タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』18章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、根拠のない恐怖感に襲われながら、半ばやぶれかぶれの心境でHPの書きこみを続けていたのであった。)

 

 多田税理士は、悪質で違法な税務調査の対抗手段を更に紹介できないかと考えていた。そして、ハット思い出したことがあった。

 

「あっ、そうだ。『税のしるべ』に納税者が国家賠償を勝ち取った判決があったな。そうだ、悪質かつ違法な税務調査の被害を受けたら、国家賠償もできることを書こう。これは、多くの人にとって有益な情報になるだろうからな。」と、多田税理士。

 

○平成141230

 平成14年12月24日の佐賀新聞には、高知県警が、捜査情報を洩らした地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで、高知署生活安全課の巡査部長を逮捕した、という新聞記事が掲載されています。みなさんもご記憶されていることと思います。

 

 地方公務員と国家公務員との違いはあれ、警察官も税務署員も同じ公務員なのです。税務署員は、守秘義務違反の疑いがあっても逮捕されないで済んでしまうのでしょうか。同じ守秘義務違反であれば、税務署員も警察官と同じ結果にならなければおかしいですよね。

 

 また、平成13年4月16日の『税のしるべ』には、大阪地裁の「許容される限度を逸脱した違法な修正申告の慫慂(しょうよう)に対し」国に対する慰謝料80万円の支払を認める判断を示した記事が掲載されています。この『税のしるべ』とは、大蔵財務協会という財団法人が発行する週刊の税金に関する新聞で、税務署も購読推進している新聞です。

 

 この『税のしるべ』には、国家賠償を認める根拠として、次のような裁判所の判断を示しています。

 

「十分な資料の提示及び説明をせずに調査結果を一方的に押し付け、修正に応じない場合には更に不利益な処分が行われることを暗に明示し、強圧的な言辞を用いて修正申告を迫り、原告の意に基づくものではないことを知りながら修正申告書を作成させてこれを持ち帰ったものであり、修正申告の慫慂として許される限度を逸脱した違法な行為」平成13年3月8日判決。

 

「修正申告の慫慂(しょうよう)」とは、税務署から「修正申告されてはいかがですか?」と言われることなのです。慫慂(しょうよう)とは、「そばから誘いすすめること。そそのかすこと。」と旺文社の国語辞典に書いてあります。

 

 大阪地裁の判断は、「税務署が修正申告しろと強要し、もし修正申告しないのならもっとヒドイ目に会わせるぞ、と強く納税者を押さえつける言葉を発し、納税者が認めていない内容の修正申告書を持ち返った行為は、修正申告をされてはいかがですか、という行為を逸脱しており、納税者の国家賠償法に基づく慰謝料の請求を認めます。」と、いうものなんです。

 

 やはり、納税者を脅して、無理やりに修正申告させていたんですね。大阪でもあれば、日本全国で同じようなことがあっても不思議ではありませんね。

 

 今回の場合も、息子は「税金は払いますよ」と言ったにも拘わらず、「そんな問題じゃないよ」と黒石統括官から言われているんですね。税務調査で「税金を払うだけの問題ではないんだ」と言われると、何か他に重大な問題があるのかと不安になるばかりですよね。何も知らない納税者は、「税金を払うこと以外に何があるんだろうか」と、恐くなってしまいますよね。

 

 通常の任意調査は、申告額が少なければ、不足の税金を払うだけの問題なのです。もちろん、過少申告加算税や延滞税などの懲罰的な課税はあるものの、それも含めて「税金を払うだけ」の問題なのです。

 

 但し、強制調査の場合は違います。俗に言うマルサが強制調査に着手したということは、それは、検事に脱税の罪で刑事告発することを前提にしているんです。逆に言えば、強制調査でない任意調査では、税金を払うか払わないかの問題なんです。もちろん、税金が戻る問題もあります。

 

 黒石統括官らには、大阪地裁の国家賠償を認めた判決に対する反省などは全くなかったのでした。おおよそ、そのような判決が出たことすら知らされない税務署員が多いのではないでしょうか。そう、疑ってしまうのは私だけでしょうか。

 

 憲法17条(公務員の不法行為による国家賠償)には、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は地方公共団体に、その賠償を求めることができる」と、規定されています。

 

「大声で怒鳴ったり、机を叩いて脅す」という行為は、公務員の不法行為ですし、息子夫妻の精神的苦痛は、損害を受けたことになるのではないでしょうか。」

 

 みなさん、違法悪質な税務調査に遭遇した場合、しっかりと証拠をとっておけば、後日、国家賠償を求める裁判も起こせるのです。しっかりと憶えておいてくださいね。

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 多田税理士は、HPの書き込みを終えて考えこんでいた。ズバリ「お礼参り調査はあるのか」。

 

 まるで、ヤクザの仕返しみたいな話なのだが、相手は国家権力を自由に使うことのできる税務署員である。また、ヤクザ的な税務調査を平気で行っているのである。可能性がまったくない訳ではなかったのだ。

 

「う〜ん。お礼参り調査はあるだろうな。だって、沖山先生の話では、修正申告に応じない税理士が相談してきたと言ってたよな。」と、多田税理士。

 

〜『先生のとこはどんな指導をしているんですか。今度、先生の関与先を全部調査しますよ。』〜

 

「ふん。俺の言うとおり修正申告しないならば、お前の関与先を全部調査してやるぞ。調査に来てほしくなかったらおとなしく修正申告しろって言いたい訳か。」と、多田税理士は吐き捨てるように独り言を言った。

 

「もしそうなったら、腹据えてかかるしかないな。任意調査なんだし、こっちの都合のつく時だけ相手すればいいんだからな。」と、多田税理士は開き直っていたのだが、やはり、不安感を完全に拭い去ることはできなかった。

 

 しかし、不安材料ばかり考え込んでも仕方がないことも多田税理士は分かっていたのである。「なるようになるさ」の精神である。自分で自分の不安に負けてしまっては、今までの行動が無に帰してしまうのだ。

 

 多田税理士は、尾戸巣税務署がお礼参り調査に来たら、調査の模様をビデオに収録しようと考えていた。もちろん、ビデオカメラを見た税務署員は「カメラの撮影は止めてください。私達は守秘義務がありますから。」と言うに違いない。

 

その時は、「あなた達の守秘義務は納税者のプライバシーと税務署内部の情報について秘密を守る義務があるんです。納税者は、この税務調査に関してはプライバシーを放棄します。あなた方は税務署の情報を話さなければいいんです。」と、返答すればよいのである。

 

多田税理士は、お礼参り調査が実行された場合、事前に「刑事告発」の準備をせねばならないとも考えていた。それで、インターネットで「刑事告発」について検索してみたら、告発書の書き方についてのHPが簡単に見つかっていたのだった。

 

「刑事告発」できる材料の収集のためにも、ビデオカメラでの撮影や各種レコーダーでの録音も用意しておかねばならないのだ。具体的な物証が必要なのだ。

 

年内の多田税理士のHPの書き込みは終了した。年が明け、事態は膠着状態から動き出すことになる。どのような展開が待っているのか。

 

次号をお楽しみに。


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