兄弟はやる時はやるとばい。孝、聞きよっか。」多田税理士の父は相当酔いが回っているようであった。

 

 多田家には、従兄弟の多田孝が年始の挨拶に来ていたのであった。多田税理士の父は、甥っ子に自分の息子の活躍を聞かせたかったのだ。

 

「いや〜。連絡をもらってさっそくHPを見せてもらったけど、よくやったよね〜。なんか、こっちも勇気をもらった感じだよ。」と、孝は、しきりに感心していたのであった。

 

 そうこうと、従兄弟の孝と話しをしていたら、多田税理士の旧友の糸山から呼び出しの電話がかかってきたのだった。多田税理士は、以前小説の登場人物に旧友の糸山の名前を使っていたし、HPの閲覧と尾戸巣税務署への抗議電話の依頼をしていたので、お礼に糸山宅を訪問することにした。

 

「おい、多田。お前の小説全部読んだぞ。税務署員の糸山がどうなるのか気になって仕方なかったばい。お前が小説ば書くとは思わんかったばい。よう書けとっじゃなかか。それに、尾戸巣税務署はヒドカね。内の若い社員にもお前のHPば見とけよって伝えとるけんな。応援しよっぼ。」と、糸山は酔いにまかせて一気に話す。

 

「いや〜。勝手に名前ば使こうてごめんね。お前やったら後で了解とればいいと思うとったけんね。それに、HPも見てくれたとね、ありがとう。」

 

 多田税理士は、旧友の応援が嬉しかったのだ。やはり、税務署員の実名報道に踏み切るという、前代未聞のことをやっており、大袈裟に言えば、国家権力に刃向かうことをしているので、不安がないと言えばウソになる。やはり、家族友人の心の支えは、大きいのであった。

 

「あ、そうそう。尾戸巣税務署に電話はしたね。どうやった。」と、多田税理士。

 

「あ〜、ワザワザ電話はせんやった。俺はサラリーマンやっけん、何かそこまでする実感が沸いてこんかったけんね。ごめんな。」と、糸山。

 

「いやいや、よかよ。うちのおやじも電話してくれたし、結構税務署も混乱しとるみたいだったけんね。まあ、色んな意味で、年が明けた今年が勝負たいね。」

 

「おう、ガンバレや。応援しよったい。福岡の俺のマンションにも遊びに来んね。ゆっくり、飲もうたいね。」

 

 多田税理士の正月休みは、よい充電期間となった。

正月も3日になると、HPの書き込みを続けねばならないと多田税理士は考えていた。もう少し、納税者の人々に知っておいてもらいたいことがあったのだ。

 

「よし、税務署の調査が違法であった場合には、更正処分が取り消しになるという名古屋の判例を知らせておかないといかんね。」と、多田税理士。

 

○平成1513

 税務署が、「あなたの申告は間違っています。当方の調査では○○万円の税金となりましたので払いなさい」と、文書で通知される行政処分のことを更正と言います。この更正という行政処分は、税務署員が調査をしていなければならないんです。税務署が調査をしないで更正しても、その更正処分は違法であり、取消しの対象になります。名古屋地裁での判決文を以下に記載します。

 

「更正処分をなすに当り、税務署長において全く調査をなすことを怠った場合当該(その)更正はその前提条件を欠き違法となり、また質問検査権の行使が、社会通念上相当と認められる限度を越えて濫用(らんよう)にわたる場合など調査手続きに重大な違法があり、かつ、その調査のみに基づいてなされた更正は、調査せずになされたものと同視すべきであって、違法として取消しうるものである。」(昭和52.4.19名古屋高裁民一判)

 

 判例とは、法律と同じなんですね。ですから、上記の判例から分かることは、税務署は更正処分をする時は、調査をしなければなりません。税務署が来ただけ

では調査をしたことになりません。そして、調査(税務署員が質問したり、銀行などの納税者の財産を検査すること)による言動や行動が、一般常識の範囲内を越えており、職権の濫用と認められれば、その調査は違法となり、その調査に基づいてなされた更正処分は、調査をしていない処分と同じであって、違法となるので、その更正処分は取り消すことができますよ、と言っているのです。

 

「大声で怒鳴り、机を叩いて脅す」ことを、普通の人間は「質問」と感じられるでしょうか。全くもって「質問」ではなく「尋問」ですよね。脅迫による自白の強要と同じではありませんか。みなさんは、そう思われませんか。

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 この名古屋高裁での判決は、税務調査の手法に違法性があれば更正処分を取り消せるという画期的なものである。しかし、実際には、更正処分を受けたら、まず、税務署に異議の申立てをして、却下されれば、今度は、国税不服審判所に審査請求をし、それでもダメな場合に初めて裁判で名古屋高裁の判例を主張できるのだ。

 

 国税不服審判所の職員は、元は税務署員なので、おおよそ公正な判断がなされることは少なく、税務署寄りの判断が示されることが多いと考えられるのだ。

 

 なので、いくら名古屋高裁の判例があるからといって、異議申立てや審査請求の段階で、すんなり税務署の違法調査を認めるとは考えにくいのが現状なのだ。

 

 また、納税者にとっても、更正処分を受けることに抵抗を感じる方も少なくはないだろう。しかし、基本的には、修正申告だろうと更正処分だろうと、払う税金は同じ金額になるはずなのだ。

 

 だって、所得洩れの金額は変わるはずがないのだから。後は、自ら修正申告するのか、税務署から通知してもらうのかの違いだけなのだ。言い替えれば、交通違反で行政処分を受けて、反則金を払うのと何ら変わらなのである。

 

 ただ、気をつけたいことがある。修正申告は、「できる」と法律に規定してあるのであって、「しなければならない」と規定されてはいない。何故なら、修正申告をしたら、納税者自ら権利救済を放棄することになるからだ。修正申告後、納税者に有利な事実が新に判明しても、修正申告で納めた税金を戻してもらう法律上の当然の権利はないのである。

 

 だから、税務署は修正申告を薦めるのだ。

 

 多田税理士は、平成1518日を目前にして、当日の作戦を考えていた。そう、その日は、尾戸巣税務署の山上総務課長が、納税者の小石川宅を訪問する日なのだ。

 

「電話作戦が効いていれば謝罪してくるかも知れないなぁ。それはそれで、よしとすべしなんだろうけど、事をこれ以上荒立てないようにと調査を打ちきるかもしれないし。」と、謝罪してほしいような、してほしくないような複雑な心境の多田税理士であった。

 しかし・・・・・。


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